第八十四話:卒業式
先に咲いていた梅の花と、咲き始めた桜の花が風に乗り揺れる季節。
いつも通りのはずの学校が、いつも通りの学校には思えず、それでも、学校に向けて、歩みを進めていく。
そう、今日は『卒業式』ーー
☆★☆
『それでは、そろそろ時間となりますので、卒業式の方を執り行いたいと思います。ーー卒業生、入場』
三年生の学年主任の言葉で、拍手の中、入場してきた卒業生たちが順に席に着いて、卒業式が始まった。
理事長や校長を初め、様々な人たちが祝辞を述べていく。
ーーけど、良かった。何とか間に合って。
式にも会にも。
『卒業証書・授与』も終わり、次は送辞と答辞だろうか。
送辞は一ノ瀬先輩が、答辞は岩垣先輩がしていた。
これは、お別れ会の時に聞いたのだが、岩垣先輩が答辞担当として選ばれたのは、生徒会長をしていたからじゃないのか、と有栖川先輩も言っていた。そこに関しては、私も同じ意見だ。
歌を歌えば、卒業式は終わりに近づく。
拍手が響く中で、卒業生が退場していくのを見送れば、ほっと一息吐く。
ーーまずは一段落、か。
私たち在校生側も解散になれば、移動を始める。
だが、私のやるべき事は、まだ終わっていない。
「それじゃ、きーちゃん」
「頑張ってこい」
「はいはい。行ってきますよ」
朝日たちに見送られ、教室に向かうみんなとは別に、体育館に向かう。
「卒業式、終わったね」
仁科さんが駆け寄ってくる。
「まあ、何とかね。けど、まだお別れ会が残ってるから、もう少しだけ頑張らないと」
「次が本当の、お別れなんだね」
私よりも短かったとはいえ、仁科さんも多少は話したりしたためか、どこか寂しそうではある。
「桜庭さん。大変だと思うけど、頑張ってね」
「なぁに? 仁科さんこそ、何か他人事みたいな顔してるけど、裏方で関係者なんだから、ちゃんと責任もって、最後まで手伝ってもらわないと困るんだけど?」
「ご、ごめん。言葉が足りなくて」
別にそういう意味で言ったわけでは無いのだが、つい朝日たちみたいに話してしまった。
「いや、こっちも言い方間違えたから、お相子ってことで」
「そうだったの?」
「気にするレベルじゃないけどね」
話してる間に、体育館に着く。
さぁて、気合いを入れ直さなければ。
☆★☆
お別れ会は、全員参加の立食パーティーである(ちなみに、今は昼である)。
私たち生徒会の出し物があったり、最後のチャンスとばかりに、あちこちで告白大会があったりと、ぶっちゃけ、後夜祭のノリと変わらない。
「もう、やだ。油断しすぎた……」
滅多なことでミスしないから、油断していた。
ただ、喜ぶべきは、劇とか演奏中じゃなかったことだろうか。
「噛んじゃいけない所で噛むとかっ……!」
「しかも、一回だけじゃなく、連続だもんな。というか、一体どうした」
「宮森神社でお祓いする? ん?」
朝日さん、貴女は抉りに来てるんですか。
つか、珍しく連続で噛んだからって、お祓いを勧めてくるとは思わなかったよ。
「二人とも、容赦ないわね」
「つか、桜庭は何で間違ったぐらいで悩んでるんだ。いつもなら、そんなに悩まんだろ」
「まあ、色々あるのよ。色々と。ところでーー」
和花が話を逸らすつもりなのかは分からないが、こちらに目を向けてくる。
「もうすぐ春休みな訳だけど、あんたの両親は、またバカみたいに送りつけてくるのかしら?」
それを聞いて、思い出す。冬休みに何にも無かったから、油断していた。
「どうかなぁ。冬休みに何も無かったから、倍になるか、いつもの量か……」
「なら、止めなさい。全力で」
「効果無いの、知ってるでしょ」
やるだけはやっているが、私や鍵依姉を含める身内が諦めているからなぁ。
「桜庭」
「どうしたの?」
「仁科、見なかったか?」
「見てないけど……」
周囲を見てみるが、姿が見えない。
「外は見た?」
基本的に出入り自由なので、外に居るのかもしれない。
ーーまさかとは思うが、こんな日にまで絡まれてるとか、無いよね?
つか、絡んでませんよね? 上級生の方々。
「こういう時まで、問題を起こさないでほしいなぁ」
何か遭ってからじゃ遅いってのに。
「私たちも捜す?」
「大丈夫。ただ、見掛けたら連絡して。獅子堂君も」
「分かった」
とりあえず、会場外から捜してみないと。
前書きには書きませんでしたが、冒頭から最初の☆★☆までの視点は、鍵奈ではありません。




