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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第三章:一学年三学期・『春』の訪れ
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第七十二話:この一面の銀世界で


 目が覚め、寒くて布団から出るのが辛かったのだが。


「わぁっ……!」


 外を見てみれば、一面銀世界でした。


   ☆★☆   


 「おはよう」や新年らしく「あけおめー」と行く道先々で、挨拶が交わされる。


「よぉ」

「珍しいわね。京がこの時間にいるなんて」


 ここ一年近く高校に行くための通学路となった道に、この時間では珍しく京がいた。


「雪が降ったから、早く行けって、兄貴共々追い出されたんだよ」


 やれやれとしながら、京は言う。


「大変ねぇ」

「そのまま、お前に返すぞ。その言葉」


 少しずつだが、あの文化祭以降、千錠の雰囲気が変わりつつある。

 生徒会の方も、一ノ瀬先輩たちが出てきては仕事をしてくれるようになったし、それだけでも十分ありがたく、これからもそうであってほしいのだが。


「どうせ、私が副会長として務める間は、『前期生徒会役員選挙』がある五月までだし」

「あの面々が、お前をあっさり手放しそうに無いんだがな」

「止めてよ。しかも、何かフラグが立った気がするんですけど」


 冗談抜きで、嫌な予感しかしない。


「立ったのなら、折ればいい。お前は得意だろ?」

「全部、折れきれるわけないでしょ」


 全部が全部、私一人で出来るわけじゃないんだけどなぁ。

 そろそろ、朝日が来る頃だろうか。


「きーちゃん! 京くん!」


 ぱたぱたと、私たちに呼び掛けながら、朝日が駆け寄ってくる。


「ちょっ、朝日。走ると危ないからっ」

「つか、言ってる(そば)から()けかけてるし……」


 注意しながらも、案の定体勢を崩した朝日を受け止めれば、京がどこか呆れたようにそう言う。


「うう……」

「はいはい、泣きそうな顔しないの」

「別に、お前一人を置いて行ったりしないから安心しろ」


 涙目になりかけた朝日を、二人して宥める。


「へへ、きーちゃん。(あった)かーい」

「おい、お前ら……」


 少しばかり落ち着いたのか、抱きついてくる朝日に対し、京が微妙な顔をする。

 仕方ないなぁ。


「ねぇ、朝日。(あった)まりたいのなら、京でもいいんじゃない?」


 ニヤリとして、京の方を向きながら言えば、「鍵奈、テメェ……」と顔を引きつらせながら言ってくる。

 さて、そんな朝日の反応は、といえばーー


「え……京くんだと、いろいろとねぇ……」


 戸惑うように、そう言ってきた。

 あ、ヤバい。京が可哀想なのに笑いが……


「お前、完全に笑ってるだろ」

「笑ってな……ぷっ」

「笑ってるじゃねーか!」


 それから完全に不機嫌になったらしい京が、そのまま一人で行ってしまう。


「ちょっ、京くん! 待ってよ!」


 朝日が慌てて追いかけ始めたのもあって、私も歩き出す。

 さて、今日から業務再開しなくては。


   ☆★☆   


 始業式までに時間があったので、生徒会室の方に顔を出してみればーー


「……明けましておめでとうございます。先輩方」

「おめでとう、桜ちゃん」


 まともに返してくれたのが双葉瀬先輩だけとは、これ如何に。


「何してるんです?」

「律の生徒代表挨拶の文の推敲作業」

「え……もう時間無いじゃないですか」

「だから、急いでる」


 頭から抜け落ちてたよー、って言う双葉瀬先輩だけど、抜け落ちてたって言うより、忘れてただけではないのか。


「卒業式や入学式のは……」

「それは、生徒会室(ここ)に戻ってきてからでいい」


 まぁ、期限まで時間がありますしね。


「ほらほら、練習練習」


 何か、忙しそうだなぁ。


「おい、桜庭。お前、副会長なんだから手伝え」

「こういうときだけ、役職で指示しないでくださいよ。ギリギリまでは手伝いますが」


 にしても、前にもあった気がするなぁ。こういうこと。


「いつだったかな……」

「何かを思い出そうとしているところ悪いけど、それは後回しな」


 あの時、何て言ったっけ……?


