第四十四話:波乱の文化祭Ⅸ(飛んできた空き缶とアドリブ)
今回は鍵奈視点、三人称
ただ、鍵奈視点と三人称部分が混ざってる部分もあります
軽く深呼吸をする。
「もしかして、緊張してる?」
「してる。しかも身内も来てるから、ミスできないし」
あの三人の前では、やっぱりミスはしたくない。
「他の人の家族ならそんなに気にならないけど、身内がいるって分かるとね」
朝日も緊張しているのか、私と似たようなことを言っている。
「けど、どっちみちやるしかないだろ」
京もそう言いながら、それなりに緊張しているらしい。手にしている台本がヤバいことになっている。
「三人は、人数の多さより、身内が来てることの方に緊張するんだね」
「けど、仕方ないわよね。完璧超人に近い兄姉が見てるとなると」
真衣の言葉に、和花がそう返す。
「はっはっはー。和花、それは嫌味か?」
「嫌だなぁ、真に受けないでよ」
口は笑っているのに、目は笑わずに話していれば、いつの間にか私たちから周囲が距離を取っていた。
「ま、ここまで来たら、腹を括って成功させるしかないでしょ」
「だね」
改めて気合いを入れ直せば、朝日も同意するように頷く。
「それじゃ、行こうか」
一日目と同じ舞台へ。
☆★☆
ララ姫ともう一人の姫君、ヒサ姫は仲良くお茶会をしていた。
それを微笑ましそうに見守るのは、彼女たちの婚約者である二人の王子。
「紅茶のお代わりはいかがかな? お姫様方」
ギーゼルが空になりそうなカップを見ながら、そう告げる。
「そうですね。では、お願いします」
ララ姫たちから頼まれたギーゼルが、二人のカップに淹れ直した紅茶を注いでいく。
「はい、お待たせしました」
ララ姫とヒサ姫の前に、ギーゼルは紅茶を置いていく。
「お前って、相変わらず紅茶淹れるのだけは上手いよなぁ」
「うるさい。だがまあ、侍女たちより、上手く淹れられる自信はある」
ヒサ姫の婚約者であるキョウに言われ、ギーゼルは何故か胸を張る。
そんな彼に、キョウは呆れた目をする。
「あのなぁ、仮にもあいつらはプロだぞ? お前はそいつらにーー」
ーーカラン。
突如、軽い音が鳴り、彼の台詞ーー後に続くはずの喧嘩売るのか、という言葉は続かなかった。
「え?」
その声を発したのは、誰だったのか。
ころころと舞台を転がるのは、その場にあるはずのない空き缶で。
「……やれやれ、誰がこんなところにゴミを置いておいたのか」
みんなから「ナイス、アドリブ!」という視線を向けられたけど、今はそれどころではない。
どうやら、この空き缶は異能で飛んできたらしい。
「ギーゼル、それは俺が預かろう」
「良いのか?」
「構わない。ここはこちらの城だ。客人にゴミを持たせたままにするわけにはいかないだろう」
「分かった。じゃあ、こっちは見なかったことにしよう」
ここからは、もうアドリブで対応するしかなかった。
中学の時からそうだけど……場慣れって、怖い。
『ララ姫』こと仁科さんと『ヒサ姫』こと朝日が、不安そうな目を向けてきた。
「大丈夫。キョウが行ったから」
ゴミを捨てに行ったのか、連絡に行ったのか。
それをあえて示さないことで、暗に二人へ伝える。
「なら、良いんだけど……」
「だから、キョウが戻ってくるまでは、私が側にいさせて貰いますね。ヒサ姫」
「分かりました」
暗に警戒してることを示せば、朝日も了解、と示してくる。
「では、キョウがまだ戻ってきていませんが、お茶会を再開いたしましょうか」
二人の意識を劇へと戻し、私はこっそり異能を発動する。
さて、空き缶を飛ばしてきた術者さんは、次にどんな手で来るのかな?




