表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第二章:一学年二学期・生徒会との接触
62/116

第六十一話:久しぶりの『シュリュッセル』にて


「お久しぶりでー……す」


 さて、久しぶりのバイト先、『シュリュッセル』である。


「あら、鍵奈ちゃん。やっと来られたの?」

「すみません、花さん」


 花さんが出迎えてくれたが、正直、気まずい。


「それより、大変だったみたいだけど、大丈夫だった? 怪我してない?」

「あ、その点については問題ありません。こちらも、諸事情とはいえ、休んで申し訳ありませんでした」


 主に後始末とか。

 どうやら、体育祭での一件は、花さんたちにまで噂が広がっていたみたいで、和花が『姫』の権限を使って潰し回ったみたいだけど、やはり人の口に戸は立てられなかったらしい。


「あ、きーな来たんだ! 寂しかったよぉ~」

「ごめんね、永久(とわ)


 入ってきて早々、私に気づいた永久が抱きついてくる。


「こらこら、来たなら早く着替えていらっしゃい。これからまた、お客さん増えてくるんだから」

「あ、はい」

「はーい」


 そう返事して、着替えに行くのだがーー


「何だか久し振りだなぁ」


 そんなに経ってないはずなのに、もうすでに懐かしい。


「私も、きーなと仕事するのは、久しぶりだよー」


 嬉しそうに永久が言ってくる。


「それじゃ、復帰一回目ぐらいは、きっちり働きますか!」

「おー!」


 改めて、気合いを入れ直して、店の方へと歩き出す。

 さあ、今まで来られなかった分、ストレス発散も兼ねて頑張りますよ。


   ☆★☆   


「……」

「……」


 何で、こうなっているのかな。

 タイミングが良いって言うべきか、悪いって言うべきか。

 いや、私自身、開き直った部分もあって、こうして対面してる訳だけど。


「……休憩もよろしいですが、仕事が溜まりに溜まってること、お忘れなく」

「こんな所でまで、言わないでよぉ。これでも忘れに来てるんだからぁ」


 注文した料理(もの)を持って行けば、机に突っ伏しながらも顔はこちらに向けながら、双葉瀬先輩が返してくる。

 それにしても、一人とは珍しい。


「いつも律と一緒だと思わないでよ。僕にだって、一人になりたいときぐらい、あるんだから」


 ですよねぇ。


「まあ、売り上げに貢献してくれるみたいですから、見てない振りをしておきますよ」


 何だかんだで本人も気にしてるみたいだから、これ以上、弄るのは止めとこう。仮にも先輩だし。


「いいの? 前は隠したがっていたじゃん」

「そうなんだけどさ。隠しといてもどうせバレるし、(やま)しいことはしていない。第一、学校に黙ってもないから、問題なし」

「きーなは、そういうタイプだよねぇ。真面目って言うか、抜け目ないって言うか」

「そうかなぁ」


 永久からそう見えているのなら、そうなんだろう。


「あ、会計……」

「私が行ってくるよ」


 会計カウンターへと向かう。


「カードは使えないんだよね」

「よく覚えていましたよね」


 つか、その確認は、カードで支払おうとしていたと思っても構わないってことだよね?


