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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第一章:一学年一学期・桜庭鍵奈とゆかいな仲間たち
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第六話:現れたのは


「先輩……」


 朝日のどこか怯えたような言葉で、京は目の前の相手が誰なのか理解すると、庇うように朝日の一歩前に出る。


「なるほど……手紙などではなく、やっと、直接会えましたね」


 京は相手を見ながら、そう告げる。


「……り」


 何か呟く相手に、二人が疑問に思っていればーー


「俺より、そいつを選ぶのか!?」

「先輩……」

「答えろ!」


 朝日の戸惑いを余所に、相手は叫ぶ。


「それは……」

「下がってろ、朝日」


 答えようとしたのか口を開く朝日に、京はもう少し下がるように言うが、それを聞いた相手は再び声を上げる。


「何だよ。お前、騎士(ナイト)のつもりか? ふざけるな!」

「ふざけてませんよ。ただーー」

「黙れぇぇぇえ!!」


 京が答えようとするも、相手は叫びながら異能を発動する。

 彼の周りには、無数の刃物と刀剣類。


「おいおい、マジかよ。聞いてねぇぞ」


 顔を引きつらせながらも、京も朝日も異能を発動させる準備をする。


「京くん……」

「ああ、言いたいことは分かる。あいつも予想以上だろうな」


 確かに刃物があるとは言ったが、刀剣類があるとは言っていない。


「が、頑張って防ぐね」

「ああ……俺は逸らしてやるぐらいしかできないからな」


 ぐっと拳を作る朝日に目を向けず、京は相手から目を離さない。


「このっーー行け!」


 無数の刃物や刀剣類が二人に目掛けて飛んでくる。


「朝日!」

「うん!」


 朝日が自らの異能を展開し、刃物や刀剣類を防ぎ、京を守る。

 一方で京も守られているだけじゃなく、刃物や刀剣類が周囲に被害をださないように、方向を変えたりしている。


 ここで二人の異能を軽く整理しておく。

 朝日の異能は、分類:特殊系の異能で、特異異能(メイン)は守護・防御結界。中でも、朝日の守護・防御結界は相手の悪意や殺意、憎悪などの感情から放たれた異能を完全シャットアウトするが、欠点としては、それらが感じられない場合、防ぎきることができない、ということだ。

 京の異能は、分類:操作系の異能で、特異異能(メイン)はシンプルに異能攻撃の軌道をずらす軌道変化。異能相手だと発揮する効果は大きいが、通常時でも使用可能。


 そんな二人の異能だから、大丈夫だと思っていたんだけどーー


「朝日、そのまま結界強化。京はそのまま集中」

「きーちゃん!」

「ったく、遅いっつーの」


 声が届いたようで、朝日は嬉しそうにし、京もあんな言い方しながらも、どことなく嬉しそうだった。


「一体、何なんだ……!」


 舌打ちする相手に、くすくすとわざとらしく笑いながら、せっかくなのでいくつかネタバレをする。


「ねぇ、先輩。以前、一度会いましたよね?」

「は?」

「あの時、まさか、と思いましたけど、本当に当たるなんて思いませんでした」


 不思議そうな茶髪の先輩にそう言うが、まだピンと来ないらしい。


「学食の前で会いましたよね? ぶつかった時に」

「……あ……!」


 わずかな間の後、声を上げる先輩。やっと気づいたらしい。


「あの時、そんなわざとらしい話し方してませんでしたよね?」


 愛刀で飛んできた刃物類や刀剣類を捌く。


「この子への想いが本物だとしても、その口調で話す理由にはなりませんよ」


 朝日を指で示して言ってみれば、どうやら図星だったらしい。

 そのまま黙り込む先輩に、思わず溜め息が出る。


「あと、あの程度の挑発、あんまりダメージが無かったし、一度使った手は通用しないと思ってくれてかまいませんから」

「くっ……」


 悔しそうに睨みつけてくる先輩に、思わず肩を竦める。

 私は本来、話し合いだけで解決するのなら、それで良いと思っていた。でも、向こうは異能を発動してきた。


「もちろん、この二人に危害を加えたんですから、謝罪はしてもらえるんですよね?」


 睨みつけてくる先輩に、ニヤリと笑みを浮かべて返す。


御剣織夜(みつるぎ しきや)先輩?」


 それを聞いた相手の先輩ーー御剣先輩は目を見開いた。


「き、きーちゃん?」

「何で名前……!」


 戸惑う朝日の気持ちが分からないわけではないが、遮るように、御剣先輩が尋ねてくる。


「名前を知ってた理由ですか? 名前だけじゃなく、先輩の異能についても知ってますよ。調べましたから」

「調べたって……」


 あり得ないものを見るかのような目を向けられても困る。

 調べたのは事実なんだし。


「物理系に分類され、能力は『刃物類と刀剣類の生成及び即時使用』」

「君は一体……」


 先輩、素が出てます。

 それにしても、向こうから聞いてきてくれたのはありがたい。


「私ですか? 私は異能が使える一般人です」

「一般人が、他人の情報を短期間で調べきれるわけ無いよね?」


 チッ、やっぱりそう簡単に騙されてくれないか。

 まあ、気づかれても口止めすれば、この先輩は黙ってくれるだろうし、大丈夫かな?


