第四十一話:波乱の文化祭Ⅵ(文化祭・二日目)
さて、一日目は何とか乗り切り、文化祭二日目である。
だが、今の私の心は楽しみどころではない。
「帰りたい」
「来て早々、何を言っとるんだ。お前は」
みんなから呆れた目で見られるが、大したダメージではない。
「もういいでしょ? 出欠確認も終わったんだから」
「いいわけあるか。主役不在で劇が成り立つわけ無いだろうが」
どうやら京は逃がしてくれないらしい。
「何か、朝一で連絡あったみたいでね。午後の部の司会進行を任されたみたい」
「午後の部の司会……ってことは、ミスコンとかの司会することになったのか」
「そうだよ」
朝日が説明すれば、確か、と京が思い出したように言う。
『桜ちゃんが紅一点ってことで一番分かりやすいから、生徒会代表として、司会をお願いね』と双葉瀬先輩に頼まれたのだ。朝一で。
「そもそも、ミスコンとか、推薦以外なら自分に自信がなきゃ出ようとは思わんだろうに、よくやるよ」
「負のオーラを撒き散らすなよ」
ミスコンなんて無ければ良いのに、と愚痴れば、みんなからまた呆れた目を向けられた。
「それより、『男装・女装コンテスト』もやるんでしょ?」
「男装はともかく、女装は人によっては悲惨だろうなぁ」
和花の言葉に、朝日が遠い目をする。
「まあ、出場するなら言って。メイクだけはしてあげるから」
「っていうか、出場云々ならお前の方が確率高いだろ。王子役な上に、あちこち歩き回ったんだから」
「自分から行かなくても、推薦があるからね。誰か一人は推薦すると思うよ?」
ああ、それがあったか。
「否定できないのが悔しい……」
「けど、桜庭は司会する予定だから、もし出場するとなれば、出場か司会のどちらかを止める必要があるんじゃないのか? 司会も兼任すれば、出場者よりも先に結果を見ることになるんだろうし、そうなればフェアじゃない」
桜庭なら誤魔化したりはしないだろうが、と付け加えられる。
短い付き合いだけど、今日までの私の言動でそれはないと判断したのかもしれない。
「そっか、そういう考えも出来るかぁ。けどもしそうなったら、きーちゃん、どっち選ぶの?」
「司会」
即答だった。
けど、風峰君の言う通り、そういう考えもあるのだ。
それでも私は、司会を選ぶけど。
「まあ、鍵奈の性格からすれば、そうよね」
納得、と言いたげな和花に、思わず目を向けてしまう。
悪かったな、分かりやすい性格で。
「まあ、何か手伝えることがあったら言え。手伝ってやるから」
「きーちゃんのことだから、言ってくれないとは思うけど、この前の件、忘れたとは言わせないからね?」
あーはい、仕事のし過ぎで倒れたあの時のことですよねー。
「大丈夫。覚えてます」
「ならいいけど。でも、ちゃんと言いなよ?」
「はいはい」
最後の駄目押しとばかりに言う朝日に、適当に返事をすれば、本当に分かってる? と目を向けられる。
「ちゃんと分かってるから」
それに、このメンバーなら大丈夫だということも、よく分かってる。
「じゃあ話も終わったことだし、みんなで周りに行く?」
「鍵奈は生徒会の方は良いのか?」
「大丈夫。どうせ先輩たちは仁科さんと一緒だろうし」
和花の提案に、京が確認してきたのでそう言えば、「あー」と言いたげな表情を返された。
「劇の方も、次の時間までに戻れば問題ないだろうし」
「時間的にヤバくなったら、私が転移させようか?」
「止めて」
「止めろ」
「止めなさい」
朝日、京、和花の順に止められた。
「あんたの異能は普通のとは違うんだから、人目があるところでほいほいと使わないの」
「それに、来校者はともかく、学校にいる奴らにはどう誤魔化すつもりだよ」
お前の嫌う面倒事になるぞ、と言われれば、それまでだった。
「じゃあ、止めておきます」
「そうしておきなさい」
素直に従えば、和花がやれやれと言いたげに息を吐く。
そして、財布や携帯などの貴重品を手にしたら、私たちは出し物を見て回るために、教室を後にするのだった。




