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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第二章:一学年二学期・生徒会との接触
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第四十話:波乱の文化祭Ⅴ(疑惑とお化け屋敷)


今回は三人称、鍵奈視点




 前を行く後輩たちの背中を見ながら、一ノ瀬と双葉瀬の上級生組は歩いていく。


「どう思う?」

「どうって、何が?」


 一ノ瀬の問いに双葉瀬は問い返す。


「分かってて言ってるだろう」

「まあね」


 責めるような言い方をする一ノ瀬に、双葉瀬はあっさりと肯定する。


「ナイフを避けていた桜庭の動きなんだが……」

「うん、何か慣れていた(・・・・・)よね」


 二人の脳裏にあるのは、先程の光景。

 普通なら、野次馬と化すか、手出しをせずに様子を見るかのどちらかであり、途中、看板が真っ二つにされたにも関わらず、退く姿勢を見せずに対峙していた。


「動きから察するに、あれが初めてじゃないんだろうな」

「しかも、無傷で避けきってる辺り、相当ああいうことに手慣れてるんだろうね」


 双葉瀬の、鍵奈を見つめる目が細められる。

 後輩の少女二人は、クラスの出し物が劇であるためか、姫と王子の姿をしているのだが、それがいやに似合っており、先程の光景が『姫を守る王子』に見えなくもなかった。


「調べてみるか?」

「別に構わないけど、出身中学の名前を出したがらないのを見ると、少し難しいかもしれないね」


 彼女と会い、対峙した時のことを思い出したのか、顔を背ける一ノ瀬に、双葉瀬は苦笑する。


「ま、最初は役員権限で見られるデータベースから当たってみようよ」

「そうだな」


 双葉瀬の提案に一ノ瀬は頷く。

 千錠学園高等部の生徒会には、各生徒の個人情報があるデータベースにアクセスできる権限がある。

 だが、仮にアクセス出来たとしても、分かるのは顔と生年月日、星座に血液型、好きなものや嫌いなもの、趣味や特技に使用異能、出身中学という簡単なプロフィールのような情報(もの)ぐらいであり、それ以上の情報は教師たちでなければ見ることは出来ない。


