第七十話:新年が明けまして
第三章:一学年三学期・『春』の訪れ
『春』が齎す出会いと別れは、誰しにも訪れる
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくーー……ってことで、破魔矢ちょーだい。買いに来たよ」
「明けましておめでとう。朝日。こっちにも破魔矢、頼む」
「明けましておめでとう。きーちゃん、京くん。お参りは?」
「ちゃんとしてきたよー」
新年です。年が明けました。
今は朝日の実家、宮森神社に来ています。
ちなみに、年末は一人だと寂しいのと、是非にっていうご厚意に甘えて、南條家に居ました。
ただーー
『やっぱり、女の子は良いわよねぇ。ねぇ、鍵奈ちゃん。京か鍵理のお嫁さんに来てくれない? 鍵奈ちゃんなら大歓迎だから』
それを聞いた南條兄弟が噴き出し、盛大に噎せて、私は笑って誤魔化しました。
あと、京のお母さんは褒めてくれたけど、内容から判断するとそれは多分、理想と現実は違うのと、桜庭家が特殊なだけです。
「それにしても、本当、いろんなデザインあるね」
「まあね。けど、こんな時間まで、こっちに居て良いの? 本家に出るんでしょ? 間に合いそう?」
破魔矢を選んで、お金を渡していれば、朝日が聞いてくる。
「始発に乗って、バスかタクシーで向かうから大丈夫。朝食には間に合わないかもしれないけど、全体挨拶には間に合うだろうし」
「なら良いけど、新年早々、事故に遭うのだけは止めてよ?」
本当に心配なのか、交通安全の御守りを渡してくるのが朝日らしい。
「分かってるよ。こっちも新年早々、訃報を聞かせる気は無いから」
新年早々に限らず、誰だって最悪な情報は聞きたくない。
「それにしても、神社の方にはほとんど行かないから、こういうときの朝日の巫女姿に慣れちゃったけど、今年は……どっち?」
「まだ年が明けて数時間しか経ってないのに、分かるわけないじゃん」
朝日の言う通りなのだが、うちの両親は帰ってこられるのだろうか?
「おみくじ、良い?」
「どうぞ」
お金を渡して、引いてみる。
「俺も引いてくわ」
京もそう言って、おみくじを引く。
「どう?」
朝日が聞いてくるのだがーー
「……ああ、うん。末吉だった」
「きーちゃんにしては……珍しい方?」
朝日と京が顔を見合わせる。
私はそのまま、他に書いてある部分も見ていけばーー何というか、波乱しか無さそうな一年になりそうだ。
「縛ってきます」
少しでも運を寄せたいので、おみくじを縛りにいく。
「これで良し、と」
朝日たちの所に戻ろうとすれば、二人が何か話していた。
「どうしたの?」
困ったような、不安そうな表情を二人が浮かべていたから、聞いてみたのだが、笑って誤魔化される。
「鍵奈。そろそろ行くぞ。他の人たちの邪魔になる」
「え、ああ、うん。それじゃ、朝日」
「うん。次は多分、学校だよね。気をつけて帰ってよ?」
「分かってます」
京に言われて、朝日とそう話した後、その場を離れる。
「にしても、私たちが話してるとき、口挟んでこなかったね」
「挟む余裕もなかったのもそうだが、ほとんど朝日に言われてたからな」
「おや、意外。妬いたかと思ったよ」
「何で、朝日と同性であるお前に妬かなきゃいけないんだよ。それに、そんなつもりで言ったなんて、思ってないだろ」
「まあね。けど、大丈夫だよ。向こうには鍵依姉や和花も居るし、学校できちんとみんなに会いたいから、ちゃんと帰ってきます」
そう返しながら、首から下げているペンダントを、そっと握りしめる。
「なら、いいよ。お前が居なくなったら、生徒会の奴らもうるさそうだからな」
「何それ」
それでも、覚悟しなくてはいけないのだろう。
おみくじにも示されたのなら、きっと、この一年は分岐点になるはずだ。
「けど、そのためにもまずは、みんなに挨拶しなきゃね」
未来に何があるかは分からないけど、今は前向きに居よう。
「いつもの調子に戻ったみたいだな」
「凹んでたわけじゃないよ。気が進まなかっただけで」
それでも、今からのことも含めて決めたから。
「だから、いつもの私として、行ってくるよ」
「ああ。なら、大丈夫だな」
きっと、上手く行くはずだ。




