表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第二章:一学年二学期・生徒会との接触
59/116

第五十八話:こちらも波乱な体育祭Ⅶ(“氷結の剣”)

   ☆★☆   


「桜庭」

「何。手伝い?」

「ああ」


 音を響かせながら根を切りつけていれば、風峰君がこっちに来た。


「で? 誰かに何か言われて、聞きにでも来た?」

「手伝いだって、言っただろ」


 私は疑うような眼差しを向けるが、風峰君もしつこいと思ったのか、まさか見破られるとは思っていなかったのか、少しムキになりながら返してくる。


「まあ、どっちでも良いんだけどさ」


 あまりにも効果が無さそうなので、根への攻撃を一時的に止めて、その横で素振りするかのように、御剣先輩からの刀を振ってみる。

 うん、こっちでも行けるかな。


「火属性が扱えたなら、まだ良かったんだけど、相性的には反対だからねぇ」


 無いものねだりしても意味は無いので、そう言って上空を見上げると、大声で叫ぶ。


「雪ちょーだーい!」


 聞こえているのか、いないのか。上空からの返事はないが、ほんのり雲に変化があったのと、肌寒さを感じたことで、何となくでも了承してくれたことに思わず小さく笑みを浮かべる。


「……何をするつもりだ?」


 私の表情で何かを感じ取ったらしい風峰君には、「何も?」と返しておく。


『ーーお前の魔力量なら扱えるとは思うが、デメリットの方がデカいからな。無茶は禁物だぞ』


 分かってますよ、先輩。

 『氷属性』の使い方を教えてくれた先輩(・・)には悪いけど、それでも強すぎるあの技(・・・)よりは、この技(・・・)の方が扱えると思うから。


「『天空地へと轟く天災よ。我が呼び掛けに応え、すべてを凍てつかせよ』ーー“ブリザード・テンペスト”、“氷結の(つるぎ)”」


 次の瞬間、“ブリザード・テンペスト”が『植物もどき』の動きを封じるかのように吹雪き、上空から振ってきた巨大な剣が『植物もどき』の花から根まで、ぐっさりと突き刺さったことで、『植物もどき』の蔓がこれでもかと暴れ回る。

 多分、背中に定規とかを突っ込まれたような感じなんだろう。


「けど、もう無理のはずだよね」


 “氷結の剣”の効果の一つに、『突き刺したものを凍結させる』というものがある。

 すでに“永久凍土(ツンドラ)”で根はダメージを受けているはずだから、さらに凍りつかされたら、耐えられないだろう。極寒地帯の植物でない限りは。


「……」


 (しば)し、様子を見る。

 “ブリザード・テンペスト”が収まり、『植物もどき』は氷のオブジェになったわけだが、油断は出来ないから。


「それにしても、見事に凍りついたわね」


 和花がそう言う。

 突き刺した“氷結の剣”から遠いはずの蔓の先まで、見事に凍りついていた。


「はは、頑張りました」


 正直、疲れた。

 特に、“ブリザード・テンペスト”は範囲を決めないと、周囲を崩壊させる上に、これでもかと巻き込むから。


「安心しなさい。動きは止まってるから」

「和花が言うのなら、間違いないね」


 植物関係の異能持ちである和花が言うのなら、問題ないだろう。

 早く休みたいところだが、そうは問屋が卸さない。


「風峰君、術者はどこ?」

「ああ、あそこだ」


 風峰君に示されて、そちらを向けば、そこに居たのはどこか疲弊してるような少年。


「うわぁ、何というか……」

「死んでないのが奇跡だな」


 これまたバッサリと、こちらへ来た雪原先生が言う。


「どうしましょうか?」

「聞くまでもないと思うが?」


 つまり、私にやれと仰るんですね。分かります。


「許可ください」

「俺一人だけだと無理なの、知ってるだろうが」

「じゃあ、私も出そうか。それなら、抜刀も可能になるでしょ」


 雪原先生と和花の許可証ですか。


『【雪原塁】と【咲良崎和花】の二名による許可証を承認、使用を許可します』


 ……あ、承認された。


「仕方ないか」


 この中で視えてるのは、多分私だけだろうし。


『【使用者(ユーザー)認証:桜庭鍵奈】承認しました』


 刀の(つば)の一部に血を一滴落とせば、承認画面が表示される。

 ちなみに、血による認証は、抜刀の使用度合いでしなくても良かったりする。まあ、今回は保険も兼ねてるから、血による認証をしておいた訳だけど。


「じゃあ、その子に何か変化があったら教えて。すぐに止めるから」

「了解」


 正直、今からすることは、かなり神経使うからね。

 とりあえず、少年と『植物もどき』の位置を確認して、抜刀許可が出ている愛刀を構える。


『ーー大丈夫。貴女なら出来る』


 くすりと笑う女性の声が聞こえる。


「ふぅ……『異能への魔力の供給を遮断』」


 能力指定するためにそう告げ、抜刀して地面に向かって振り下ろす。


「どう?」

「【術者の状態:軽度】、か……。病院に行けば、問題無さそうだな」


 そうか、軽度か。

 雪原先生の報告に安心しながら、納刀する。


「ちょっ、鍵奈。早く逃げないと、そいつ崩れるわよ!?」


 和花が慌ててそう言ってきたので、『そいつ』こと『植物もどき』に目を向ければ、何故か、ぐらぐらと揺れていた。


「あーまぁ、魔力供給は封じたから、何しても(・・・・)いいよね?」


 ずっと校庭(ここ)にあっても、邪魔になるだけだし。


「……つーわけで」


 愛刀ではなく、御剣先輩作の刀を構える。


「“粉砕”ってことで」


 刀に破壊系の異能をいくつか付与させ、振り切るのと同時に発動させる。


「……桜庭、俺も居るからな?」

「言われなくても、分かってますよ」


 ただ、こっちにもダメージが大きいから、粉砕後の欠片全てをどうにかするのは無理だし……。


「ーーたったこの数分で忘れられるとか思わなかったんだけど、何で私たちの異能についてまでの記憶が飛んじゃってるのかなぁ」

「……朝日」


 ーーほら、居たじゃないか。


 どんなときでも、私の無茶ぶりに溜め息混じりに付き合ってくれた幼馴染たちが。


「朝日だけかよ」

「ああ、ごめん。記憶、飛びすぎてたね」


 二人の特異異能(メイン)なのに忘れるとか、どれだけ『植物もどき』の方に意識を割いていたんだか。


「あと、こっちも謝るよ。これ以上はそっちに行けない」

「けど正直、全て異能で助かった。じゃなきゃ、俺のが効かないからな」


 それでも、範囲が広すぎるのか、朝日の結界も、京の操作も届かない場所が出てくるわけで。


「一時間にも満たないのに、対価も代償もデカいんですよーー貴女(・・)という人は」


 ーー私の手が届かなかったら、二人がどうにかしてくれる? もし、二人の手が届かないのなら、私がどうにかするからさ。


(あなた)は使わない。もう一つの刀(こっち)で十分だ」


 約束は守るから、だからーー


「きーちゃん!」


 もう少しだけ、無茶するのを許してもらえないかなぁ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