第四十九話:波乱の文化祭⑭(思い出すのは)
今回は京、鍵奈視点
「きーちゃん、どうするんだろうね」
先程とあまり変わらない、(帽子は無いが)王子姿の鍵奈が立つ舞台を見ながら、朝日が呟く。
「さあな。それに、異能を使うにしても、あいつの場合は難しいだろ」
「まぁねぇ」
そもそも、あいつはこういうのは苦手な方だから、今頃は脳内フル回転で考えているのだろう。
「男装コンテストなら、迷わなかったんだろうけどね」
それには思わず同意してしまう。
王子姿を見慣れているせいかもしれないが、あいつが物語のお姫様のようにドレスを着たとしても、鍵奈の第一行動は守護と戦闘になるから、せっかくのドレスも無駄になってしまうのだろう。
(ちゃんとした場所に出れば、『本物のお姫様』なのにな)
それでも、王子や騎士であることを選ぶのだ。あいつは。
似合う似合わないは別にしたとしても、鍵奈の場合は守られるより守る方が様になるし、後方支援も向かない。得意分野は、前衛と中衛なのだから。
「みんな、ドレスなんだから、着れば良かったのに。あれじゃ、逆に目立つでしょうに」
咲良崎が言う。
「無理だよ。きーちゃんは動きにくいとか言って、絶対に着ないから」
「二人の前でも?」
「本家兼実家でのパーティー関係ぐらいでしか見たことないよ。もちろん、中学の文化祭とかは論外だけど」
事情だけは知っているのか、朝日の言葉に咲良崎は顔を逸らした。
「嫌なこと思い出させたのだとしたら、悪かったわ」
「別にいい。もう、過ぎたことだしな」
そう。もう過ぎたことだ。今更、蒸し返したりしても意味がない。
『高校入学』というのが、いろいろと切り替えるのに、ちょうど良かった。
『ーーごめっ、ん、なさ、いっ……』
あいつがーー鍵奈が、珍しく泣きながら自身を責め続ける原因となった『あの事件』についても。
だから、軽口たたけるようになった今では、俺も朝日も安心はしている。
まあ、半年以上、一年未満なのに、『副会長』なんてやる羽目になったせいで、それを筆頭としたあいつのストレス(やその原因)については触れないで於いてやるが。
けれどーー『あの時』と同じように、一年は巡るわけで。
刻一刻と少しずつ、冬が近づいて来ようとしていたのだけは分かっていた。
「あ、きーちゃんの番だ」
順番も気づけば鍵奈に回ってきていたらしい。
朝日の声に、鍵奈の方に目を向ける。
さて、どんなアピールをしてくるのかね。あいつは。
☆★☆
ーー大丈夫。
そう暗示させるかのように、中学よりはマシだとも言い聞かせる。
私の前にいた子ーー仙堂舞南ちゃんが、今はアピールしている。
彼女は魔女の衣装だったのだが、私の印象からすると、呼び方は『さん』よりも『ちゃん』の方が似合うような子である。
私と話していた時にもそうだったが、同学年が相手でも丁寧に話すのは、ずっと変わらないらしい。
「頑張ってください」
アピールを終えた舞南ちゃんが、こっそりと声を掛けてくる。
それに、小さく頷いて、一歩前に出る。
遣り過ぎず、遣りなさ過ぎず。イメージはそんなアピール。
本来なら、勝ちに来ている人も居るから、本気でやった方がいいんだろうけど、私が本気出すと少し面倒くさいことになるからね。
だからーー
「“幻想世界”ーー“氷雪”“桜花”展開」
空間で攻めることにした。
雪降る中に桜の木が存在し、桜の花が開いている。
奇妙にも見えるはずの光景だが、私の持つ本来の能力を使った結果である。
完全なる幻影だが、他の人たちを見ると、ほぅとしている人たちも居ることから、効果はあったのだろう。
ちなみに、この“幻想世界”に私の姿はどこにもなかったりする。
「そろそろ、現実に戻ろうか」
いきなり“幻想世界”を解除したせいで、一気に現実に戻ったのだろう。客席が騒がしくなる。
本来なら、徐々に現実に戻すことも出来たけど、時間がないし、男装コンテストもある以上、魔力を消費したくなかったのだ。
『はっ……! 私は何を……こほん。これにて、出場者のアピールは全て終了。みなさん、投票をお願いします!』
さすが司会進行役というべきか、呆然としていた三崎先輩がいち早く復活し、みんなに投票を促す。
どこからか、少し不満げな視線もあるが無視する。
その後、学校祭の実行委員たちに促され、舞台袖に引っ込むのだがーー
「副会長。もしかして、やっちゃったんじゃない?」
舞南ちゃん。分かっていても、それだけは言わないでくれ。




