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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第四章:二学年一学期・新たなる出会い
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第九十六話:山と海と修学旅行Ⅰ(一日目、昼食時に)


今回は、京、鍵奈視点。




 バーベキューなどの匂いが漂う中、カレーを捌いていた朝日を何となく見ながら、いつもならこの状況に文句を言う奴が居ないことに気付く。


「なぁ。そういえば、鍵奈はどうしたんだ?」

「ああ、きーちゃんなら……」


 朝日が向けた視線を追うように、そちらに目を向けてみれば、少し離れた場所で他の役員と共に鍵奈がぐったりしていた。


「あっちこっち駆けずり回っていたのか、ようやく休めたみたい」

「役員である前に生徒だって言うのに、楽しむ余裕すら無いのか。あいつらは」


 本日は晴天なり。絶好の林間・臨海学校日和であるーー鍵奈たち生徒会役員を除いて、は。


   ☆★☆   


 楽しそうな同級生たちを見ながら、羨ましいと思う一方で、リア充たちめ、と思う私はひねくれているのだろうか。


 さて、去年と同様、一、三年生の林間・臨海学校の合間に、私たち二年生は修学旅行を行うことになった。

 つまり、去年会長たちが経験したことを、今年は私たちが経験することになったのだ。()せない。


「……楽しそうなことで」

「別に、こっちに居なくても良いんだよ?」


 そうは言われてもなぁ。


「先輩たちが仕事してるのに、後輩(こっち)が抜けられると思ってるんですか」

「真面目だなぁ」


 双葉瀬先輩は真面目と言うが、私と獅子堂君が抜けない限り、五十嵐君も彼の性格上、抜けられないと思うんだよなぁ。


「さ、桜庭さん!」

「仁科さん? どうしたの。パシられた? それとも、(いじ)められた?」

「ち、違うよ!」


 あーもう、冗談なのに涙目になってるし。


「冗談だから、真に受けない。で、どうした?」

「あ、仁科ちゃん。こんにちは」


 用件を聞いてみるが、双葉瀬先輩に遮られる。


「こ、こんにちは……」

「先輩、話が進まないので遮らないでください。で、用件は?」

「あ、えっと、委員長が捜してて……」


 改めて聞いてみたら、これである。うわ、行きたくねぇ。


「桜庭先輩、あからさまに嫌な顔し過ぎですよ」


 五十嵐君に、苦笑しながら指摘されたし。


「あの、どうするの?」

「行かない」

「うわぁ、桜ちゃん。目が本気(マジ)だぁ……」


 双葉瀬先輩が何か言った(よう)だが、無視するとして。


「私の異能は冷房用じゃねぇんだよ」

「あ、そういうことね」


 何か納得されたが、そういうことだ。

 私の異能が氷属性と分かってからというもの、徐々に暑くなり始めた今、冷房を付けるほどではないが、ちょっと冷気が欲しい人たちから臨時冷房扱いされることが増えたのだ。

 で、現在進行形で行われている林間・臨海学校なのだが、バーベキューなどの火の番をしている人たちは、当然ながら暑いわけで。

 そこで、ちょっとした冷気が出せる私に白羽の矢が立ったのである。解せぬ。


「でも、委員長が担当しているのって、昼食だから……」

「だぁっ、もう! 昼食減らされても面倒くさいし、行くよ」

「行ってらっしゃーい」


 他人事のように見送ってくれた双葉瀬先輩には、先輩も誰かに呼ばれたら良いんだ、という呪詛を送っておく。

 ちなみに、私の呪詛は高確率で効果を発揮するから恐ろしい。自分には効かないけど。


「委員長。私を捜していたみたいですが、何用で? 冷気は出しませんよ?」

「うん、来るのが遅いから、そう思われていることは予想出来てた」


 仁科さんと戻ってきてみれば、そう言われた。


「で、用件は?」

「あれ」


 委員長の指が()された方を見てみたら……何か荒れてた。


「うわっ、肉が焦げたー!」

「ちょっ、こっちに飛ばさないでよ!」

「あ、ご飯がお粥並みに柔らかい……」

「逆にこっちは固いよぉ……」


 何だ。いつもの光景じゃないか。


「何も無さそうだし、私は食べさせてもらうよ」

「いやいやいや、どうにかしてあげてよ」

「料理をする人としない人の差が出ただけじゃない。お嬢様方は分かってるのか、下手に近寄らないようにしてるし」

「いや、そうなんだけど」


 一年生はともかく、私たち二年生や三年生は去年経験したんだから、自分が出来るか出来ないかは覚えておこうよ。

 あと、先生方。このことに何らかの目的があるのだとしても、もうこのパターンは止めようか。


 その後、何とか昼食を終えれば、私たち二年生は修学旅行先に行く準備をしなくてはならない。


「それでは先輩方。私たちは修学旅行に行ってくるので、三人で頑張ってください」

「ああ、お前らも頑張れよ。あと、獅子堂。桜庭の制御、頑張れよ」


 会長、何言ってるんですか。

 いつも暴走しているような言い方は止めてほしい。


「まあ、程々に」


 そして、獅子堂君も獅子堂君で否定してくれないのか。


「とりあえず、仁科さんのガードは私がしておきますから、安心してください」

「あ、うん」

(むし)ろ、桜庭先輩が一緒の方が、安心できますよね」


 五十嵐君、言うようになったなぁ。


「それじゃ、行ってきます」


 獅子堂君がそう挨拶したので、私も「それでは」と会釈してその場を後にする。

 なのでーー





「本当、何も無いと良いけどねぇ」

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ。桜ちゃん、トラブルメーカーの気があるみたいだし」


 その場に残された三人が、そんな話をしていたことを、私は知らない。



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