第五十一話:波乱の文化祭⑯(『男装コンテスト』)
今回は鍵奈、朝日視点
さすが『騎士』というべきだろうか。
『男装コンテスト』を開始するにあたり、全女子生徒を代表して、三崎先輩が相手役をすることになったのだがーー……
「この私に、君を守らせてはもらえないだろうか?」
「ーーッツ!?」
あの『騎士』さんが笑みを浮かべて一言言うと、黄色い歓声が上がり、言われた当人である三崎先輩は真っ赤になりながらも、進行担当のプライドか、倒れるまではいかなかった。
ちなみに、『騎士』さんの言った台詞は、姫と騎士系のラノベの台詞でもある。
「もう、何か勝てる気がしない」
「同感です」
『ミスコン』以上に出来レースのような気がする。この『男装コンテスト』は。
「君なら、もしかしたら対抗できるんじゃないの?」
「無理ですよ。この場の空気を一新するのって、意外と難しいんですから」
私の隣にいた先輩にそう返す。
しかも、『場』に影響を与える異能によるものなら、難易度は少しばかり上がる。
「このまま行けば、『騎士』の圧勝ですよね」
「だろうね」
騒いでいる女子生徒の中に好きな人が居る男子生徒は、悔しいのではないのだろうか。
分かっているとはいえ、相手がキャーキャー言っているのが『女』だなんて。
「圧勝されると分かっているはいえ、何とか票を分散させたいところですね」
「そうだね。まあ、本命は彼女、対抗が君、大穴が私を含めた他の出場者、と言ったところじゃないのかな。少なくとも、事前調査だとそんな感じだったし」
「事前調査について、詳しく聞いておきたいところですが、それは後にしますよ」
今は本番中ですし。
「そうしてくれると助かる」
そんな私たちがこそこそ話している間にも、『男装コンテスト』は着々と進んでいく。
私は、といえば、とりあえず思いついた策の順番を何度も脳内で確認する。
『騎士』が異能で場を占めるのなら、こちらも異能で対抗しよう。
ーー黒歴史が一つ増えることになるだろうけど。
私の精神が犠牲になるが、それでも、『騎士』に票を持って行かれないようにするためには、やるしかないのだ。
ちなみに、場を支配する異能なら、私も使えますしね。
☆★☆
「鍵奈の奴、自分から黒歴史を作りに行ったか」
「というより、黒歴史の再来、ってところじゃないかなぁ。あれは後で唸るよ」
和花たちは首を傾げているけど、中学が一緒だった私たちには分かる。
きーちゃんが、劇の王子役になった理由。
私たちが煽ったのもあるが、私が個人的にもう一度見たかったからである。
何だかんだでお人好しなきーちゃんのことだから、普通に頼めば考えてくれるのだろうが、何せ中学でのことがあるから、そのせいで戸惑うことも分かっていた。
そんなあの子が、自分から黒歴史を引っ張り出してきた。
「姫、気晴らしも兼ねて私と踊りませんか?」
「え? あ、あの、その……」
司会の先輩ーー三崎先輩に、きーちゃんは手を差し出して尋ねる。
こんなの、始まりにしか過ぎない。
これから始まるのは、『場』の支配。
『騎士』の先輩が引いた『場』を壊し、書き換える。
「えっと……それじゃ、お願いしようかな」
出場者を平等に扱おうとして引き受けたんだろうけど、もう遅い。
「どうやら、気づいたみたいだな。あの『騎士』の人」
『場』が壊れていくことが分かったのだろう。
「きーちゃん、男性側の動きも覚えていたからね。相手が慣れてなくとも、リードする程度には余裕だよね」
くるくると壇上で踊る一組の男女(見た目だけ)。
踊り終わると、異能の影響で夢心地なのか、ぽやんとした状態のまま、三崎先輩が司会者席にまで戻る。
「……相手が朝日だったら、効果が跳ね上がっていたんだろうけどな」
「京くん?」
何を言っているんだというつもりで言い返してみれば、こちらを見ていた京くんと目が合う。
「……」
「……」
「見つめ合ってないで、さっさと投票する」
しばらく見つめ合っていたら、どこかイラついた様子で和花が言ってくる。
どうやら、きーちゃん以降の人の出番が終わっているらしく、それだけの時間、見つめ合っていたらしい。
「っ、ああ、うん」
「ああ」
疚しいことがあるわけじゃないのに、互いにすぐ視線を逸らし、誤魔化すようにして慌てて投票する。
そして、回収されていくのを見て、ほっと息を吐く。
「とりあえず、後は結果だけか」
「だねー」
ふと気になって、風峰くんに目を向けてみれば、先程まできーちゃんたちがいた壇上を見つめていた。
何か気になることでもあったのかな?




