第六十六話:あの後と終業式
「はぁ~、明日から冬休みかぁ」
二学期最終日となるこの日。私たちは終業式に出ていた。
「クリスマスに年末年始……私には地獄にしか見えないし、聞こえない」
「つか、鍵奈の場合は明日も生徒会業務で学校には来るんだから、今までと結局は変わらないだろ」
そう言われると、グサリと来るが、私が居なかったあの日に先輩たちは頑張ったのか、翌日、書類が一.五山分消えていた。
それを見て、やれば出来るじゃん、とも思ったのだが、目標まではまだまだ遠そうだったので、私もやらなかった分、手を動かした。
ただ、気分が良かったから、土日返上してまで、書類処理を進めました。
「そういえば、桜庭」
「何ですか?」
「いくつか、生徒会と関係ない書類があったぞ」
「え、ありました?」
三人が同時に頷いたってことは、あったんだろうなぁ。
もしかしたら、目が疲れて、途中で見落としたのかもしれない。
「まあ、そういうこともあるよ」
「……生徒会と関係ない書類のために、仕分けボックスを増やした方が良いんですかね?」
「そこまで、しなくていいんじゃない? こっちも気を付けてればいいんだし」
双葉瀬先輩の言う通り、こっちが気を付ければいいのかもしれないんだけど。
「それじゃ、気を付けるってことで」
そんな感じで、その日は終わったんだけど。
「今日はもう、来なくて良いってなってたんだけどさ」
「でも、きーちゃんのことだから、行くんだよね」
さすが朝日さん。よく分かっていらっしゃる。
「来なくて良いって言われると、行きたくなるよね」
だから、私は敢えて行く。
「せっかく、早く帰れるから、みんなで寄り道しようかと思ってたのに」
「あー、ごめん。何だったら、途中で合流しよっか?」
ぷいっと顔を背ける和花にそう言えば、呆れた目を向けられる。
「あ・ん・た・が、一度、書類整理を始めたら、途中で止めるわけ無いでしょ!?」
「ごもっともです」
「……いっそのこと、みんなで生徒会室に行くか?」
だから、風峰君のこの言葉は、深い意味なんか無く言ったんだろうけど。
「いいね、それ。状況確認も兼ねて、行ってみようか」
「え、マジで?」
聞いてはみるけど、本気らしい。
☆★☆
で、生徒会室。
「……今、どこかで見たような光景が……」
「時間も場所も戻っては……ないな」
目頭を押さえる朝日に、遠い目をする京を視界の端に入れながら、生徒会室の扉を閉めたのは正解だったはずだ。
つか、京よ。気持ちは分かるが、和花たちで今居る場所が『千錠高校』であることを確認しないでくれ。
「よし、リターンだ。リターン」
回れ右をして、生徒会室から離れる。
「だからって、保健室に来るんじゃねぇよ」
「口の悪い保険医だなぁ」
「お前、自分が原因だって、分かってるか?」
顔を引きつらせながら、雪原先生が言ってくる。
「病気じゃないなら出てけ。つか、帰れ。桜庭、お前は生徒会室にでも行け」
その生徒会室には、さっき行ってきたんだけどなぁ。
「いや、雪原先生。生徒会室に鍵奈を放り込んだら、それこそ仕事中毒になりますよ」
ほっとけ。
「分かってる。それと、桜庭」
「はい?」
何だろうか。
「この前、あいつと会ったみたいだな」
「それ、今言います?」
朝日たちには、あの日の翌日に、彼と会ったことについては話してあるから、そんなに驚かれなかったけど、心配はされた。
「まあ、お前たちがどこで、どういう理由で会おうが、俺としてはどうでもいいんだが」
あの日の彼といい、今日の雪原先生といい、私をちらちらと見るのは何なのだ。
「この先、何があっても、俺は裏切るような真似だけはしないからな?」
いきなり、何を言い出すんだ。
「分かりましたが……それは、鍵依姉に言うべきだと思います」
「っ、おまっ……!」
何故分からない、と言いたそうにされても困る。
だって、異能は使えても、長い付き合いだとしても、他人の『考え』や『心』は分からないのだから。
だから、私はこの時、知らなかったのだ。
あの件に関わった私以外の人たちに、ある情報が一斉に伝えられていたことを。
そして、それを受け取っていながら、朝日と京が黙り、隠していたことも。
『ーーこの情報は絶対に、桜庭鍵奈へと伝えるな。彼女に伝わったと分かった場合、何としても行動を制限せよ』
そのことを、その件を知ることになる、その日までのカウントダウンは、もう始まっているのかもしれない。




