第五十二話:こちらも波乱な体育祭Ⅰ(体育祭と『生徒会役員席』)
「……」
「……」
後夜祭を終えた翌日。
空は晴天。絶好の体育祭日和である。
ちなみに、『ミスコン』と『男装コンテスト』は優勝することなく(『男装コンテスト』に関しては、『騎士』さんは準優勝しました)、上級生の人たちから特に変な目で見られることもありませんでした。
「……」
「……」
そんな私が現在進行形で居るのは、『生徒会役員席』なんていう場所である。
理由としては、我がクラスが犠牲になるからだ。
そもそも、仁科さんが我がクラスの応援席にいるのだが、そうなると私含む生徒会役員が集まることになり、そこへファンも押し寄せるというループが発生しかねないので、避難場所として用意されたのが『生徒会役員席』というわけなのだ。
ちなみに、私まで一緒に『生徒会役員席』にいるのは、他の役員がうるさいからという理由のみ。彼女と同性でも嫉妬するとは、面倒くさい奴らである。
「……」
「……」
そんな私の隣に座っているのは獅子堂君なのだが、一ノ瀬先輩たちは競技参加中なので、現在は不在である。
「……桜庭」
「……何かな」
「次の競技出ないといけないから」
「ああ、行ってらっしゃい」
そもそも話すことが思いつかない上に、話したとしてもこの程度。
彼のことだから、嘘ついて仁科さんの方へは行かないと思うが、念のためということで、実行委員の子たちと本人たちから、彼らの出場競技を教えてもらって、把握しておいた。実行委員の子たちからは、時間になっても来ないようなら捕まえてくるのを条件に。
そんなこんなで次の競技の集合場所に向かう獅子堂君を見送り、ぼんやりと目の前でみんなが走る光景を見ていると、背後に知っている気配がした。
「何しに来たんだ。とっとと持ち場に戻れ、保険医」
「様子を見に来てやったら、それか。一応、これでも副顧問なんだがな」
「それ以前に、保険医だろうが。委員会顧問がよく言う」
そう、この保険医ーー雪原先生は、生徒会副顧問だけではなく、保健委員会の顧問でもあったらしい。
「そういえば、鍵依姉とは会えました?」
「ああ」
なら良かった。
「冬休み、どうするつもりだ?」
「どうって、いつも通りだよ」
雪原先生が顔を顰める。
「今年はもう、あいつ居ないから、お前一人だろ。本当、どうするか考えておけよ」
「分かってますよ」
去っていく雪原先生にそう返す。
体育祭を終えて、期末試験も終えれば、もう冬である。
「……本当、どうしよう」
☆★☆
「戻ってこないと思えば、何してるんですか。先輩方」
先輩たちの競技は終わったはずなのに、後に行ったはずの獅子堂よりも中々戻ってこないから、様子を見に来てみれば、やっぱり居た。私のクラスの応援席に。
「私も本来なら応援席にいるはずなのに、誰のせいで『生徒会役員席』にいなくちゃいけないんですかねぇ?」
先輩たちに尋ねる。
「なら、ここに居ればいいだろうが」
「周囲が見えていない人に言われても、説得力ありませんが?」
伝わるとは思えないが、遠回しに周囲の状況を伝えてみる。
「あ?」
「あ、ついに、やりますか?」
凄んでくる一ノ瀬先輩に、笑顔で返す。
「きーちゃん、落ーちー着ーいーてー!」
朝日が制止してくるけど、ごめん。やっぱり、こいつら一度はシメられるべきだと思うんだ。
「鍵奈。あんた、次の競技に出なきゃいけないでしょ。それ終わってから、シメに来なさい」
和花さん、容赦ないし、直球すぎです。
「……はぁ、それじゃ、行ってくる」
うん。だって、和花は嘘言ってないしね。
獅子堂君には悪いけど、もう少しだけ、一人で待っていてもらおう。それか、もう面倒だから、うちのクラスの方へ来ておいてくれると助かる。
とにもかくにも今は集中して、とりあえず、目の前の勝負に勝ちに行こうか。