「千錠の一年、桜庭鍵奈。後ろの二人の幼馴染ですよ」


 御剣先輩から疑いの眼差しを向けられるが、知るか。

 これ以外の事実はいくら私でも関係者(・・・)でない限り、口に出来ない。


「ふーん……まあいいや。そこ、退いてくれない?」

「断ります。退いてほしければ、私を倒してからにしてください」


 先輩にそう返す。

 まあ、私を倒すなんて、私の異能が分からないのとそれなりの実力が無い限り、無理だろうけど。

 あと、私は一言も自分の異能については話していない。朝日たちも、正確に把握しているのかどうか怪しいぐらいだ。


「それに、仮に私を倒せたとしても、二人を相手にする気力があれば、ですが」


 私一人で先輩の戦力を()ぐのは簡単だ。二人に刃を向けることを諦めさせることもできる。


(でも、それじゃ意味がない)


 未だ様子を見ている幼馴染たちを一瞥すれば、二人ともどこか不安そうにしていた。

 だからこそ、先輩の戦力を殺ぐことだけに集中する。殺すことはしない。あくまでも目的は戦意喪失だ。


「本気で言ってる? 俺が言うのもあれだけど、君、死ぬよ?」


 うわぁ……先輩、目が本気(マジ)だ。

 でもまあそうか。刃なんて当たると痛いしね。

 けどーー


「先輩は私に勝てませんよ」


 私の異能がどういうものか分からない限り、ね。


「随分と嘗めてくれたね」

「それはお互い様じゃないですか」


 軽く笑みを浮かべたと思えば、朝日たちと対峙したときのような表情になる御剣先輩。


「それじゃーー行くよ!」


 異能を発動する先輩に、こっちもすぐに対応する。


(様子見で正面からの攻撃、か)


 防ぐこともできたけど、私は後ろに避ける。


(次は左右と上)


 立て続けに飛んできた刃を視認し、避けきれないものは愛刀で捌く。


(最後にーー)


「背後」


 カン、と音が鳴り、刃物の刃と愛刀の鞘がぶつかり、刃物は地面に落ちる。


「やるもんだね」

「それはどーも」


 これは賞賛などではない。

 先輩のは単なる小手調べだ。


「なら、これはどうする?」


 刃物類と刀剣類が飛んでくるが、全て隣を通り過ぎていく。


(どういうこと?)


 そんな一瞬の疑問を私はすぐに理解した。私の後ろには、朝日と京の二人が居る。


「っ、二人ともーー」


 だが、二人は焦らずに対処していた。

 朝日の結界は長時間に渡っての連続展開が可能だし、京だって、私が捌ききれないことを頭の隅に置いていたのかは定かではないが、『朝日を守る』という約束もあったからこそ対処できたのだろう。


「安心しろ」

「きーちゃんのサポート、今まで誰がやってきたと思ってるの?」


 京が言うなら分かるけど、今の朝日に言われてもなぁ。

 それでも、無いよりはありがたいし、立っている場所が違えど背中を任せられる存在がいるのは、やはり心強い。


「そうだね」


 思わず笑みを浮かべながらも、愛刀を構える。二人がいるのなら、鞘を抜く必要はない。


「……そこには本来、僕がいるはずなんだけど」

「本来って、先輩。貴方が朝日と会ったのって数日じゃないですか」


 こういうのもあれだが、こちらは十年以上の付き合いだ。

 先輩が本来の位置にいたって言うなら、私か京のどちらかは朝日の側にはいなかったのかもしれない。でも、今は私たちが朝日の側にいる。


「それに少なくとも、ストーカーのような行動せず、普段通りの行動していれば、朝日には好感を持たれたのかもしれません。でも、今の先輩は私から見ても、朝日を任せても大丈夫とは思えません」


 朝日が好きになった人なら、私は応援するつもりだし、心配性(シスコン)な朝日のお兄さんへもフォローするつもりだ。

 でもーー


「今回は朝日が怖い思いをした。そうなれば話は別です」


 そう、別だ。


()る覚悟と()られる覚悟が無い人に、朝日を任せることはできない」


 彼女の側にいるには、それなりの強さが必要だ。


「鍵奈……」

「きーちゃん……」


 二人は普段通りにしていても、そのことは絶対に忘れてないはずだ。


 守る者と守られる者。

 まるで、鍵と錠のような、対の関係だ。


「ねぇ、先輩」


 だから、私は尋ねる。


「私が言った覚悟、持っていますか?」




前回の姫候補に続き、関係者についても後の話で説明します


なお、(いないとは思いますが、)先に答えが知りたい方は、短編の方にヒントがありますので、そこから推理(?)してみてください



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