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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第二章:一学年二学期・生徒会との接触
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第六十話:近づく冬


 あの波乱の文化祭と体育祭を終えて数週間が経ったーーと言えれば良かったのだが、一週間とちょっとの今日この頃。

 あの後、体育祭での表彰式は騒動の後始末へと変更になり、異能を発動するのに必要な魔力を奪っていた『植物もどき』の術者であった彼は病院に送られたが、検査結果次第では退院を待つだけだと、雪原先生からこっそりと教えられた。

 ただ、私もついでに診てもらえと言われたが、そのことに関しては、丁重にお断りさせてもらった。


 さて、「最近、寒くなってきたねー」「だねー」という会話を聞きつつ、外を見れば、すでに茶色になった葉もあるが、やはりというべきか、赤や黄色に色づく葉も目に入る。

 その光景に、もうすっかり秋だなぁと思うのだがーー今の私にゆっくり観賞する余裕は無い。


「あの、先輩方? 試験終了早々に、顔見せてもらった上に手伝ってもらう必要はないと思うんですが?」


 通常、私たち一年生や二年生が行う期末試験を、受験生である三年生だけは期末試験の時期が早められ、行われる。

 しかも、間違っていなければ、就職試験もこの時期だったはずなのだが。


「うん、でもさ。やっぱり、後輩一人に仕事全部を押しつけるわけにはいかないんだよねぇ」


 いや、その気遣いは嬉しいんですけど……


(気まずいと思ってるのは私だけ?)


 そんな大切なタイミングで再召還してしまったこちらとしては、もの凄く申し訳ないのだが、何としても内定はしてほしいものである。


「それより、岩垣先輩。卒業式の代表挨拶、担当になったんですよね?」

「伝わるの、早いなぁ」


 そう、卒業式である。

 すでに最上級生である岩垣先輩たちは、二月の試験(進学・就職両方ね)と三月に控えた卒業式に向けて、準備中だったりする。

 ただ、問題があるとすればーー


「それよりも問題は、送辞だな」

「担当者が一ノ瀬だからなぁ」


 人選、失敗したかなぁと呟く有栖川(アリス)先輩。

 まあ、学年と現在の役職から行けば、在校生代表は一ノ瀬先輩になりますもんね(次点で双葉瀬先輩)。

 しかも、今の状況を知っているとなると、先輩たちが不安になってくるのも仕方がないと思う。


「やっぱり、お前に頼むの、駄目か?」

「お断りします。年功序列でお願いします」


 来年ならまだしも、と即答で返せば、う~ん、と岩垣先輩と有栖川先輩が唸る。

 というか、唸られても、私は引き受けませんよ?


「まあ、いいんだけどさ。無理だけはするなよ?」

「分かってますよ」


 私だって、いつまでも代わりができるわけじゃない。

 だから、そのために一ノ瀬先輩たちには生徒会業務をきちんとやってもらう必要がある。あるのだがーー


「学校祭終了した途端に、このザマですか」

「あ、桜ちゃん」


 けろりとした様子で双葉瀬先輩が返してくる。


「『植物もどき(あれ)』を対処した後輩(わたし)に、事後処理の一部を任せた上に、溜まりに溜まった書類仕事を押し付けるとか、良い度胸してるじゃないですか。知ってます? 誰かさんたちが仕事しないせいで、次期生徒会役員に立候補しようとする人がほとんど居ないことを。あ、理由ですか? 書類が溜まってるからだよ。誰が好き好んで大量の書類仕事の待っている役職に就こうと思うのか、ご・せ・つ・め・い、いただけませんか? 先輩方」

「あ、何だ。やっぱり、俺も一緒に行くべきだったな」


 言い切ったと思ったら、獅子堂君が申し訳なさそう目を逸らす。

 自覚、あったんだ……まあ、自覚があるだけマシな方だけど。


「おまけに、現・生徒会役員でもない岩垣先輩たちが何故、生徒会業務をやっているのかについても、お教えいただけます?」

「分かった。分かったから、生徒会室に行こう。な?」


 獅子堂君が宥めるかのような口調で、私の背中を押してくる。

 つーか、君。いつもと何かキャラ、違くないか?


「あ、あと、先輩たちが仕事しないせいで、書類が溜まった結果、生徒会室が使い物にならなくなりつつあるので、こっちが第二生徒会室となっていますから」


 ぺらりとみんなの前に紙を出す。


「ちょっ、ここ、今は使われてない教室じゃん」

「良いじゃないですか。こういう時こそ役立てないと」


 少なくとも、書類置き場としては役に立ちます。


「あの、先輩。仕事してください。じゃないと、桜庭さんが前みたいに倒れちゃう……」

「仁科ちゃんがそう言うのなら、しないわけには行かないよね」


 あ、今もの凄くイラッとした。


「じゃあ、さっさと行って、さっさと片付けちゃおー」

「あ、おい。待て、奈月」


 双葉瀬先輩が一ノ瀬先輩の背中を押し始める。


「あの、桜庭さん……」

「お礼は言わないけど、あの人たちは貴女の言うことなら聞くんだから、ちゃんと手綱は持ってくれないと。それと、自分の異能についても、ちゃんと理解しなさい。使い方さえ間違えなければ、貴女の異能(ちから)は強力な武器にもなるんだから」


 彼女の異能に関しては、改めて『視て』分かった。

 正直、能力について理解していたとしたら、厄介だったと思う。さらに、敵になったりした場合は、なおさら厄介なことだろう。


「私の、能力(ちから)……」


 これからどうするのかは、彼女が決めるべきだ。


   ☆★☆   


「それで、どこまでが嘘で、どこまでが本当?」

「何のことですか?」

「僕たちに対して、もの凄く長い書類仕事について言ってたじゃん」


 ああ、アレのことか。


「全部、事実ですが?」

「え、全部?」

「はい」


 立候補者が居ないのも、岩垣先輩たちが手伝っていることも全部事実だ。


「第二生徒会室もか?」

「ついでだから、これから見に行く?」


 獅子堂君が聞いてきたので、暗に「地獄だぞ」と示せば、顔を引きつらされた。


「今は、第一でイイデス……」


 嫌な予感を察知してもらえたようで何よりです。


「それでは、地獄へようこそ。現・生徒会役員のみなさん」


 笑顔で案内させていただきます。





 その後、数日間に渡り、生徒会室から悲鳴が聞こえたり、聞こえなかったりしたらしい。


「自業自得なのに」

「何で桜ちゃんだけ、休んでるの!?」

「私の分はもう終わっているので。後はみなさんのやるべきことなので、お手伝いはしませんよ」


 今日も生徒会室は平和だ。



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