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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第四章:二学年一学期・新たなる出会い
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第八十九話:新たな仲間


 入学・始業式を終え、一日経った。

 去年同様、式が終わった途端に、部活ごとの勧誘が始まっていたのだが、戸惑う新入生たちに、去年の今頃がすでに懐かしく思えてくる。

 だが、今日からは、所属する部活や委員会、林間学校か臨海学校(私たち二年生は修学旅行)の班決め、夏期球技大会の出場選手などを決める必要はあれど、本格的に授業開始である。


「そういえば、桜庭。お前、散々庶務が欲しいって言ってたよな?」


 一ノ瀬先輩が聞いてくる。

 ちなみに、本日は今までの書類を捌くのではなく、新学期からの書類(と関係書類)を捌いています。


「さすがに、役員でもない仁科さんに手伝わせられませんし、来期も空席にしておくわけにもいかないんですよね?」

「そうだな」


 あと少しで、私が居る『副会長』という地位も期間切れになる。


「そこでだ。中等部で生徒会していた奴に声を掛けておいた。挨拶は今日来るように言ってある」

「あ、そうなんですか」


 どんな子が来るのだろうか?

 それに、中等部の、とはいえ、生徒会経験者とはありがたい。おかげで、処理しきれていない先輩たち()書類(遺産)が片付けられる。

 そんな会話をしていれば、扉を軽くノックする音が聞こえてきた。


「どうやら、ちょうど来たみたいだな。入れ」

「失礼します」


 会長が許可すれば、扉が開き、その人物が入ってくる。


「ってあれ、五十嵐君?」

「え、桜庭先輩?」


 役員たちからも「知り合い?」って、目を向けられる。


「昨日会ったんですよ。そこで、少し話しただけです」


 彼が高等部の敷地内で迷っていたことは、言わなくても良いだろう。


「昨日はありがとうございました」

「あぁ、気にしなくて良いから」


 礼を言う五十嵐君にそう返せば、会長が咳払いして、私を含む役員たちに言う。


「……コホン。個人的な挨拶は良いから、とりあえず、自己紹介しろ」

「あ、はい。五十嵐渚(いがらし なぎさ)と言います。一ノ瀬先輩から生徒会庶務の打診を頂き、本日はその返事をしに参りました」

「それで、どうなんだ? 引き受けてくれるのか」

「はい。引き受けるつもりではいたのですが、半月後に役員選挙があると聞いたので……」


 ああ、そっか。


「そうなると、私の時と同じパターンか」

「え……?」

「あ、演説による信任選挙化か」


 五十嵐君が知らないのは無理ないが、双葉瀬先輩たちが思い出したらしい。


「顔触れが違うだけで、基本的には変わらないだろうし」

「去年は荒れたもんねぇ」

「それは、先輩たちの自業自得であり、私と岩垣先輩たちは、とばっちりを食らっただけです」


 本当、去年はいろいろとあったよなぁ。


「えっと……」

「ああ、ごめん。引き受けついでに、今からもう仕事していって貰えないかな? 手が欲しくて欲しくて」

「は、はい。俺で良ければ」


 頼んでみれば、五十嵐君がこくこくと首を縦に振る。


「別に構いませんよね? 会長」

「ああ」

「じゃあ、そこにある書類の仕分けからお願い」

「分かりました」


 会長からの許可も出たので、早速、五十嵐君に作業を頼む。


「……」

「……」

「……」

「……」

「……ねぇ、誰か何か話してくれない?」


 数分、無言で仕事していたら、耐えきれなくなったらしい双葉瀬先輩が口を開く。


「雲もあまりない青空なので、桜が綺麗です」

「うん、そうだけど、そうなんだけど! そうじゃなくって……!」


 窓の外に目を向けて話したのに、双葉瀬先輩はお気に召さなかったらしい。


「なら、そうですね……そういえば、風紀委員会の委員長って、誰がなるんですかね? 来週から委員会と部活の双方が活動開始になるわけですが、委員長になった人は、みんな挨拶に来るんですよね?」


 生徒会業務を手伝いに来た当初に、ちょっとだけそんな話を聞いたのを思い出す。


「ああ、そうか。桜庭と獅子堂は、去年の今頃はまだ居なかったもんな。でも、その認識で間違っていない。だが、時間が時間だからな。委員会が終われば、一斉に来るかもしれない」

