第九十二話:今から開始するはずの選挙が、始まる前に終わっていた件について
それは、一人のとある委員会の委員長となった子からの言葉だった。
「もう生徒会って、今のメンバーで良くないですかね?」
それに同意するように頷く、話を聞いていた新たな委員長たち。
挨拶に来てくれたのはありがたいんですけど、わざわざそれを言って、生徒会室から出て行かないでほしい。
今思えば、綺麗にーーそれはもう綺麗に、私の生徒会を辞めるという意志にヒビを入れに来ていたのだろう。
同級生たちと先輩たちにより、すでに外堀は埋められていたのだ。
ーーそんな本日は、生徒会役員選挙及び信任選挙当日である。
何故、修学旅行後にあるはずの選挙が今から行われようとしているのかと言えば、先日先輩たちが言っていたように、修学旅行に於ける生徒会役員の位置付けに関わってくる。
詳細の諸々を省けば『前倒し』ということである。解せぬ。
「……桜庭。生きてるか?」
「辞めたい。生徒会の仕事、辞めたい。任期満了したから許してくださいよ。マジで解放してください」
獅子堂君が何か聞いてきた気もするが、何か余計なことを口走りそうな気がする。
「信任選挙で、票が入らなければ良いんですよね?」
「いい加減に辞めるのを諦めたら?」
「嫌です」
最後の最後まで諦めないぞ。私は。
それにしても、何も知らない一年生たちよ。
きちんと先輩たちから話を聞いたのかな? それとも入ったばかりで右も左も分からないから、立候補者が居なかったのかな?(すっとぼけ)
「この時期に一年が立候補できないのは、桜庭も知ってるだろ」
もちろん、知ってますよ。一年生が立候補者出来るのは、一学年時の後期役員選挙からだし、だからこそ、今は五十嵐君以外の一年生役員が居ないことは。
「だから、秋までは一緒だね。桜ちゃん」
「嫌だぁぁぁぁ……」
「というか、先輩たちは三年生だから、どっちみち秋までしか居ないんじゃ……?」
「まぁ、どっちにしろ任期満了☆ だからね」
結局はこのままなのか。
「つか、お前のことを知らない一年生たちが、何も考えずに票を入れそうだよな」
何で、地味に抉りに来るんだろうか。この人たちは。
「みんな、メリットとデメリットを考えてのことだろ。俺たちも来年は受験生だし」
「それに、書類が残っていなかったとしても、桜ちゃんは残ることになってたかもねー」
その可能性に関しては、分かっていても言わないで欲しかった。
「桜庭」
「何ですか」
「せめて、もう少しだけ頑張ってもらえないか? 五十嵐も入って五人になったっていうのに、また四人で捌くようなことはしたくない」
「そうですか。会長の本音が後者であることは分かりました」
四人での苦労を知る会長には悪い気もするけど。
「……五十嵐」
「何ですか?」
「少し良いか?」
獅子堂君と五十嵐君が、こちらに背を向けて、こそこそと何か話し始める。
そして、話し終わったのか、五十嵐君がこっちに来る。
「あの……先輩。本当に生徒会、辞めるんですか?」
「辞められない可能性の方が大きいけどね」
「そうなんですか……先輩が居なくなったら、寂しくなりますね」
「……」
獅子堂君から、こう言えって言われたのかは分からないが、五十嵐君が寂しそうなのは分かる。
「そうだよ。桜ちゃんが抜けたら、生徒会室が男だらけになっちゃうじゃん。僕は嫌だからね? せっかく女の子が来てくれたのに、前みたいになるの」
「……先輩。私のこと、そういう風に見てたんですか」
「えっ!?」
私がやや引いたように言えば、双葉瀬先輩が「何で引いてるの!?」と言いたげに反応する。
「言いたいことは分かるんだが……そうだったのか? 奈月」
「律!?」
「先輩。さすがにそれは……」
確認するような一ノ瀬先輩にぎょっとし、目を逸らしながら言う獅子堂君に、彼に同意するように頷く五十嵐君を見て、双葉瀬先輩ががっくりと肩を落とす。
ーーが、下がっていた顔を、勢い良く上げてきた。
「とにもかくにも、今期は頑張ろう? ね?」
笑みを浮かべて言われても、先程の発言が取り消されるわけでもないのだが。
「……年上や先輩っぽく言われてもなぁ」
「実際に年上だし、先輩なんだけど!?」
もし、私が抜けた生徒会メンバーが仁科さんに傾いたり、この先うっかりでも何でも油断して、立て直しの再スタートなんて嫌だから。
去年の頑張りを無駄にはしたくないから。
「分かりました。全ては結果次第ですが、もし承認されたら、引き続き在籍しますよ」
ただし、だ。
「私を彼女に会うための口実にしたら、同じ役員とはいえ、遠慮無くぶっ飛ばしますから」
自分の命は自分で守ってくださいね。役員の皆さん。




