第九十七話:山と海と修学旅行Ⅱ(二日目、夏期球技大会・前半戦ーー感傷)
あの場から、「これから修学旅行に行ってきます」的な言い方で離れたわけだけど、その前に球技大会だよ。
そして、五十嵐君たち一年生は、「林間学校のはずなのに、何で海?」と、去年私たちが思った感想を今持っていることだろうし、きっと去年の二、三年生もそんな感じで私たちを見ていたのだろう。
さて、改めて球技大会についてだが、去年とそんなに変更点はない。
それぞれの参加する競技に関しては、「去年経験したから」だとか「去年選べなかったから」とか、そんな所だろう。
私と仁科さん、朝日と和花はバレーらしいが、真衣や霞は去年と同様にテニスを選んだらしい。
だが、男どもについては、競技がバスケとサッカーということ以外、よく分からない。
クラスが違うのもそうだが、最近まともに話してない上に、朝日たちが何を企んでいるのか笑顔を浮かべて、教えてくれないのもある。
メールなどで聞くという手もあるため、本人たちに直接聞いてみても、何故かはぐらかされる。
出場競技ぐらい、教えてくれても良いじゃないか。生徒会役員だからって、何でも把握できる訳じゃないんだぞ。
「だ、大丈夫だよ。見に行けなくっても、南條君たちは勝ってくれるって」
仁科さんの妙な優しさが悲しい。
「うん、そうだね……」
けどまあ、私も役員の仕事として、各場所を一度は見て回らないと駄目だし、朝日たちが変な気を回したと思えば……大丈夫なはずだ。今までの付き合いからして、隠し事なんて今更だし。
ちなみに、私たちのクラスの試合は第四試合なため、時間的にはまだ余裕がある。
「……あのさ、鍵奈。怖いから」
「……」
「お願いだから、じっと見ないで」
「頑張れ、和花」
「……」
溜め息を吐かれただけで、他の反応は無かったけど、気持ちだけはきっと伝わってるはず。
「……それ、朝日たちにはやらないでよ。ビビるから」
「……」
「だから、その目は止めい! 怖いから!」
和花が必死に止めてくるから、じっと見るのは止める。
「そもそも、あんたはそんなに寂しがり屋でもないでしょ。どうしたの」
「……思ってたより、友人が少ないという現実を直視しただけだよ」
素直に言ったのに、何とも言えない目を向けられた。
「あんたで少ないなら、もっと少ない人に失礼だから」
「……ですよねー」
そんなこと話しつつ、和花たちの試合が始まりそうなので、話すのを止める。
「私たちは勝つんだから、そっちも勝ちなさいよ」
「勝ってから、また聞かせてよ。その台詞」
「私たちの試合、和花たちの後なんだけど」なんてことは言わない。
「じゃあ、そうするわ」
そう返してくると、和花たちの試合は始まった。
☆★☆
「で、一人寂しく見回りか」
「昼休みに、一人寂しく過ごしている御剣先輩に言われたくありません」
クラスで最初の試合を終え、ある程度の見回りも終え、自販機に水分補給用の飲み物を買っていれば、同じく飲み物を買いに来たらしい御剣先輩と会い、そのまま近くのベンチで話すこととなった。
「お前なぁ……」
「いつものメンバーか生徒会役員たちと一緒じゃなかったら、私は基本的に一人ですよ」
それを聞いたせいか、御剣先輩が顔を顰める。
「一人、なぁ……」
「あ、冗談とかじゃないですからね?」
特に虐められているわけでもないし、中学の時みたいに自分から遠ざけた(物理的距離含む)訳でもなければ、私の周りに人は居る。
でも、それなりに空しくなるのは、誰もいない家。
生まれる場所を間違えたとまではいかないし、言わないが、時折悲しくなるのは事実だ。「もしかしたら、三人のうちの誰かが帰ってきているかもしれない」と期待して、明かりの無い我が家を見た時は特に。何を期待していたんだか。
両親がいない理由も、鍵依姉がいない理由も分かってるから、「帰ってきて」とかは言えない。どうしても、我が家から通うとなると遠くなるから。
「……ば? 桜庭?」
肩を揺らされて我に返れば、どこか心配そうにこちらを覗き込んでいた御剣先輩と目が合う。
「お前さ、一回休め。それか、宮森たちと話せ。今、どんな表情してたのか、分かってたか? 何も感じてないような、死んだような顔をしてたぞ」
どうやら、私は悲しいを通り越して、哀しい表情すら出来ていなかったらしい。
「そうですね」
休めれば良いんだけどね。
むしろ、何かしてないと不安になるかもしれない。
「もし、それでも駄目そうなら、雪原先生の所に行くんだな」
「……」
この後に試合があるから、と御剣先輩が去っていく。
それを見ながら、軽く両頬を叩く。
「……大丈夫、大丈夫。私は千錠学園高等部二年、生徒会副会長。桜庭鍵奈なんだから」
今の自分を小声で呟く。
『桜庭鍵奈』は、勉強も運動もそれなりに出来て、いろんな異能に対処できて。嫌なことなどには遠慮なく物言って、千錠学園高等部の生徒会副会長でもあって。何よりーー……
「……っ、あーもう、背負う肩書きが多すぎる」
夏休みに一掃したいぐらいだ。いっそのこと、暴露してしまおうか。今までの努力が水の泡になるし、バレた後の後始末が大変だろうけど。
「今はネガティブなことを考えたら駄目だ。考えるのは、これからの試合と夏休みの過ごし方。本気でどうするべきか」
一度溜め息を吐いて、頭を振って、現状のある意味『問題』へと切り替える。
現在進行形で続報を連絡待ちしてる『件』と保留扱いとはいえ、役員である私には夏休みに『大会』が控えているのだ。
どちらもどうにかしないといけないが、その前に、私は目の前の球技大会を頑張り、進めなければならない。
『その意気で頑張って』
うん、頑張るよ。無茶しない程度に、ね。
こんな鍵奈さんでも、感傷的になることもあります。




