第九十五話:悩んだ末に出した結論は
「疲れた」
机に伏せれば、「ご苦労様~」と同じクラスである仁科さんがそう声を掛けてくる。
今日は、一時間目が終わった後の休み時間から生徒会室に行っては書類整理を繰り返していた。
パソコンも活用しているとはいえ、まだまだその数は多く、先輩たちの卒業前には第二生徒会室に置いてある書類の大半を片付けたいところだが、どうなることか。
「来週から修学旅行だけど、そんな調子で大丈夫なの?」
顔だけ声の主の方に向けてみればーー……
「和花」
珍しく髪を首の後ろで纏めて、肩から前に流している和花が居た。
「今更だけど確認。球技大会、二人はバレー?」
「うん」
「そうだね」
私の場合は、去年もバレーだったしね。
「まあ、どれにしたとしてもさ。生徒会でのストレスを私たちにぶつけないでよ?」
「だって、今回はクラス分けのせいで、みんな敵同士だもんねぇ」
和花の要望にも聞こえる言葉に、朝日がひょっこりと顔を覗かせてくる。
「きーちゃんってば、ストレスのせいで怒りをボールに加えてるからか、かなり威力が増すし、ラインオーバーになったりするけど、何より気が本気だから、隣で見てても怖いんだもん」
「それが敵になるなら尚更よね」
あ、二人の容赦なさに何か泣きそう。
でも、そうか。それを懸念して、そのために和花がわざわざ言いに来たのね。
「んー、でも大丈夫じゃないかな? ストレス発散なら、ちょっと考えてるし」
私がそう言えば、朝日と和花が顔を見合わせ、
「止めて!? 何も知らない人相手に、あんたの本気をぶつけてあげないで!」
「いくら私でも、きーちゃんの本気を止められる自信は無いよ!?」
全力で止めに来られた。
この際、理由が分からなそうな仁科さんは放置するにしても、朝日と和花は夏休みの件を知ってそうだし、その事だと思ってるんだろうなぁ。間違っちゃいないけど。
「とにかく、二人が心配してるのは分かったし、大丈夫だから」
ね? と言っても、二人がまだ疑いの眼差しを向けてくる。信用無いなぁ。
「……まあ、あんたのことだから、理性を失ったり、箍が外れるレベルになるまで暴走するなんて事は無いでしょうけど」
溜め息を吐いたかと思えば、和花がそう言う。
学校行事で理性を失ったり、箍が外れるなんてことは、余っ程のことが無い限り、有り得ないとは思うんだけど……そうか。そういうのに関しては、私は短気に見えるのか。
「きーちゃん、別に短気だとか言ってるわけじゃないんだから、そんなに気にしなくても良いよ」
だったら、心を読んだような言い方はしないでください。朝日さん……。
☆★☆
そういえば、最近生徒会室に書類処理のせいで入り浸っているからか、さっき来てくれた朝日や和花以外とまともに話せていない気がする。
「……」
ぼんやりと空を見上げる。
コーヒーを飲むために休憩するなら生徒会室でも良いと思うんだが、時々こういう時があっても良いと思うんだよ。
そんな私の手にあるのは、コーヒーはコーヒーでも缶コーヒーだけど。
「う、う~ん」
軽く伸びをしてみる。
朝日たちに、ストレス発散について考えてるとは言ったけど、その前にダウンしそうだ。
というか、私の場合、ストレスを溜めやすく、上手く発散できてないのかもしれない。
「つか、それじゃあ駄目じゃぁん……」
何だろう。疲れ過ぎてるのか、まともに考えようにも、考えられてる気がしない。
そもそも、ストレスを(無理矢理な部分もあるが)意欲に変えて、バイト先である『シュリュッセル』で発散してるせいか?
「むー……」
中学の時よりはマシかと思ったけど、生徒会役員になってから、高校は高校でストレス溜めまくってる気がする。
「ま、こうやって悩んでても仕方ないし」
立ち上がって、飲みきった缶コーヒーをゴミ箱へ入れる。
「もう、なるようになれ、だ」
さぁて、残りの仕事も頑張らなければ。