「うわぁ……」


 マジですか。


「ま、何とかなるでしょ。去年もそうだったし」

「終われば、いつもはそんな感じだが、今年の場合はこれからだぞ」


 そう話し合う先輩たちだけど、少し遠い目をしてるのは分かってるぞ。


「五十嵐君。加入して早々、もうすでに前途多難だねぇ」

「いえ、俺は何とも……」

「まだ俺たちが居る時点で、桜庭の時よりはマシだろ」

「その台詞、言い換えてブーメランね。獅子堂君」


 忘れたとは言わせんぞ。


「……そろそろ休憩するか。来たばかりの五十嵐はともかく、俺たちは働きっぱなしだし」

「じゃあ、用意してきますよ。五十嵐君。君はお茶とコーヒーと紅茶、どれが良い?」

「あ、手伝います」


 飲みたいものを聞いてみれば、五十嵐君が書類整理していた手を止めて、立ち上がろうとする。


「良いから良いから。どれが良いかだけ言って」

「……じゃあ、お任せします」


 申し訳なさそうな顔をされると、こちらが申し訳なくなってしまう。


「ん、分かったよ。みんなは?」

「今日のおやつに合わせてー」

「任せる」

「俺も任せた」


 こいつら……自分で決めるの、面倒くさがってんな。


「分かりました。では、持ってくるまでにスペース確保しておいてくださいよ」

「ああ」


 もう使い慣れた簡易キッチンに向かい、冷蔵庫の中を確認する。


「もう春だからね」


 冷蔵庫から『それ』を取り出せば、あとは飲み物を用意するだけである。


「あー、やっぱり無いかぁ」


 洋菓子(ケーキ)用の皿やフォークなどは予備で何枚かあるが、和菓子用はあまり枚数がない。

 洋菓子用に乗せても良いが、今回のはどちらかといえば、『ザ・和菓子』と言えるようなものだから、出来ることなら和菓子用の皿に載せたい。


「ま、素直に言えばいいか」


 そもそも、そのぐらいで気にするような面々じゃないだろうし。

 だったら、後は盛り付け方で誤魔化せばいい。……誤魔化せる気もしないが。


「お待たせしました。今日のおやつは『六扇庵(ろくせんあん)』の『桜餅』です」

「『六扇庵』か」


 ちなみに、バレンタインの時のように、私が買ったものではない。


「五十嵐君もどうぞ」

「あ、ありがとうございますっ」


 お茶も差し出せば、自分の方に寄せて、口を付け始める。


「さて、五十嵐に自己紹介させておきながら、こっちがしないというのも悪いからな」

「なら、役職順で行きますか?」

「だな」


 確認してみれば、頷かれたので、「分かりました」と返しておく。


「三年二組所属。現生徒会会長の一ノ瀬律だ。分からないところがあれば、みんなに聞けばいい」


 そして、そのまま丸投げなんてこともあるんですよね。


「二年一組所属。現生徒会副会長、桜庭鍵奈です。まあ、見ての通り、紅一点です」


 ずっと触れないでいたが、クラスは去年と同じ一組です。来年も一組だったら、ビンゴである。つまり、リーチ。


「三年一組所属。現生徒会書記の双葉瀬奈月。まあ、好きなように呼んで」


 会長とはクラスが分かれたんだ。

 何てことだ。去年みたいにギリギリまで粘ってもらえないじゃないか。


「桜ちゃん。僕、律の保護者じゃないんだから、そんな残念そうな顔をされても困るんだけど」


 おや、顔に出ていたのか。


「二年四組所属。現生徒会会計、獅子堂薫。……って、どうした。桜庭」

「いや、何でも無いよ?」


 獅子堂君は和花・風峰君と一緒ですか。そうですか。

 ちなみに、私たちのクラス分けは、私と仁科さんが一組、真衣と霞が二組、朝日と京が三組、和花と風峰君(と獅子堂君)が四組という分け方だ。見事に、ペアで分かれたなぁっ!


「何か、クラス分けで、仲が良い子と分かれたみたいだよ」


 よく知ってますね。


「そう言う双葉瀬先輩は、会長と別々なわけですが」

「薫!? 君もそういう風に見てたの!?」

「じゃあ、会長が双葉瀬先輩の保護者ですか」

「ちぃっがぁぁう!!」


 多分、今までの付き合いで一番の叫びかもしれない。


「ふふっ。みなさん、仲が良いんですね」

「これから君も混ざるのに、何で他人事?」

「何ででしょう?」


 でも、気持ちは分かる気もする。

 思いも寄らない場所に、いつの間にか自分が居るというのは、きっと不思議な感じがするのだろう。


「まぁいいや。さっさと食べて、業務を再開させますよ。油断してると溜まりますからね」

「反論できないのが悔しい……」


 ぐぬぬ、と唸る先輩を余所に、小さく切った桜餅を食べる。

 あぁ、桜餅が美味しい。



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