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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第三章:一学年三学期・『春』の訪れ
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第七十七話:冬季球技大会Ⅳ


『第七十三話』から五話連続更新中ですので、まだの人はそちらからどうぞ




 何とか真衣たちを見つけ、繰り上げられた試合には、何とか間に合うことが出来た。


「きーちゃん」

「鍵奈」


 朝日たちからの呼び掛けを聞きながら、今度は勢いを付けすぎずに、ラインの内側に入るように狙う。


「うん、何か良い感じ」


 上手く狙えた気がする。


「和花!」

「はいはい……っと」


 返ってきたボールを上に上げた真衣の声に、和花がトスを上げる。


「ーーこっち」


 霞が相手チームにアタックする。


「まあ、そんな簡単には行かないか」


 だが、当然ブロックされるわけで、返ってきたボールを朝日が何とか拾う。


「もう一回」


 今度は真衣がトスを上げ、再び霞がアタックする。


「あっぶなぁ……」

「けど、まずは先制点ね」

「このままのペースだと、不安になる部分もあるけどね」


 ラインギリギリで入ったから良かったけど、朝日の言う通り、最初からこのままだと途中でダウンしかねない。


「ほら、次」

「私、サーブ苦手なんだよねぇ」


 文句言いながらも、ボールを受け取る朝日。


「ネット越えれば及第点」

「もう、どうなっても知らないから」


 朝日がサーブを放つ。


「入る!」


 ネットを越え、相手チームがボールを拾うと、高く打ち上げる。


「ネット(ぎわ)で拾うとか、さすがバレー部」

「感心してる場合じゃないから!」


 真衣が、こちらに来たボールを拾いに行く。


「ごめんごめん」


 謝りながら、ボールを上げる。

 位置が位置だから、次に打つのは和花だ。


「わー、ごめーん。外したぁ!」

「はいはい。次、頑張って」


 そう労いつつも、相手チームのサーブに構える。

 まぁ、こんな感じで、本日二度目の試合は行われたのだった。


   ☆★☆   


「ヤバい。キツいんですけど」

「どれだけデュースするんだ、っていう……」


 最終セットなのは、まだ良い。けど、二セット連続でのデュースはキツい。

 このままだと、どちらが勝っても、双方共に明日戦えなくなる可能性がある。


「どうする? さすがに、限界はあるわよ?」

「分かってる」


 どちらかが二点入れるまでは終わらない以上、京たちみたいに時間切れは狙えない。


「こうなったら、動ける人が動く。それで良い?」

「まぁ、それしかないか」


 そうは言いながら、朝日たちが私を見てくる。


「現在、一点差」

「ラストサーバー、頼むよ」

「じゃあ、ちゃんと入るように祈ってて」

「大丈夫、桜庭さんなら」


 自分たちがやらないからって、本当に無茶、言ってくる。

 軽く深呼吸して、サーブを放つ。


「来たよ!」

「取って!」


 相手チームが声を上げる。


「返ってくる!」


 和花たちがブロックするが、ブロックしきれずに落ちたボールを、霞が床に着く前に間一髪で拾い上げる。


「霞、ナイス!」

「和花!」

「言われるまでもないわよ!」


 真衣が霞に声を掛けてるのを余所に、和花が試合開始時と変わらないトスを上げる。


「決めちゃえ!」

「ラストぉっ!」


 そんな外野の声が聞こえてくる。

 けど、外野の声にまで気づいたってことは、少しばかり余裕が出てきたってことか。


「入る!?」

「お願い、入ってぇ……」

「入らないでぇ……」


 床に着いたボールがコロコロと転がる。

 あとは、ラインを見ていた審判の判断だけど……


 ーーピーッ!!


 審判が手にしていた旗が上がらないのを見ると、判定はラインの内側。


 ーーワァァァァッ!!


