第九十話:来てしまった通知
それは、いきなり訪れた。
着信音に気づき、開いた受信ボックスにあった『お知らせ:桜庭鍵奈殿へ』となっていた件名のメールを開いてみればーー
『十代後半の新たなる鍵錠候補の試験官として命じる。日時と場所は決まり次第、また後日連絡するーー』
ついに来てしまったのだ。この日が。この時が。
「これはーーチャンスなのか、ピンチなのか。どっちなんだろう?」
私は、どうすることが正解なのだろうか。
☆★☆
「どうするのよ」
和花の問いが、重く伸し掛かる。
今、この場に居るのは、私と和花だけだ。
「中学の時の面々が来たとしても、何とか誤魔化せるだろうけど、この学校の面々が来たりしたら……」
「分かってる。それは、分かってる。でも、私は断れないから」
七年前に『アレ』を引き受けてしまったから、今回のことだけではなく、上からの命令や指示に対して、意見を言うことは出来ても、断ることは出来ない。
「バレたらバレたで開き直れば良いかなぁ、って思ったけどさ。もう、そんなに時間がないのを知らされると、ね」
「たとえ、その知らせがなかったとしても、いつかはバレていたことよ。私のことに関してもーーううん。朝日たちのことについても」
私はともかく、朝日や京たちのことは、卒業まで何としても隠さなければならない。
「……ねぇ、和花」
「何よ」
「楽しもうね。修学旅行も文化祭も体育祭も」
「……鍵奈」
顔を顰める和花に、笑顔を向ける。
「大丈夫、大丈夫。楽しめなくなる前に、存分に楽しむよ。来年受験生だしね」
だからさーー
「夏休み辺りに予定が無ければ、みんなで出掛けようかと思うんだけど」
「まあ多分、出掛けられるのは今年だけだろうしな」
お、京は賛成なのかな?
「行くにしても、どこに行くの?」
「んー、これだけの人数だと、遊園地とか水族館とか?」
「それは追い追いで良いだろ。行く時期によって、考えればいい」
そりゃそうなんだけど。
「修学旅行があるじゃんとか言おうと思ったけど、基本的に班別行動だから、偶然会っても一緒には回れないかもしれないしね」
「……本当、何で朝日か和花も一緒のクラスじゃなかったのかなぁ。落ち着いてきたとはいえ、私、まだ仁科さんと一緒にいないといけないんだけど。しかも、役員だから、ストレス増えそうなんだけど」
去年は知り合う前だったけど、今は違う。知り合ってしまい、『友人』になったから、彼女を見捨てることは出来ない。
「その、修学旅行だけどさ。雪原先生って、来るのか?」
「どうなんだろ? 二年生を担当してる先生たちは来るんだろうけど……」
あの保険医は一緒に来るのだろうか? 出来ることなら、一緒に来てもらえた方が、何か遭ったとしても、いろいろと相談できるのだが。
「去年は一、三年生の林間・臨海学校、遠足と同時進行で、途中で抜けるような形で二年生が修学旅行に行くみたいな流れだったから、かなり慌ただしかったのは覚えてるんだけど……う~ん」
「そうだったのか。なら、聞くしかないのか」
「それなら、生徒会の先輩たちには、私から聞いてみるよ。だから、御剣先輩んとこに誰か聞きに行ってくれると助かる」
「……あの先輩、何組なの?」
あ、それも調べなきゃ駄目なのね。




