第五話:作戦会議
「大丈夫だよね?」
「大丈夫だろ。俺もいるし、危なくなればお前の異能が発動し、鍵奈も出てくんだろ」
「それはそうだろうけど……」
京の言葉でも朝日の不安は晴れないらしい。
現在は、下校時間。
私、桜庭鍵奈はただ今二人の近くで異能を使い、潜伏中です。
何故そうなったのか。理由は簡単で、『朝日へのストーカー誘き出し作戦』実行中だからである。
「それで、これからどうする。こっちの現状として、手札は相手の情報だけなんだろ?」
「まあ、そうなんだけど」
京の言葉に同意しながらも考える。
たとえ朝日を囮にしても、下手に演技などすれば、相手にバレる可能性がある。
「はぁ……自分で言っておきながら、こう言うのもあれだけど」
二人がこちらを見る。
「相手を誘き出す」
それを聞いた朝日は驚きの表情をし、京は京で納得できなさそうな表情である。
「それはつまり、朝日を囮にするってことか」
「言い方を変えればね。でも、相手にはこちらに出てきてもらう必要がある」
相手はこちらが三人であることを知っている上に、京には挑発してきた。
「それに、向こうは私たちの顔を知っているのに、私たちが向こうの顔を知らないのはフェアじゃない」
「だからってーー」
「朝日が囮になる必要はない。普段通り、京が家まで付き添えば良い」
そう、普段通りにしておいてくれればいい。
「会って、攻撃されても軌道を逸らしてくれるだけで良い。あとは私がどうにかしておくから」
「どうにかって、きーちゃんが危ない目に遭うのは嫌だよ」
「あんたが言うか」
この子は自分の現状を理解してないんだろうか?
「まあ、とにかく安心して。危ないことはしないから。逆に朝日に何かあれば私が怒られるわよ」
仮にも姫候補を何で守らなかった、ってね。
「最悪の場合、私が異能をフルに使ってでも守るから」
「きーちゃん……」
朝日が涙目になりかけてるし、京は京で目で何か訴えてくるし……
「京もいるんだから、貴女の護衛を信じて任せなさい。朝日」
ぽんぽんと頭を撫でてあげれば、朝日の涙のダムが決壊したらしい。
「きぃちゃああああん!!」
何事か、とクラスメイトたちが見てくるが関係ない。
「はいはい、恥ずかしいから、泣くのは止めようねー」
この状況が、貴方の目へどのように映っているのか、知りたいものね。
そんな余所事を思っていれば、京が視線を寄越してきたので、視線で返せば、
「さっきの台詞、お前にそのまま返す。どちらにしろ、お前ら二人に傷を負わせると上がうるさいからな」
そう言って、自分の席に戻っていった。
そういえば、と京たち南條家について思い出せば、思わず溜め息が出る。
どうやら、私よりも京の方が大変そうだ。
とまあ、こんな感じで今に至るのだが、果たして思うように引っかかってくれるかどうか。
念のため持ってきておいた愛刀を握りしめる。
「相手は物理系の異能持ち。ナイフなどの刃物を生み出せる異能。生み出せる最大個数までは把握できないけど、二人の異能なら防げるはずだから」
あの二人には、そう教えておいた。
だから、お願い。誰も傷つかせずに、片付いてほしい。
「どうか、上手く行きますようにーー」
ただただ、私はそう願う。
季節は初夏。空が夕闇から藍色に変わる時間。
ーーカツン。
そんな一つの靴音が響き、二人は足を止める。
二人の前に現れたのは、茶髪の青年。
それが誰なのか、朝日を見れば分かる。
「先輩……」
そう、標的の登場である。
姫候補については後の話で説明します
短編を読んでくれた人は気付くかな……?
鍵奈の愛刀は深緑色の鞘に入った異能も使える刀
作り手もそのうち出てくる予定です