第六十八話:婚約者からのクリスマスプレゼント
ほぉっ、と吐いた白い息が上へと上っていく。
「……夜は一段と冷えるなぁ」
マフラーもしているが寒いので、カイロを握る。
目を閉じて、敷地内を視てみる。
「異変は特に無し、か」
そのまま敷地内(外)を歩いていくと、中から漏れる明かりと音楽が聞こえてきた。
「おー……やってるなぁ」
来年は多分、あの場に居て、再来年は通常通りならこの場に居るのだろうが、さて、どうなることか。
「桜庭」
「おや、風峰君じゃん。こんな所に居て良いの?」
呼ばれたので振り返れば、そこには風峰君が居ました。
彼の場合は、あちらに居るはずなのだが。
「そっくりそのまま返してやりたいところだが、そうも行かないからな。それにしても……」
「うん?」
「寒そうだな」
「冬だからね」
そう返せば、風峰君は「あー、まぁ、そうなんだけど」と歯切れが悪く、視線を逸らす。
そして、がーっと頭を掻いたかと思えば、何か決めたかのようにポケットから取り出すと、私の方に差し出してきた。
「ほら」
「ん?」
何だろうか?
「今日はイブで、明日はクリスマスだろ?」
「そうだね」
「この後、会えるかも分からないし、ゆっくりと渡せる余裕も無さそうだからな。先に渡しておく」
照れくさそうにしながらも、彼の手にある小さな袋は離される気配がない。
小物系でも入っているのだろうか?
「そんな良いものじゃないが、受け取ってくれると助かる。俺にはその……使えないから」
「えっと……ありがとう、風峰君」
お礼を言って受け取るが、やっぱり小物系だったらしい。
「開けても良い?」
「余裕があるならな。無いのなら、後で開けてくれればいい」
ありますよ、余裕。だから、封を開けるのだが。
「……」
「どうだ?」
「……あぁ、うん。何て言うか、驚いた」
だって、いつも一緒にいる朝日たちでも気づかないことがあるぐらいなのに、それなのにーー
「……何で、一番付き合いの短い君が、私の欲しいもの、当ててきちゃうかなぁ」
確かに、これは彼には使えない。
つか、私の欲しいもの、朝日たちにでも聞いたのだろうか?
「それで、何でこれになったわけ?」
「直感。桜庭が欲しそうなタイプだと思ったから」
「そっか」
直感で当ててくるとは、運命的な何かが働きでもしているのか?
「実を言いますと、私も用意していたんですよ」
持ってきていたカバンの中から取り出す。
まあ、朝日や京たちの分も入れてあったんだけど、渡すチャンスが無くて、今の時間までずっと持ちっぱなしなのだが。
「朝日たちとは別の物にしようとして、かなり迷ったんだ。だって、私の近くにいる男共って、君以外だと京かうちの義兄みたいな年上が多かったから」
途中、創作系の異能でも使おうかと思ったけど、それは何とか止めた。
「……義兄、か」
「え? ああまぁ……それで、これになった。君と同じーー直感で、決めちゃいました」
「……そう、か」
あれ? もしかして、引かれてる?
いや、直感って最初に言ったのは、貴方ですから。
「何か冷えてきたなぁ……って、雪?」
「どうやら、今年はホワイトクリスマスになるみたいだな」
「そうだね」
冷えてきたなんて嘘だ。逆に恥ずかしくて暑いぐらいなのに、気づいているのかいないのかは分からないけど、多分、風峰君も乗っかってくれたんだと思う。
「ほらほら。そろそろ中に入らないと、冷え切っちゃうよ」
「そっくりそのまま返すぞ」
確かに、私も他人のことは言えない。
カイロを持っているとはいえ、手は冷えているから。
「私は大丈夫だよ。ちゃんと対策してるから」
「火傷には気を付けろよ?」
「分かってるよ」
そのまま、その場で別れる。
「さて、と」
先程、渡されたプレゼントを首から下げる。
「これで、何かあっても大丈夫なはずだよね?」
今日はクリスマスだ。
もし、何かあって暴走し掛けたら、私を何としても引き止めてくれよ?