「律と一緒にしないでよ。カードで支払いできないところがあることぐらい、僕は知ってるし」

「良いんですか。そんなこと、こんな所で言って。あ、おつりです」

「ありがとう。ま、大丈夫じゃないかな。その程度で怒るような心の狭い奴じゃないし」


 でしょうね。その点については、私も分かってるし。


「じゃあ、また明日」


 帰ろうとしていた双葉瀬先輩に、ふと思い出したことがあったので、声を掛ける。


「ああ、そういえば、先輩たちが送辞の心配してましたよ」

「あはは。一応、言っておくよ」


 名前は出さなかったが、通じたらしい。


「……私が言えた義理ではありませんが、こういう話はなるべくしないようにしないと」

「そうだねぇ。今更な気もするけど」


 うーん、学校でのことが外で話しづらいのは、私の性格が原因なんだろうか。


「それじゃ、バイト。頑張って」

「どーも」


 そのまま、先輩が『シュリュッセル』から出て行くのを見送る。


「きーなはさ。あの人たちのこと、本当に嫌い?」

「さあね。私は自分のやるべき事を、ちゃんとやらない人は好きになれないだけ」

「きーな、それってさ……」


 永久が顔を顰める。


「ほらほら、話は裏で聞くからさ。今は仕事しようよ」

「ちょっ、押さなくても大丈夫だからっ」


 永久の背中を押しながら、花さんたちの所まで向かう。





 ねぇ、永久? 私たちの付き合いは短い方だけど、さっき永久が何を言おうとしていたのか、分かってるから。


『それって、遠回しに自分が嫌いって、言ってない?』


 ーーそれ、真面目すぎないか?


 言葉は違えど、言いたいことが同じであることは、何となく分かる。

 出来ることなら、永久たちには私のことについて、何も知らないままで居てほしいんだけど、きっと、そうも行かないんだろう。


「あ、そうだ。きーな。年末、予定ある?」

「年末? クリスマスは?」

「クリスマスも含めて、だよ。そろそろ、そんな時期でしょ?」


 そういえば、もう十一月だ。


「んー……、まともにクリスマスを過ごせるか、分からないんだよねぇ」


 主に生徒会業務のせいで。


「どゆこと? 補習とか?」

「いや、成績の問題じゃなくて、それ以外で、ね」

「さっきの人といい、何か大変そうだねぇ」


 うん、大変ですよ。


「本当、高校最初のクリスマスだっていうのにねぇ」


 これで本当に、業務でクリスマスが潰れるようなことになったら、先輩たちにクリスマスプレゼントでも頼んでみようか。


「きーな、悪い顔になってるよ」

「おお、危ない危ない」


 顔に出したつもりは無かったんだけど、出ていたか。


「ねぇ、永久。当日まで、どっちも予定が無かったら、一緒に過ごす?」

「あー、それも良いかも」

「あら、もうクリスマスの予定?」


 時間的にも、お客さんの流れが()いてきたからか、花さんが話に加わってくる。


「二人とも、クリスマスに予定が無かったら、シフト入れる?」

「ちょっ、冗談ですよね?」

「というか花さん、誘われていたじゃないですか。店、開けれないんじゃないんですか?」


 何ですと?


「永久、詳しく」

「話さなくて良いから。鍵奈ちゃんも、聞かなくていいの」


 珍しく花さんが恥ずかしそうにしているってことは、お相手に対しては満更(まんざら)でもないってことか。


「ねぇ、永久。その人、どんな人だった?」

「うんとねぇ……」

「お願いだから、もう止めてぇ……思い出したく無いのよぉ……」


 赤くなりながら頼まれたら、余計にからかいたくなるが、クビにもなりたくないので、これぐらいにしておこう。


「分かりました。永久からは別の所で話を聞いておきますから」

「結局、話を聞くなら、一緒じゃない!」

「花さん、可愛いー」

「可愛くない!」


 噛みついてくる花さんに、永久と二人で笑う。

 そんな私たちに、「もう」と花さんは顔を逸らしてしまった。


「ほらほら、花さん。ディナーの用意に行きましょう?」

「そうですよ」

「……二人とも、私より年下よね?」


 言い出した私たちが冷静に返したから、花さんが疑いの目を向けてくるが、年下なのは間違いないですよ?


「最近、暗くなるのが早くなってきてるし、いろいろと物騒なんだから、早く上がっちゃいなさい」

「はーい」


 もうすでに上がる時間は過ぎているのだが、後は着替えるだけなので問題なしーーなんだけど、お言葉に甘えておく。

 まあ、何か遭ったら大変だもんね。


「花さんも、気をつけてくださいよ。強盗とか空き巣とか」

「分かってるし、大丈夫よ。それに、この場所で何年やってると思ってるのよ」


 にっこりと笑う花さんに、顔が引きつった表情を向けた私は悪くないと思う。

 そんな花さんだからこそ、今までも、そして、これからも『シュリュッセル』は大丈夫なのだろう。


「そうですよね。それでは、花さん。また明日」

「また明日ー」

「また明日ね」


 そう言葉を交わし終わると、私は永久と一緒に『シュリュッセル』を後にしたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