「むー……」

「うーん、聞いてないみたいだね」

「聞いてますよ、双葉瀬先輩」


 思い出せないから、思い出すのを止めたら、何か言われてたんだもん。


「とりあえず、紙を見せてください」


 何が書いてあるのか分からないと、口の出しようもない。


「付け加え過ぎじゃないですか? これで分かるなら構わないんですが」

「分かると思うか?」


 いや、聞き返されても。


「ちょっと待ってください」


 持ってきていたルーズリーフを出して、一ノ瀬先輩に渡す。


「至急、これに写して、推敲作業を続行しますよ」

「あ、ああ……」


 戸惑いながら写し始めた一ノ瀬先輩を見ていたら、双葉瀬先輩に呼ばれた。


「桜ちゃん。始業式も良いけど、ホームルーム、ホームルーム」

「こんな状態の先輩と推敲作業を放置しろと?」


 絶対、間に合わない気がするのだが。


「教室でどうにかするからさ」

「……分かりました。先輩たちを信じますからね?」

「うん、任せて」


 頑張るのは一ノ瀬先輩なのだが、始業式本番まで双葉瀬先輩が一緒なら、ギリギリでも何とかなるだろう。


「仁科さんに、格好いいところを見せられると良いですね」

「何で仁科なんだ?」

「うん?」


 もしかして、冬休みに会ってない間に、異能の効果が薄まった、とか?

 はっきりとは分からないけど、それぐらいしか思いつかない。


「……まあ、何でも良いので、ミスは最小限にお願いしますよ。会長」


 そう言って、生徒会室を出て、教室に向かう。


「学校でもこれとか、この先思いやられるわ」


   ☆★☆   


「積もったぁ!」

「……」


 始業式は終わった。

 その間にも雪は降ったのか、元から積もっていた雪がさらに増えていた。


「双葉瀬先輩、気持ちは分かりますが、今は一ノ瀬先輩のことも考えてあげてくださいよ」

「いや、けどさ。文章は良かったのに、まさか、あんな所で噛むとは思わないでしょ」

「先輩!」

「……」


 本人が気にしてるんだから、もう止めてあげてほしい。

 せっかく短時間で推敲までしたのに、まさか本番で噛むとは思わない。予想できるはずがない。


「桜庭、もういいから……って、おい。何で、お前まで笑い出してるんだ」


 あ、ヤバい。


「お前も奈月側の奴だったのか」

「まさか。いつまでも笑ってられるほど、テンション高くはありませんよ」

「だとよ」


 私の言葉に、双葉瀬先輩の方を見ながら、一ノ瀬先輩が声を掛ける。


「ぐっ……! 貴重なデレを見れたかと思ったのに、すぐさまこれとは……!」


 ……いつから私は、ツンデレになったのだろうか?


「会長、キャラ崩壊起こしてるあの人は放っておいて、私たちは中に入りましょう。新年早々、仕事はやりたくありませんが、やらないと支障が出ますので」

「……容赦ないな、お前。あいつ、仮にも先輩だろ」

「ああいう輩は、風邪でも引かせて、大人しくさせとけばいいんです。それに、私は以前、会長に似たような事をした覚えがあるのですが」


 正確には『事』ではなく、『言動』だけど。


「以前っつーか、約半年前だろうが」


 ああ、やっぱりやられた方は覚えてるんだ。


「まあ、それはさておき、何なら会長があの人を連れて帰ります? 生徒会室に向かうだけでも、疲れるとは思いますが」

「放置で」

「では、戻りましょう」


 そのまま二人で、生徒会室に戻ろうとするのだがーー


「何で二人とも、息が合ってるの!?」

「……」


 チッ、気づかれたか。


「先輩、それ使いどころ違います。意見が合っただけで、息は合っていません」


 そもそも、息を合わせた覚えもないのだが。


「冷静に訂正されたし……」


 どうやら、少しは落ち着いた、のか?


「一ノ瀬先輩」

「何だ」

「あの人、いつも以上にウザいので、もう先輩がどうにかしてください」

「何で俺に言う」


 だって、保護者でしょ? とは言わない。


「お前が今、何を思ったのか。当ててやろうか?」


 あ、ヤバい。怒らせたか?


「俺とあいつをセットで扱うのは止めろ」

「けど、私からすれば二人は先輩で、大体見ると一緒に居るので、それは難しいです」

「あはは。律、言われてやんのー」

「お前の事も言われてるんだが、分かってるか?」


 ほら、仲が良いじゃん。

 ぎゃあぎゃあ騒ぎ始めた二人を放置して、私は一人で生徒会室に戻る。


「あ、来てたんだ」


 生徒会室に入れば、獅子堂君が居た。


「ああ」

「……明けましておめでとう。挨拶はしておくよ」


 挨拶して、書類を片付け始める。


「ああ、おめでとう。会長たちは?」

「外で雪遊びしてる。そのうち飽きたら、戻ってくるんじゃない?」

「そうか」


 電卓を打つ音と書類にサインなどを書く音が、室内に響く。


「……」

「……」

「……何か淹れるけど、どうする?」

「頼む。任せた」


 じゃあ、コーヒーでいいかな、と調理スペースに引っ込んで、お湯を沸かす。


「……」


 そういえば、お茶請け、何かあったかな。



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