第八十七話:新入生と在校生
第四章:二学年一学期・新たなる出会い
そしてそれは、目に見えぬ分岐点であり、決断の時は迫る
今回は後輩(五十嵐)、鍵奈視点
『第八十三話』から連続投稿しています。まだの人はそちらからどうぞ
春。それは、出会いと別れの季節である。
「あー……、迷ったなぁ」
中等部から上がり、今年から高等部に通うことになったのだが、やはりと言うべきか、その敷地面積は中等部よりも広く、現在進行形で僕は迷っていた。
だからこそ、そんな中で出会った人のありがたさと言ったらーー……
「っ、」
一瞬、魅入ってしまった。
ふわりと桜の花びらが風により巻き上げられ、目の前に居た人ーーおそらく、先輩なのだろうーーの黒髪を靡かせた。
その人は、ずっと見ていた僕の気配に気づいたのか、彼女の目がこっちに向けられたことで、僕はまた見入ることになった。
「君……もしかして、迷ってた?」
「っ、あ、はい。お恥ずかしながら……」
話し掛けられ、我に返れば、急に恥ずかしくなってきた。
この年齢で、しかも学校で迷子って……
「恥ずかしがる必要は無いと思うよ? 内部生でも、外部生でも、慣れないと結構迷う子がいるから」
やはり、目の前の人は先輩だったらしく、軽く自己紹介しつつ案内されながらも話を聞いていれば、他にも何人かが迷っているらしい。
それに対し、迷ったのが自分だけじゃないことに安心するべきか否か。
「あ、はい。一名見つけましたので、今案内中で……え? はい、はい、分かりました……」
途中、携帯でどこかに連絡を入れていたみたいだけど、どうにも雲行きが良くない。
その後、先輩は携帯を切りながら、「私だって、手が足りないんだよ。風紀はどうした、風紀は」と、ぶつぶつ言っていた。
「それじゃ、五十嵐君。ここまで来れば、大丈夫かな?」
「はい。案内、ありがとうございました」
お礼をすれば、「どういたしまして」と言って、先輩はこの場から去っていく。
ただ、この時の先輩ーー桜庭先輩が、高等部の生徒会役員だということを知るのは、もう少し先のことだ。
☆★☆
偶然居合わせた後輩を、誰でも分かる通りまで案内した後、私は人使いの荒いあの会長の頼まれ事をするために、ある場所に向かっていた。
「ったく、別に私である必要がないでしょうに」
そもそも、岩垣先輩の推薦で生徒会に入った私は、来月にある『前期生徒会役員選挙』当日になれば、いやでも生徒会役員という職務から解放され、次こそは全校生徒の意に添った生徒が選ばれるはずなのだ。
だから、私は立候補をするつもりもなければ、推薦されても逆に困るわけで。
まあ、私の流されやすい部分も悪いのだが。
「……」
何気なく、晴れ渡る空と咲き誇っている桜に目を向ける。
まさかこんなことをすることになっているとは、去年の今頃は想像すらしていなかった。
「さーくらちゃん!」
「ーーっつ!?」
いきなり呼び掛けられて驚けば、思っていた以上に肩が上がる。
「な、なっ、双葉瀬先輩!?」
何故、ここにいるのだ。
「んー? 様子見かな。律の奴がまた無理を言ったんじゃないのかと思ってね」
あー、なるほど……って、そうじゃない。
「確かに、頼まれはしましたが、先輩の手を煩わせるようなものでもありませんよ?」
何か問題があっても、異能を使えばいいだけだし、いざとなれば、身体能力だけでもどうにかなるだろう。
それに、一ノ瀬先輩からの電話の内容は、『そっちに奈月が行ったと思うから、気をつけろよ』っていうものだったし。
「面倒の有無の問題じゃないんだけどなぁ……」
双葉瀬先輩が困ったように言う。
うーん……。
「それじゃ、一緒に来ます?」
「いいの!?」
言ってみれば、先輩が嬉しそうに返してくる。分かりやすい人だなぁ……って、いや、私が分かるようになったのか。
第一、ストーキングされるよりは、一緒に歩いていた方がマシだ。
「それで、用件は何ですか? 本当に様子見だけというわけでも無いですよね?」
「本当に様子見だけだよ? 何も疚しいことは無いから」
「有るんですね、疚しいこと」
目を逸らす双葉瀬先輩に、疑いの眼差しを向ける。
「え、いや、何を勘違いしているのかは知らないけど、勘違いだから!」
「私相手に、そんな必死に弁明されても困るんですが」
これが朝日たち相手だと、笑い話にもなるんだけど……そういえば、春休み中もまともに話せた記憶がない。
京は朝日と進展することはあっただろうか?
「双葉瀬先輩」
「ん?」
「受験勉強、頑張ってくださいね」
そこで固まる双葉瀬先輩を放置して、私は自分のクラス確認に向かった。




