第四十八話:波乱の文化祭⑬(ミスコン開始)
さて、ミスコンとは言ったが、ここ千錠学園高等部のミスコンには、少し独自のルールが存在している。
その一つがーー
(無くて良かった。水着審査)
完全に、とまでは行かないが、『水着着用によるアピールが無いこと』である。
というのも、季節の変わり目であるこの時期に、下手に水着を着たりして風邪を引いては意味がない。だから、無理を通してでも水着を着用する場合は、最終的に自己責任なのである。
まあ、良いとこの子息令嬢も通う千錠学園である。嫁入り前の娘が、人前で肌を見せることに意を唱えない者が居ないわけでもない。
「それで、副会長はその姿で出られるんですか?」
飛び込むような形になったためか、エントリー順は最後になってしまったが、一つ前ーー隣に並んでいた子が尋ねてくる。
ちなみに、彼女は推薦枠らしく、予算確保のために出場させられたのだとか。
……この事を知るのは、高校だけでも、何人居るのだろうか。
「まさか。仮にもミスコンだし、ちゃんとお題にも対応はするよ」
独自ルールーーうん、これはそう言って良いのかは分からないがーーその二、お題が決められている。
お題といっても、その時その時で様々だが、今回は『仮装orコスプレ』とのこと。
言い方が違うだけで、(制服や私服以外の)いつもと違う姿をしていれば、結局は全て一緒じゃないかと思う私としては、ハロウィン参加者にも少しばかり謝る必要があるのだろう。
さて、先程も言ったが、今回のお題は『仮装orコスプレ』なのだが、出場者を見ると、何というか全体的に『ファンタジー』一色である。
『仮装orコスプレ』とはいえ、全体的には『ファンタジー』だからなのか、妖精とか魔法少女のような衣装の子たちが多いのか、とも納得できる。
私も、王子姿で出られなくはないのだが、後夜祭のオープニングからずっと居たわけだから、印象に関してはあまり票は集められない。
けれど、他の衣装を用意している時間も無い。
「それだけでも、十分お題には合ってると思いますけど……」
「そうかなぁ」
まあ、このままの方が楽なものも楽だし、このままで良いかな。
「ん。場違いとかではあると思うけど、このままで居ようかな」
但し、帽子は脱いで、髪型だけ変える。
『それでは、皆さんに入場してもらいましょう! どうぞ!』
舞台の方から、三崎先輩の声がしたので、候補者たちとともに舞台上へと歩いていく。
(……おや)
舞台上に出て、気づく。
三崎先輩の隣には双葉瀬先輩が居たのだが、どうやら、私たちが準備している最中に、司会席に移動していたらしい。
ただ、私が見ていることに気づくと、顔を引きつらせて、そっと目を逸らした。
……原因は貴方ですか。先輩。
『さて、今回のテーマは『仮装orコスプレ』。皆さん、見た目はファンタジー色が強いようにも見えますが、見た目、特技などのアピールの二点から、投票してください』
うん……?
『投票結果は後夜祭の最後に発表となりますので、結果はお楽しみに!』
……。
『それでは、参りましょう! エントリーNo.1。三年三組、水之江由樹さん!』
トップバッターである水之江先輩の衣装は『妖精』。
バレエや新体操をしているのか、ピンと伸びた背筋とスタイルの良さを活かした舞を披露していた。
さて、私はどうしようか。
そもそも、アピールがあるなんて聞いてもないし、知らない。
『エントリーNo.2。三年二組、花宮華音さん!』
トップバッターの水之江先輩の後に出たのは、小動物のような、庇護欲を掻き立てられそうな花宮先輩だ。
水之江先輩が美人系なら、花宮先輩は可愛い系になるのだろう。
そんな花宮先輩の衣装は『親指姫』らしく、花のように見えるドレスを着ていた(別にテーマは『花の妖精』でも良かったと思うが)。
アピールの方はというと、彼女の異能なのか、舞う花弁の中を踊るというものなのだが……先輩、水之江先輩と被ってます。
「可愛いよー」
「華音ちゃーん!」
あ、居るのね。ファンが。
「うわぁ、もう帰りたい……」
「あはは、出来レース感があるよねぇ」
私の前に居た子が苦笑いする。
「あと、先輩たちに勝った場合もヤバいよね」
「そういえば、副会長も生徒会役員選挙の時は凄かったよね」
「ぐっ……」
せっかく忘れてたのに……。
『エントリーNo.3。二年二組、香宮真凛さん!』
「っ、げほっげほっ!」
「大丈夫……?」
聞き覚えのある名前に噎せれば、心配そうに声を掛けられたので頷いておく。
つか、香宮先輩。何やってるんですか。
というか、ミスコンに参加してたんですか。
そんな香宮先輩のアピールは、着ている衣装の周りで、光の粒子的な物が彼女を中心に渦巻くように舞っている。
「あれ、もしかして香り……?」
もしかしたら、珍しい異能が見られるかもしれない、と思っていたのだが、先輩の異能は、香りを見せることも出来るらしい。
「なるほどね。『本来見えないはずのものの視覚化』か。考えたなぁ」
そして、今回の場合は、『香り』に関する異能が扱える香宮先輩だから出来たことでもある。
『エントリーNo.4。一年四組、安西可憐さん!』
どうやら、私たち以外にも一年生は居たらしい。
といっても、彼女の場合、名前とは逆に、男装が似合いそうなタイプであり、ある意味、『王子様』なのだろう。
だが、現在の彼女の格好が『ショートヘアのメイド』なので、活発系にも見えなくもないが。
そんな彼女のアピールは、小道具として持っていた箒を楽器などに見立てたエア演奏(音も無いが)。
「道具を使うの、許されてるのかぁ」
前半三人が異能によるアピールだったため、異能でアピールしないといけないのかと、少し焦っていたんだけど。
まあ、小道具が許されなければ、アピールの幅はかなり狭まってしまい、票も参加者も減ってしまうのだろう。
「さて、私はどうしようかなぁ」
あるとすれば、衣装以外、何の用意も出来ていないこの状況。
私の異能は、演出方面が出来ないこともないが、基本的には戦闘向きが多い。
「……」
私の出番は一番最後。
それまでは、じっくりと考えようじゃないか。




