第六十七話:『シュリュッセル』でのクリスマス
マフラーを巻き、手袋を着けて、数個のカイロをポケットやカバンに入れる。
「よし、じゃあ行くか」
高校最初の冬休みにして、クリスマス。
そんな私のクリスマス・イブは、『シュリュッセル』でのバイト(夕方まで)と錠前時クリスマスパーティーの会場の警備でした。
☆★☆
「きーな、メリークリスマス!」
「メリークリスマス、永久」
永久とそう挨拶しあう。
クリスマスということもあって、店内もクリスマスソングが流れたり、ツリーなどで飾り付けもされている。
「きーなは夕方までだっけ」
「ごめんね。何の予定も無ければ、夜まで居たんだけど、他にやること出来ちゃったから」
「しょうがないよ。その、やることが何かは分からないけど、頑張って」
そう言ってくれた永久に頷いておく。
「それじゃ、改めてやる気になってくれたところで、期間限定クリスマスメニューをお客さんたちに持っていってちょうだい」
「了解です」
そのまま注文してくれたお客さんたちに、期間限定クリスマスメニューのケーキセットや、チキンなどを持っていく。
そんな料理を見ていたら、今夜の会場にはどんな料理があるのだろうか、と思った。
まあ、上のことだから、定番から少し変わったものまで、色々とあるのだろうが。
「って、いかんいかん」
これ以上、思い浮かべたら、頭ん中が食べ物だらけになりそうだったから、意識を戻す。
「あ、花さん。年明けはどうするんですか?」
「そうだね。通常営業は四日からかな。三日までは休みにするつもりだから、またよろしくね」
「はい」
休憩の合間にシフトの確認をする。
実は、後一回だけシフトが入っているのだが、年末年始の準備を考えると、それがおそらく、今年最後のバイトになるのだろう。
「……そういえば」
先輩たちは結局、仁科さんを誘うことが出来たのだろうか?
というか、それこそまさかとは思うが、学校にいないよな?
「顔、出してみるか」
どうせ移動手段は自転車だから、加速系の異能もプラスすれば、あちらには何とか間に合うだろう。
懸念はあるけど、きっと大丈夫なはずだ。
☆★☆
「ああ、やっぱり居た」
「あれ? 桜ちゃん、来たの?」
花さんに頭を下げて、早めに切り上げて来てみれば、やっぱり居た。
「来たの? じゃなくてですね。何となく居そうな気がしたんで、見に来ただけです」
「何だ。捌きに来たわけじゃないのか」
まあ、書類捌いても良いんだけど、どうにも時間がね。
「すみません。今は時間が無いので。ところで、会長は送辞、出来たんですか? 岩垣先輩たちが心配していましたが」
ふと思い出した部分もあったので、聞いてみればーー
「お前、まさか俺がまだ一文字すら手を付けてないって、思っていたのか」
「いえ、いろんな意味で作業が進んでいないんじゃないかと思っただけです」
「一緒じゃねぇかっ! つか、そのいろんな意味について、詳しく聞かせてもらおうか」
聞いてきてる時点で、本人が分かってるような気もするのだが、そのことを言うと面倒くさそうなので、言わないでおく。
「では、私にもまだ用事がありますので、これで失礼します」
「お前っ、逃げる気か」
嫌だなぁ。逃げるんじゃなくて、帰るんですよ。
「ほらほら、僕たちもそんなに時間無いんだから、早く終わらしちゃうよ」
やっぱりというか、どうやら先輩たちにも用事はあったらしい。
私に噛みついてきた一ノ瀬先輩を宥めながら、双葉瀬先輩がこちらを見ながら、小さく笑みを浮かべていた。
ああ、借りとさっさと行けってことですね。
「今度こそ、失礼しますね」
そのまま生徒会室を出て、学校からも出て行く。
さぁて、それでは一番の目的地に向かいますか。




