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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第二章:一学年二学期・生徒会との接触
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第五十七話:こちらも波乱な体育祭Ⅵ(氷と風)


今回は三人称




 ーー全く、本当に無茶を言う。


 御剣織夜はそう思っていた。

 それでも、生成することを引き受けたのは、一度でも惚れた子からの頼みだからでも、後輩たちが頼ってくれるからでもない。

 状況を打破してくれそうな存在に、自分と対峙したときにさえ有った、本来あるべき物が無く、偶々(たまたま)どうにか出来るのが自分だったというだけだ。


(強度も必要だよなぁ)


 使用者はあの後輩だから、必ず一回は無茶な使い方をすると思って、あっさり折られないように、強度を上げておく。

 それにしても、と織夜は思う。

 彼女にとって、愛刀というべきの、ずっと使ってきたであろうあの刀は、どのくらいの無茶を引き受けてきたのだろうか。


「……っ、」


 最初は焦らずにやっていたが、注文の品が出来ないせいで、待っているであろう彼女と時間ばかりが経過していく。


「先輩。もし無理なら、刀だけでも……」

「いや、完成させる」


 勝利して貰うには、最低でも完成してなくてはいけない。

 もし、中途半端な状態で渡して、彼女の命が亡くなれば、目も当てられない。


(だから、なるべく早く丁寧にやらないと)


 思っても口には出さず、手だけを動かす。

 すぅっと刀の刃と鞘が出来上がっていく。

 そして、出来上がったのを見て、刃に付いていた光を振り払い、鞘へと収める。


「出来たぞ」

「ありがとうございます」


 気のせいか、朝日が嬉しそうに感謝の意を示すのだが、「後は……」と言わんばかりに、彼女は鍵奈の方へと目を向ける。


「ちょーっと、ヤバいかなぁ」


 『植物もどき』と対峙していた鍵奈は、小枝に掛けた“物理強化”と“物質強化”、“硬化”が解けてきていることに気づいていた。


「きーちゃん! これっ!」

「っ、」


 朝日に呼ばれて振り返れば、彼女から投げられた『それ(・・)』を見て、鍵奈は目を見開いた。


「これ……」

「ギリギリ可能な範囲まで再現してやったんだから、それで負けたら許さないからな!」


 そういえば、織夜の異能には“刀剣生成”という能力があったんだっけ、と思い出す。


「分かってますよ」


 しかも、朝日が頼んだのか、『氷属性』が付与されているのを、鍵奈は持った瞬間に理解した。

 そして、目を離したのがチャンスだと思ったのか、蔓が鍵奈に向かって放たれる。


「誰が捕まるかってんだ」


 鞘のまま、受け取った刀を振れば、蔓はばっさりと断ち切られる。


「あははっ、何か予想以上の切れ味なんですけど」


 よくもまあ、ここまで再現してくれたものである。

 だが、この点に関しては、愛刀より優れているのではないのだろうか。


「桜庭。とりあえず、助けられる奴はみんな助けたぞ」

「ありがとう、あとご苦労様。風峰君」


 とん、と鍵奈の隣に降り立った黎に感謝の意を示すが、やはり一人で大変だったのか、擦り傷や切り傷を作ってしまった彼に申し訳なく感じる。


「礼なら、これが片付いてからにしろ。それに、桜庭が引きつけていたから、この程度で済んでいるんだしな」

「そっか。そうとも取れるか」


 そっと息を吐いた鍵奈の足元から、氷の大きめの粒や粒子が舞う。

 黎が別に頼んだわけでもないのに、いつの間にか救助活動していたことには、鍵奈も途中で気づいていた。

 けれど、彼が助け出してくれたおかげで、鍵奈は思う存分に暴れられる。


(結局、目の前で使うことは無かったけどーー)


これ(・・)を使うような状況になったこと、これから使用すること。許してください」


 鍵奈のそんな呟きは、隣に居た黎には聞こえていたらしいが、ただ視線を向けるだけで、特に何も告げなかった。


「『凍りつけーー“永久凍土(ツンドラ)”』」


 ぴきぴきと『植物もどき』が凍り付いていく。


「あー、駄目か」


 『植物もどき』は全て凍りつく前に、蔓を使って器用にも氷を排除しに掛かっている。

 一撃で仕留(しと)めるのなら、『火属性』の能力が一番効果的なのだが、今まで近くで『火属性』の異能を見たことも使われたことも無かった鍵奈には、『火属性』が使えなかった。


