表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第四章:二学年一学期・新たなる出会い
98/116

第九十七話:山と海と修学旅行Ⅱ(二日目、夏期球技大会・前半戦ーー感傷)


 あの場から、「これから修学旅行に行ってきます」的な言い方で離れたわけだけど、その前に球技大会だよ。

 そして、五十嵐君たち一年生は、「林間学校のはずなのに、何で海?」と、去年私たちが思った感想を今持っていることだろうし、きっと去年の二、三年生もそんな感じで私たちを見ていたのだろう。


 さて、改めて球技大会についてだが、去年とそんなに変更点はない。

 それぞれの参加する競技に関しては、「去年経験したから」だとか「去年選べなかったから」とか、そんな所だろう。

 私と仁科さん、朝日と和花はバレーらしいが、真衣や霞は去年と同様にテニスを選んだらしい。

 だが、男どもについては、競技がバスケとサッカーということ以外、よく分からない。

 クラスが違うのもそうだが、最近まともに話してない上に、朝日たちが何を企んでいるのか笑顔を浮かべて、教えてくれないのもある。

 メールなどで聞くという手もあるため、本人たちに直接聞いてみても、何故かはぐらかされる。

 出場競技ぐらい、教えてくれても良いじゃないか。生徒会役員だからって、何でも把握できる訳じゃないんだぞ。


「だ、大丈夫だよ。見に行けなくっても、南條君たちは勝ってくれるって」


 仁科さんの妙な優しさが悲しい。


「うん、そうだね……」


 けどまあ、私も役員の仕事として、各場所を一度は見て回らないと駄目だし、朝日たちが変な気を回したと思えば……大丈夫なはずだ。今までの付き合いからして、隠し事なんて今更だし。

 ちなみに、私たちのクラスの試合は第四試合なため、時間的にはまだ余裕がある。


「……あのさ、鍵奈。怖いから」

「……」

「お願いだから、じっと見ないで」

「頑張れ、和花」

「……」


 溜め息を吐かれただけで、他の反応は無かったけど、気持ちだけはきっと伝わってるはず。


「……それ、朝日たちにはやらないでよ。ビビるから」

「……」

「だから、その目は()めい! 怖いから!」


 和花が必死に()めてくるから、じっと見るのは()める。


「そもそも、あんたはそんなに寂しがり屋でもないでしょ。どうしたの」

「……思ってたより、友人が少ないという現実を直視しただけだよ」


 素直に言ったのに、何とも言えない目を向けられた。


「あんたで少ないなら、もっと少ない人に失礼だから」

「……ですよねー」


 そんなこと話しつつ、和花たちの試合が始まりそうなので、話すのを止める。


「私たちは勝つんだから、そっちも勝ちなさいよ」

「勝ってから、また聞かせてよ。その台詞」


 「私たちの試合、和花たちの後なんだけど」なんてことは言わない。


「じゃあ、そうするわ」


 そう返してくると、和花たちの試合は始まった。


   ☆★☆   


「で、一人寂しく見回りか」

「昼休みに、一人寂しく過ごしている御剣先輩に言われたくありません」


 クラスで最初の試合を終え、ある程度の見回りも終え、自販機に水分補給用の飲み物を買っていれば、同じく飲み物を買いに来たらしい御剣先輩と会い、そのまま近くのベンチで話すこととなった。


「お前なぁ……」

「いつものメンバーか生徒会役員たちと一緒じゃなかったら、私は基本的に一人ですよ」


 それを聞いたせいか、御剣先輩が顔を顰める。


「一人、なぁ……」

「あ、冗談とかじゃないですからね?」


 特に(いじ)められているわけでもないし、中学の時みたいに自分から遠ざけた(物理的距離含む)訳でもなければ、私の周りに人は居る。

 でも、それなりに(むな)しくなるのは、誰もいない家。

 生まれる場所を間違えたとまではいかないし、言わないが、時折悲しくなるのは事実だ。「もしかしたら、三人のうちの誰かが帰ってきているかもしれない」と期待して、明かりの無い我が家を見た時は特に。何を期待していたんだか。

 両親がいない理由も、鍵依姉がいない理由も分かってるから、「帰ってきて」とかは言えない。どうしても、我が家から通うとなると遠くなるから。


「……ば? 桜庭?」


 肩を揺らされて我に返れば、どこか心配そうにこちらを覗き込んでいた御剣先輩と目が合う。


「お前さ、一回休め。それか、宮森たちと話せ。今、どんな表情してたのか、分かってたか? 何も感じてないような、死んだような顔をしてたぞ」


 どうやら、私は悲しい(・・・)を通り越して、哀しい(・・・)表情すら出来ていなかったらしい。


「そうですね」


 休めれば良いんだけどね。

 むしろ、何かしてないと不安になるかもしれない。


「もし、それでも駄目そうなら、雪原先生の所に行くんだな」

「……」


 この後に試合があるから、と御剣先輩が去っていく。

 それを見ながら、軽く両頬を叩く。


「……大丈夫、大丈夫。私は千錠学園高等部二年、生徒会副会長。桜庭鍵奈なんだから」


 今の(・・)自分を小声で呟く。

 『桜庭鍵奈(わたし)』は、勉強も運動もそれなりに出来て、いろんな異能に対処できて。嫌なことなどには遠慮なく物言って、千錠学園高等部の生徒会副会長でもあって。何よりーー……


「……っ、あーもう、背負う肩書きが多すぎる」


 夏休みに一掃したいぐらいだ。いっそのこと、暴露してしまおうか。今までの努力が水の泡になるし、バレた後の後始末が大変だろうけど。


「今はネガティブなことを考えたら駄目だ。考えるのは、これからの試合と夏休みの過ごし方。本気(マジ)でどうするべきか」


 一度溜め息を吐いて、頭を振って、現状のある意味『問題』へと切り替える。

 現在進行形で続報を連絡待ちしてる『件』と保留扱いとはいえ、役員である私には夏休みに『大会』が控えているのだ。

 どちらもどうにかしないといけないが、その前に、私は目の前の球技大会を頑張り、進めなければならない。


『その意気で頑張って』


 うん、頑張るよ。無茶しない程度に、ね。




こんな鍵奈さんでも、感傷的になることもあります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