 歓声が上がる。


「きーちゃぁぁぁぁん!!!!」

「勝った? つか、もう終わった?」

「終わったわよ。あー疲れたぁ」


 飛びついてこようとした朝日を制止しながら、思わず確認するが、その返答は和花から返ってきた。


「ご苦労様」

「和花もね」


 こんなに疲れた感じがするのは、いつ以来だろうか。


「あー、あとちょっとだったのに負けちゃったかぁ」

「この借り、夏季で絶対にリベンジするからね!」

「クラスが一緒にならない限りは、対戦できるからね。その言葉、ちゃんと覚えておくよ」


 ネットを越えて、相手チームの二人が話しかけてきたかと思えば、早々に宣戦布告してきたので、受けておく。


「良いの? あんなこと言っちゃって」


 去っていく二人を見送りながら、和花が聞いてくる。


「大丈夫。私は忘れないから」

「そうだったわね」


 先に戻ってる、と和花が試合をしていた体育館から出て行く。


「後は明日だね」

「なるべく疲れ、残さないようにしないと」


 明日で全ての試合が終わり、優勝が決まる。

 バレンタイン云々関係なく、勝てるところまで勝っておきたい。





 そう思っていたのが昨日。


「もうやだ。何でこんなにデュースが重なるわけぇっ!?」

「一セット、落とさない? これじゃあ、()たないよ」


 こんな愚痴ぐらい、許して欲しい。

 しかも、相手は三年生のチーム。

 受験が大変なのか、息抜きとは名ばかりのペースで点を取りに来ている。

 何か、雰囲気も怖いし。


「フルセットになったら、目も当てられないしねぇ」


 一セット落とすとか話していたのにデュースになるし、今、私たちが点取っちゃったし。


「……鍵奈。あんた、フラグ折りなさいよ」

「無茶、言ってくれるわね。和花」

「……」

「……」


 (しば)し、視線を交わす。


「……負けフラグ、立てられないかなぁ」

「任せた」

「おい」


 親指立てて言うことじゃないでしょ。


「ったく」


 まあ、無駄だとは思うが、やるだけやってみよう。


「本気で負けても、恨みっこ無しだからね?」


 念押しはしておかないと。


「もちろん」

「それじゃ、このセット。終わらせるね」


 朝日がレシーブで上に上げる。

 ああ、もう言うまでもなく、この後の展開は分かってる。


「もう、何も考えなくていいから、決めちゃって!」


 勝ちを決めるのか、負けを決めるのか。

 前方にいた三人がどのような判断をしたのかは、私には分からない。


「ーー真衣!」

「っ、」


 和花からのトスを、真衣がアタックで叩き込む。

 だが、叩き込んだ張本人である真衣が、自身の手を不思議そうに見ていた。


「……鍵奈、何かした?」

「何もしてないけど? 何かあった?」

「いや、何て言うか。何て説明すればいいのか……」


 もしかして、何か感じたのだろうか。


「無意識に異能が発動……なんてことは無いか。きーちゃんが無意識だったら、私の異能がとっさに発動してただろうし」

「そうなんだよねぇ……」


 朝日の防御異能は、敵意や害意などが含まれない場合は効果が薄いのだが、稀に敵意など以外で発動することがある。

 その一つが、意識の有無なのだが、無意識による異能の発動は判断が難しいため、何か起こる前に、と朝日の異能の場合、高確率で発動することの方が多い。

 もちろん、今回の件は発動しなかったパターンなのかもしれないが、どうもそれは違う気がする。

 私の意識を乗っ取る形で、『あの人(・・・)』が何かしたとも思えない。


「視界の隅で、異能を見ちゃったんじゃないの?」

「いや、意識は試合に向いていたから、それは無いと思う」


 つか、思いたい。


「まあ、図らずも第一セットを先取したわけだけど、向こうがどのように出て来るか……」


 第一セットが終わったから、少し休憩してはいるが、どうにも視線が突き刺さる。


