第六十四話:生徒会役員たちのクリスマス(予定)
「もうすぐクリスマスだねぇ」
「だな」
あれ? もしかして、こっちでもですか?
「仁科ちゃん、クリスマスはどうするのかなぁ……」
双葉瀬先輩の呟きに、一ノ瀬先輩たちがピクリと反応する。
そういや、最近は仕事三昧で、彼女の影響も落ち着いてきたみたいだけど、それ以前だと、生徒会の面々って、仁科さんの取り巻きと化してたっけ。
「……何ですか?」
横から視線を感じたから、そちらに視線で返せば、にこにこと笑みを浮かべながら、向けてきた張本人が尋ねてくる。
「桜ちゃんは何か予定あるの?」
「いえ、今のところはありません」
いつもの面々でどうするのかは話し合ったけど、そういえば、集まる約束すらしてませんからねぇ。
ええ、今のところは、ですが。
「そっかぁ」
「寂しい奴だな」
「そっくりそのままお返ししますよ」
ははっ、嫌味はそのままお返ししますよ、一ノ瀬先輩。
「それはつまり、俺に喧嘩を売ってるのか?」
「いえいえ。ただ、寂しい人だと思われたくないのなら、仁科さんぐらい、あっさり誘って、一緒に過ごす許可を得てみてくださいよ」
こいつ、と言いたげに見てきても、私は前言撤回はしません。
まあ、目の前にある書類の山に対して、そんな余裕があれば、というのもあるけど。
「かなりの無茶を言ってくれるな。桜庭」
「好きなら、さっさと動くべきでしょ。他の人に取られても、文句は言えないと思うけど?」
獅子堂君にそう返す。
仮に仁科さんが生徒会役員以外を選んだとしても、それを私のせいにされても困る。
それは、動かなかった人たちの責任だ。
「何か、かなりの説得力を感じるんだけど?」
「気のせいです」
私の場合、そういう知り合いが居て、間近で見ていたから、そう判断し、言ったまでだ。
断じて、経験則的なものではない。
「本当に?」
「私の相手をする前に、さっさと仕事終わらせて、仁科さんのところへ行ったらどうです?」
もう、やだ。面倒くさいよ、この人たち。
「まあ、そうなんだけど……」
返してきたのは双葉瀬先輩だけど、三人揃って目を逸らしたよ。
「あと、私。明日は来られませんので。先に言っておきます」
「え、男?」
「何でそうなるんですか。違います」
「バイトだよねー」
「違います」
いや、バイトには変わりないんだろうけども、微妙に違うから。
「え、やっぱり男……」
「あんまりしつこい上に詮索するのなら、仕事を増やしますよ?」
「……ゴメンナサイ」
素直だなぁ。謝るのが早い。
やっぱり、目の前の書類の山だけじゃなく、あれからそんなに経ってないせいもあるのか、仕事量については逆らえないらしい。
「とにもかくにも、私は明日、来られないので、三人で頑張ってください。あと、必要となるであろうものに関しては、掲示板に一覧を貼っておくので、使う際には確認しておいてください」
最近は、生徒会室に、ずっと居るから大丈夫だとは思うが、基本的に使っていたのは私だからね。
「明日は無理でも、明後日は大丈夫なんだよな?」
「大丈夫だけど」
来れない明日の分を、今日一部繰り上げ、明後日は溜まった分をペースアップで捌く予定ではいる。
「だから、出来るだけ処理してるじゃん」
そう返せば、生徒会室のドアが開く。
「桜庭さん、書類持ってきたんだけど……」
「はい、書類追加ー」
さっさと内容確認して、『早急』『緊急』『期限指定』などの種類別のボックスに分けると、途中だった書類の続きに戻る。
「んー……獅子堂君。大変なのは分かるけど、これの計算確認して貰える?」
書類を渡す。
「何回やっても合わないから、そっちでも合うか合わないかの確証が欲しいんだけど」
「合わなかったら?」
「その場合は、こっちでどうにかするよ」
「分かった」
そのまま書類を預ける。
さて、と。
「……もう五時半ですね」
チャイムが鳴ってたような気もするが、気づかなかった。
「うわぁ。外、真っ暗だ」
「もう冬だから、暗くなるのも早いんですよね」
さすがに、これ以上帰るのが遅くなると困るので、片付けと帰るための準備に入る。
「最終下校時刻も過ぎたから、今日はもう帰るぞ」
「分かりました」
返事をしながら、コートを羽織って、マフラーも巻いていく。
最近になって一気に冷えたから、油断できない。
「外も外で、それなりに冷えてるなぁ」
双葉瀬先輩が少し寒そうに言う。
「では、一ノ瀬先輩。鍵の返却、お願いします」
「ああ」
先輩の返事を聞いて、駐輪場に向かう。
バイトのシフトが入ってなくて良かった。入ってたら完全に遅刻だし、サボりだ。
「桜庭」
「ん?」
自転車を出していたら、獅子堂君がやってきた。
「途中まで一緒に行く」
「……いや、君。電車でしょ。私、見ての通り、自転車なんだけど」
駅から出て来るところ見たことあるから、てっきり電車通学かと思っていたんだけど。
「確かに俺は電車通学だが、一駅や二駅ずれても問題ない」
いや、大ありだろ。一駅だけでも、かなりの距離があるぞ。
「私が気になるから、駅までは一緒に行くけどさ」
そこから先は無しで。
「……別に、駅までじゃなくても良いんだが」
「この前、不審者が出たって言ってたんだけど」
「うわぁぁぁぁ!!」
びっくりしたぁ。
「いきなり出てこないでくださいよ。びっくりしたじゃないですか」
「ああ、ごめん」
「それで、ご用件は?」
「強いて言えば、薫と一緒、かな」
それは、つまりーー
「駅まで一緒、ってことですか」
「それは、間違ってないんだけどね。さっき言った通り、不審者が居るらしいから、送っていこうかって」
「あ、それは必要無いです」
朝日たちが居たら、私の相手をすることになる不審者が可哀想だ、とか言ったかもしれない。
「もし、遭遇しても、返り討ちにするつもりですから」
朝まで氷漬けとか、どーよ。いや、無いか。
「それでは、明日会えましたら、会いましょう」
休み時間とかにね。
「ちょっ……!」
そのまま、自転車に乗って、その場を離れる。
気持ちは嬉しかったけど、さすがに今バレるわけにはいかないから。
「……あ、しまった。買い出し用の手として、借りれば良かった」
やっちゃったなぁ、と私が思うまで、あと数分。




