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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第三章:一学年三学期・『春』の訪れ
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第八十三話:卒業式準備


「さあ、学年末試験も終わったことですし、急ピッチで卒業式の準備をしていきましょう!」

「何か、スゲー生き生きしてるな。桜庭の奴」

「試験が終わったからじゃないかなぁ。あと、誤解を生む前に言っておくと、あれは完全に追い詰められてるっぽいし」


 こちらを見つつも、少し遠い目をしながら有栖川(アリス)先輩と岩垣先輩が何やら言っているが、今の私はそれどころではない。

 現在、新旧生徒会役員が(おも)に講堂で、卒業式の準備を進めている。

 今回の卒業生(メイン)だというのに、岩垣先輩たちに手伝わせるな、と言いたいところだが、全校生徒の手を借りてもまだ少し足りないとか、どれだけ規模がデカいんだよ。千錠高校。

 ちなみに、卒業証書は『千錠学園高等部』となっており、鍵依姉から見せてもらった時そうだったから、そうなのだろう。


「桜庭ー。あんまり慌てたりすると倒れるぞー。お前には前科があるんだからなー」

「誤解を生むような言い方をしないでもらえます!?」


 突っ込みにも体力使うんだぞ、と思いながらも、思わず突っ込んでしまう自分が嫌になる。

 つか、雪原先生相手だと、ほとんどツッコミに回ってる気もするんだけど、気のせいか。


「けど、雪原先生の言い分も尤もだろ。それに、お前が欠けたら意味がない」

「それぐらい、分かってますよ。土日返上するつもりで頑張りますよ」

「あ、いや、そういうことじゃなくて……」


 一ノ瀬先輩が頭を抱え出す。

 『お前が欠けたら意味がない』って、士気的な意味で、ですよね? 流れから行って、誰も恋愛的な意味では捉えてませんよ。


「頭を抱えてるとこ悪いが、一ノ瀬は送辞は出来たのか?」

「まあ、何とか。桜庭にも急かされましたから」


 気づけば、何やら二人で話していた。


「そういや、桜ちゃん」

「何ですか?」

「もの凄く怒りそうだから、言わないようにしていたんだけど……」

「だから、何ですか」

「卒業式の後にある二次会っぽいものに、在校生代表で生徒会が、何らかの出し物をしないといけないんだけど」


 ……無言で携帯を取り出した私は悪くないはずだ。


「待て待て待て!」

「というか、どこに電話する気だ!?」


 雪原先生と岩垣先輩の動きが、瞬間移動並に早かった。

 きっと、鬼気迫る、とはこういう時に使うのだろう。それぐらい二人の表情から、笑顔で怒っているのが分かってしまえたから。


「仁科」

「はい」

「今すぐ、宮森と南條を呼んでこい。『桜庭』と『卒業式』って言えば通じるはずだ」


 えぇ~……


「朝日と京を呼ぶんですか?」

「残念そうな顔をするな。このっ、仕事中毒(ワーカホリック)がっ!」


 酷い。


「つか、仕事増やしても、疲れだけはどんどん溜まっていくぞ」

「学生の本分や仕事は勉強ですから、こういう準備は入りません」

「揚げ足を取るな」


 メガホンみたいに丸められた紙の束で、パコン、と(はた)かれる。


「どちらにしろ、あいつらを呼ぶのは決定事項だ」

「分ーかーりーまーしーたーよー」


 手が増えると思えばいいのだ。

 それにしても、二次会の件、どうしよう?


   ☆★☆   


「もう、きーちゃんの能力をフル活用すれば良いじゃん。何のための異能なの」

「桜庭の過労死する予知は良いから、さっさと動け」

「冗談抜きで言ってるんだけど?」

「みんなしてスルーとか、酷くない? ねぇ、酷くない?」


 仁科さんが呼んできたからか、朝日と京だけではなく、和花と風峰君も来てくれたのだが、朝日と雪原先生が容赦ない。


「……」

「だから、どこに電話する気なのかは知らないが、携帯を取り出そうとするな」


 しまった。まだ岩垣先輩がいた。


「しまった、って顔は止めろ。あと、本当に宮森たちが居るとテンション変わるよな、お前」

「そうですか?」

「そうだよ。俺が知る限りでは、毒舌が増すか、テンション変わるかのどちらかだしな」


 そうなのかー。

 ちなみに、話してても、ちゃんと手は動かしています。


「そういえば、先輩」

「何だ?」

「進学ですか? 就職ですか?」

「就職だな」

「そうですか。……就職、おめでとうございます」


 内定、ではなく就職、である。

 岩垣先輩のことだから、どこも採用しないということは無いだろう。


「ありがとうな。ちなみに、有栖川は進学で、目的の大学には合格済みだから」

「そうですか」


 有栖川先輩も岩垣先輩と一緒で、そつがなくクリアしてそうだ。


「……本当、私の先輩って、容赦ない」

「桜庭?」


 沈んでいても仕方ないので、一気に終わらせよう。


「“ショートカット”」


 その言葉で、必要数の椅子が一斉に並ぶ。


「お・ま・え・は、異能を使うなら、一言ぐらい無かったのかー!」


 本日最大ボリュームの突っ込み、ありがとうございます。雪原先生。


「……こうして見てると、雪原先生が可哀想だよね」

「言ってやるな。それに、鍵奈に突っ込みが必要なのは、今更だろ」


 京が酷い。


「……雪原先生、保健室に戻りますか?」

「戻ろうにも戻れん。仮にも副顧問だし、お前らだけで桜庭(あいつ)の暴走を止められるっていうのなら戻るが」


 風峰君の問いに、そう返す雪原先生。


「けどまあ、きーちゃんのあの外れたようなテンションは、明日には収まってると思いますから」


 ね、とこちらに目を向けてくる朝日に、肩を竦めて返す。


「講堂も体育館も、使うのは卒業式で最後か」


 そんな呟きが聞こえてくる。

 先輩にとって、中学と高校。どちらが楽しい思い出を作れただろうか。


「……まだ(・・)、卒業式とお別れ会が残っていますから」

まだ(・・)、か」

「そうですよ。中学の時以上に、全力で見送らさせていただきます」

「そうか。なら、任せるよ。副会長」


 最後に、「(ただ)し、やりすぎるなよ?」と付け加えてくる辺り、信頼されているのか、いないのか。


「分かってますよ」


 時間に関しては、ほとんど無いに等しいから、打てる手は限られるけどーーそれでも出来るだけ、頑張ってみようじゃないか。


 そんな『卒業式』まで、あと十日ーー



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