「つか、私たちでも勝てない鍵奈に勝とうとするとか正気?」

「いや、和花。私には方法次第で勝てるから。だから、その誤解を招くような説明の仕方だけは止めて」


 半分事実とはいえ、先に修正しとかないと、この後が大変そうだからね。


「異能バトルになったら、あんたほど有利な人なんて居ないじゃない」

「鍵夜が居るじゃん」

「あー……忘れてた」

「本人がこの場に居たら、絶対突っ込まれるから、本人の目の前では言わないようにね」


 何だか、こっちにまで“とばっちり”が来そうな気がするのだが、これもーー……って、さすがに『おみくじ』のせいではないよなぁ。

 というか、そう思いたい。


「それじゃあ、第二セットも出来る限り頑張ろう」

「出来る限り、ね」


 突っ込むとキリがないので、和花の呟きは聞かないことにした。


   ☆★☆   


 さて、どうしたもんか。


「朝日ぃ、手首捻ったみたいで、まともに手使えそうにないんだけど、どうしよう?」


 隠すとうるさいから、隠さずに言ったのだが、素直に告げたとき、朝日の顔が怖かった。


「どっちの手?」

「左。利き手じゃないから、セーフ」

「いや、セーフとかの問題じゃないから。早く雪原先生の所、行くよ」

「行かないよ? 試合には負けたとはいえ、行かないよ?」


 そう、試合は負けた。

 だが、痺れが取れるまで、待ってくれたって良いじゃないか。


「きーちゃん?」

「鍵奈、諦めろ。朝日が聞かないの、知ってるだろうが」


 声がした方に目を向ければ、京が居た。


「あ、そっちは試合、終わったんだ」

「何とか勝ったがな」

「こっちは負けましたー」

「知ってるよ。途中から見てたしな」


 何だ、見てたのか。


「お前がいつぶつけたのかも、ちゃんと見てたしな」


 うわぁ、マジか。


「ほーらぁ、早く行こう?」

「あの、朝日さん。休みまで待たない? 気は進まないけど、立夏(りっか)か椎名兄妹に見てもらった方が的確だし」


 保険医である雪原先生が信用できないというわけではないが、どうしても専門的な知識や治療とかについて言われると、専門家(プロ)の方が安心できる。


「そうね。あの兄妹なら、医療系については間違いないし」

「けど、応急処置ぐらい……」

「だったら、後で閉会式後ぐらいにでも行ってくるよ。足が駄目になったわけでもないし、痺れが治まってきたから、この話はこれでおしまいってことで」


 強制的に終わらせる。

 正直、(あざ)になったとしても大丈夫だとは思っているが、そうなると多分、立夏たちだけではなく、保険医も口出ししてきそうだからなぁ。


「けど、ありがとうね。私、本当に大丈夫だから」

「そこまで言うなら、信じるけどさぁ」


 本当に心配性な幼馴染である。





 さて、その後のことだが、京たちも獅子堂君のクラスも当たる前に負けてしまい、男子勢は三年生(実は岩垣先輩たちのクラス)が優勝、女子勢はバレーは二年生のチームが優勝、バスケは同学年の三組が優勝で、我がクラスは二位という結果に終わった。


「まぁ、約束は果たさないとねぇ」


 少なくとも、最終結果が私(たち)よりは優勝に近かった獅子堂君には、約束通り、サプライズ(・・・・・)とともに渡さなければ。

 だが、そうなると先輩たちには申し訳ないが、サプライズ(・・・・・)で満足してもらうしかない。


「……手に入るかなぁ」


 時期が時期だから、あまり期待はしてないが、『あれ』なら問題は無いはずだ。


「ーーけどまぁ。アイディア、ありがとうございます。鏡霞先輩(・・・・)


 何たって、“あの人”の提案なのだから、きっと大丈夫ーー




今話のバレーの試合描写で不自然な所があれば、ご指摘ください(作者自身、いろいろとうろ覚えな部分もあるので)



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