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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第二章:一学年二学期・生徒会との接触
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第五十六話:こちらも波乱な体育祭Ⅴ(勝利への『鍵』を握るのは)


今回は三人称




 鍵奈が『植物もどき』に啖呵を切ったことで、それが開戦の合図となったのだろう。

 だが、両者をいくら見比べても、状況は鍵奈の不利にしか見えず、彼女自身、それが分からないわけでもなかった。

 それでもまあーー勝てる気でいるから、対峙しているだけなのだが。


「全く、自殺願望でもあるのかね。我が幼馴染殿は」


 朝日がやれやれと言いたげに、それでもどこか楽しげに言う。

 こういう時の鍵奈は自分から突っ込んで対処しようとするし、しかも何の疑いもなく朝日たちを信頼している。

 それにわざわざ付き合う自分たちも自分たちなのだが。


「そして結局、手助けする俺たちも俺たちだがな」

「言わないでよ」


 分かってて言わないようにしていたのに、京が口にしたことで朝日はムッとする。


「さぁて、生徒会の先輩方。突っ立ってないで、手伝うか逃げるか、どちらかの行動をしてもらえるとありがたいんですがね」

「君って、意外と辛辣だよね」


 朝日の容赦ない正論と暗に守る気が無いという台詞に、双葉瀬奈月は顔を引きつらせる。

 朝日の言い方に関して、鍵奈が一緒にいるせいか、とも思っている奈月だが、実際のところ、今までが今までなだけに、単に鍵奈同様ひねくれているだけである(それでも、変にひねくれてしまった鍵奈よりはマシだが)。


「手伝うなら、早く仁科さんを回収してください。きーちゃんの邪魔になりますから。あと、きーちゃんを手伝おうだなんて馬鹿な真似だけは、止めてください」

「あ、うん」


 さすがの奈月たちも強化したとはいえ、小枝で対処している鍵奈と『植物もどき』の間に突っ込もうとする気は無かった。つか、突っ込んだら死ぬ。絶対に。


「和花、まだ?」

「もう少しだけ待って」


 普通に植物を生やしたり、それを操るだけならともかく、同じ植物ーーそれも、他人の異能によるものだと話は別になってくる(その点、“異能の操作”を特異異能(メイン)とする京は、そんなに疲弊していないが)。


「……鍵奈が(あれ)を持ってない上に使わないって事は、あの人は許可しなかったみたいだな」

「きーちゃんが何の考えもなく、許可貰いに行くわけがないのにね」


 「何年の付き合いだよ」とか「鍵奈の性格、知ってんだろうが」と事情を知る幼馴染コンビは、鍵奈に帯刀を許可しなかった人物ーー保険医の塁を、暗にそれも盛大に(なじ)る。


あれ(・・)って、もしかして、あの(・・)刀?」


 二人だけの愚痴みたいな会話に、まさかの返事のようなものが入り込んだことで、朝日と京はそちらへ勢い良く振り向くがーー


「ちょうど良いのが()ったぁ!」


 朝日と京の言葉が見事に重なる。

 そして、二人に『ちょうど良いの』と言われた御剣織夜は、訳が分からなさそうに、首を傾げたのだった。


   ☆★☆   


 一方、『植物もどき』と対峙する鍵奈は、といえばーー


「ああもう! やりにくい!!」


 仁科を(かば)いながら戦っていたせいか、少しーーいや、かなり苛立っていた。


「先輩方! この子に惚れてるなら、さっさと回収してくださいよ! 邪魔で仕方がないんですけど!!」

「そうは言うけどさぁ……」

「男なら、惚れた奴ぐらい護ろうという気は無いんですか!」


 それを聞いて、男性陣は顔を引きつらせる。

 そもそも、女子である鍵奈に対処を任せている時点で、矜持も何も無いのだが、朝日と和花はぶはっと噴き出して、思いっきり笑っている。


「やばっ、鍵奈の方が男共より男っぽくて笑えるんですけど」

「仕方ないよ。まあ、だから『王子』が似合うんだけどね」


 だが、その台詞は(まず)かった。


「……朝日、後で話そうか」

「ごめんなさい! しっかり援護しますから、『話し合い(・・・・)』だけは無しにしてください!!」


 さすがの朝日も、鍵奈の怒りだけは防げない。


「桜庭、もう少しだけ待てるか?」

「なるべく早くしてくれるなら」


 それに分かった、と獅子堂は頷くと、仁科に無言で近づく。


「仁科、俺が分かるか?」

「あ……あ……」

「放心状態、か」


 ふむ、と獅子堂は考えるのだが。


「悪い、仁科」

「ーーッツ!!」


 小さく謝罪した後、仁科の頬へと平手打ちするのだが、どうやら彼女は痛みで正気に戻ったらしい。


「あ、獅子堂くん……」

「立てるか?」

「う、うん」


 獅子堂に手を引かれて、仁科は一ノ瀬たちの元へと移動する。


「……」

「やれやれ。こういう時でも、変わらないものは変わらない、ってか」


 そう、ぽつりと呟く。

 仁科が獅子堂に手を握られ、頬を赤らめていたのを、鍵奈は見ていたのだが、半分呆れていた。

 初恋が何歳だったのかは忘れたが、相手が京でないことぐらいは覚えている。


「さて、と」


 鍵奈の漆黒の目に、白銀の光が揺れる。


「第二ラウンド、開始しますか」


 その眼にはすでに、『植物もどき』の末路が映っているのか、鍵奈はニヤリと笑みを浮かべた。


   ☆★☆   


「御剣先輩」

「ん?」

「先輩なら、きーちゃんの刀、再現できますよね」


 今ではもう許してもらえたが、あの時は本当に勘違いで自分にも非があったし、鍵奈と対峙したときにも彼女の刀は見て無くもないがーー


「一瞬だった上に、鞘に入ってたからなぁ」


 再現するには難しい、と織夜は言う。


「じゃあ、能力の付与は出来ますか?」

「それも能力次第だけど、完璧なのは無理だから」


 朝日と京は一度顔を見合わせると思案する。

 そもそも、あの刀自体、特注品のようなものだから、いくら織夜の“刀剣生成”でも再現度には限界がある。


「鞘付きの刀も可能?」

「え? ああ、可能だが……」

「鞘と刀、それぞれに能力を付与できますか?」

「それぞれ、か……」


 “植物操作”に戻った和花が尋ね、織夜が答える。


「出来なくはないとは思うけど、やったことがないから、成功率は低いと思っていてくれた方が助かる」

「そうですか」


 だが、残念そうにしてない辺り、この後輩たちにも何か考えがあるのだろう、と織夜は思う。

 実際、彼女たちに()められ、負けた自分が居るのだから。


「では、先輩。これから、かなり無茶なことを言いますが、承知の上で聞いてください」

「ああ」


 けれど、織夜は作業を始めてから、「安請け合いするんじゃなかった」と内心落ち込むのであった。





『刀本体には“氷属性”の付与を。鞘には“持っても傷付かない”けれど“刃と同じくらいの切れ味”をお願いします』


 それが、朝日たちからの注文だった。



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