「……」


 そして、“永久凍土(ツンドラ)”で根の動きは封じたものの、蔓だけではなく、花や茎の部分は未だに動き回っているのも事実だった。


「ま、やらせないけど」


 鍵奈が、織夜と同じように(・・・・・)短剣などを出現させて蔓を切断していけば、隣にいた黎も“風の刃”で蔓を切断していく。


「まっずいなぁ。このままだと術者が危ないかも」

「捜すか? 範囲が学校の敷地内なら問題ないが」

「良いの? 捜せるのなら任せるけど」


 暴れまわる『植物もどき』に目を向けながら、二人は話し合う。


「だ、だったら、私たちも捜すよ!」

「はい?」


 振り返れば、やる気満々といった(てい)の仁科を筆頭に、生徒会役員たちが居た。


「まだ居たんですか」

「悪かったな。下手に移動するよりは、ここに居た方がいいと思ったんだよ」


 一ノ瀬にそう返され、鍵奈は肩を竦めると、「どうする?」と言いたげに、黎へ目を向ける。


「俺は別に、歩いて捜すわけじゃないんだが」

「それでも、手が無いよりは有った方がいいよね?」


 仁科の問いに、黎は溜め息を吐く。


「こんな状況下で、自分の身を守りながら、術者を捜せるのか」

「ついでに言っておくと、私たちは貴女たちを守りながら戦ったりするのは不可能。この状態が続いているのは、貴女たちが下手に動こうとしなかったから」


 鍵奈は襲ってくる蔓を捌きながら、そう返す。


「う……」

「桜庭、言い方」

「それにしても、遅いなぁ」


 俯く仁科と責めるような目を向ける獅子堂を無視して、鍵奈があちらこちらへと視線を彷徨(さまよ)わせる。

 いくらメイン属性とはいえ、『氷属性』単体で扱える彼が来れば、何とかなりそうなのにーー


「遅くなったのは認めるが、お前が居ながら対処できてないのには驚いたな」

「うっさい。私にも制限があるんだよ」


 『植物もどき』の上の方から降ってきた声に、自身に向けて投げられた愛刀を受け取りながら、鍵奈はそう返す。


お前の刀(そいつ)を取りに行ってたら、思ったよりも時間が掛かった」


 『植物もどき』の上から、塁が鍵奈たちの方へと降り立つ。


「私、嘘言ってないでしょ?」

「その察知力を別に活かせ。大体、こいつが地中に居たことを省略していただろうが」

「察知してたのは私だけじゃなく、和花もしてましたー」


 ああ言えばこう言うという言葉を目の前で繰り広げる二人に、朝日は肩を竦め、京は溜め息を吐いた。

 こうして言動だけ見ると、この二人には本当に血縁関係が無いのか疑いたくなるほど、そっくりである。


「桜庭、雪原先生。来ますよ」


 黎が冷静に蔓が向かってきたことを告げる。


「上と下、どっちで行く?」

「下は根と切り離さないといけないので、私が引き受けますよ」

「じゃあ、(おとり)は引き受けた」


 役割分担してしまえば早く、二人は『植物もどき』へと近づいていく。


「君は行かないの? 風峰君」

「行っても、そんなに意味はないだろ。属性的には、あの人との方が(はかど)るだろうし」

「さあ、それはどうかしら?」


 隣に来た和花の言葉に、黎は怪訝な顔をする。


「あの根って、意外に頑丈でね。いくらあの子の愛刀とはいえーー刃がいつまで()つのかしら?」

「咲良崎、お前ーー桜庭のこと、嫌いだろ」


 和花の言葉には、暗に黎を鍵奈の元へと向かわせようとしているのが分かるが、言われた張本人である黎の返した言葉はそれだった。


「そうね、好きか嫌いかで言えば嫌いよ。だってあの子、トラブルメーカーだって自覚あるくせに、こうして巻き込まれては、こっちの気持ちすら考えずに何とかしようとするんだもん。その点からすれば、朝日たちが一番大変なんじゃない?」


 幼い時からずっと一緒だったせいで、鍵奈と関わり、彼女に関することが麻痺してもいるんだろうけど、と和花は言う。


「……」

「だから、私はあの子が嫌い。けどね、何故か一緒に居るのが嫌じゃないのよ」


 おそらく、嫉妬とかじゃなくて、単に相性が悪いだけなのに、つい一緒に居るようなのと同じかもしれないーーと、和花は付け加えた。


「…………大体、言いたいことは分かったよ」


 『植物もどき』の根の周りを傷つけていく鍵奈に目を向ける。


「あの子が君をどう思っているのかは分からないけどーー」


 二人目にだけは、ならないであげて。


 そう告げると、和花はその場から去っていった。



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