「せんぱーい、来ないなら置いていきますよー」


 付いてきていないことに気づいたらしい鍵奈から声を掛けられ、気づけば彼女たちとの(あいだ)に出来てしまった()を埋めるべく、二人は駆け寄りながら思う。


 ーーとりあえず今は、この文化祭を楽しもうじゃないか。


「んー、置いていかれるのだけは嫌だなぁ」


 せめて、みんなが頑張って用意してくれたこの文化祭ぐらいは。


   ☆★☆   


 先輩たちから、視線を感じる。

 多分、さっきのことでおそらく疑われているんだろうけど。


「とりあえず、校舎外は見終えたから、校舎内に入ろうか」

「この人数だし、邪魔になったりしないかな?」


 仁科さんが、外同様に中も混んでいるのでは、と思ったらしい。


「大丈夫でしょ。いざとなれば、役員たちを置き去りにすればいいんだし」

「えっ」

「桜庭。そういうのは、思っても言わないものだろうが」


 固まる仁科さんを余所に、獅子堂君にそう返される。


「いや、そういう問題じゃないよね!?」


 どうやら、生贄扱いされていることに気づいたらしい。


「可愛い後輩を思って、引き受けてくれてもいいじゃないですか。生贄」

「生贄って言っちゃった!? 今、生贄って、言っちゃったよね!?」


 ああもう、双葉瀬先輩は毎回ではないにしても、本当にオーバーリアクションしてくれるから、からかいがいがある。


「桜庭。奈月をいちいち騒がせるな」

「そんなつもりは無いんですがね」


 そんなつもり、もの凄い端っこに、あったりします。

 さて、靴を履き替えれば、これから校舎内の見回りである。


「どこから行く?」

「うーん……」


 パンフレットを見ていた仁科さんに聞かれ、唸る。


「決まってないなら、俺たちのクラスに来るか?」


 一ノ瀬先輩がそう言ってくる。


「先輩のクラスの出し物って……」

「ん? お化け屋敷だな」


 うわぁ、絶対に一ヶ所はやる定番かぁ。


「もし、二人ずつ入ることになるのなら、私と仁科さんがペアですからね?」


 そう言えば、「えっ」とか「なっ」と反応する役員の皆さん。


「何でそうなる」

「誰が分かってて、仁科さんと二人きりにさせると思ってるんですか」


 睨みつけてくる先輩方に、そう言い返す。


「あれ?」

「きーちゃん?」

「ん?」


 呼び掛けられたので振り向けば、京と朝日がそこにいた。


「もしかして、お化け屋敷に入るの?」

「どの程度なのかなぁ、と思って」


 さすが、実家が神社で霊も見える朝日である。


「それにーー」

「「あの三人のものに勝るお化け屋敷は無い?」」


 朝日と声を合わせて言ってやれば、「お前らなぁ」と京が言ってくる。

 そんな風に話していれば、背後から怒気を感じる。


「ほぉ、好き放題言ってくれるじゃねぇか」

「いや、でも、うーん……」


 多分、鍵依姉たちが作ったお化け屋敷の方が怖いと思うしなぁ。

 私の中じゃ、若干トラウマ化してるし。


「なら、試してみるか? 少しでも悲鳴を上げた方が負け、ってことで」

「ペアで入ったら、どちらの悲鳴か分からないじゃないですか」


 朝日たちはともかく、私は仁科さんと組むのだ。

 仁科さんに悲鳴を上げられて、私の悲鳴だと勘違いされては意味がない。


「そのための、男女ペアじゃない」

一組(ひとくみ)、同性ペアになりますが?」

「気にしない、気にしない。はい、クジ引いて」


 差し出されたのは、いつの間に作ったのか、小さい紙に書いて折り畳むタイプのクジだった。

 何かデジャヴを感じつつ、とりあえず、異能を使って確認すれば、特に怪しいものは無いらしい。


「同じ数字同士がペアね。そして、入る順番でもあるから」


 そんな説明を聞き、みんなでクジを取っては開いていく。


「あ、一番です」

「俺もだな」


 トップバッターは、仁科さんと一ノ瀬先輩らしい。チッ。


「僕、二番だ」

「俺もですね」


 同性ペアは、双葉瀬先輩と獅子堂君という先輩後輩ペアらしい。

 ということは……?


「……三番」

「三番だな」


 ラストは、私と八神先輩だった。


「クジのやり直しを要求します」

「つか、一ノ瀬。お前が代われ」


 何で私たちを組ませた。


「えー、何度やっても一緒だと思うけど?」


 そう言いつつ、クジをやり直してみれば。


「あ、また一番です」

「今度は俺か」


 引き直しトップバッターは、仁科さんと獅子堂君。


「……二番」

「僕も二番だよ。桜ちゃん」


 二番手は、私と双葉瀬先輩。

 つまり、残ったのはーー


「また三番目か」

「おい、獅子堂。そこ代われ」


 一ノ瀬先輩と八神先輩という二年生コンビ。


「っていうか、八神先輩。文句言い過ぎです。先輩が仁科さんとペアになるまでクジを引き続けるの、嫌なんですが」

「お前……」


 こっちを睨みつけてくるけど、知った事じゃない。


「とりあえず、早く行くなら行きましょう。他の所にも行けなくなるので」


 もうこうなったら、ペアは誰でもいい。

 とりあえず、トップバッターの仁科さんたちをさっさと行かせる。


「あ、桜ちゃん。もし、怖かったらーー」

「いえ、結構です」


 最後まで言わせる前に遮って、中に入っていく。

 中は暗く、方向が分かりにくいが、『順路→』と書かれた紙だけは明かりに照らされていた。


「……ねぇ、桜ちゃん」

「何ですか?」

「もし、怖かったらーー」

「怖くはありません」


 というか、何か出てくる度に「ひっ」とか声を上げるのを見ると、何か可哀想になってきた。


「……手と肩なら貸しますよ?」


 そう言えば、無言でしがみつかれた。地味に痛い。

 あと、前方からきゃーきゃー言う声が聞こえてきたが、無視だ。


『う~ら~め~し~や~』

「……凝ってるなぁ」

「ちょっ……」


 そう言ってみれば、何故か幽霊役の先輩(女)に泣き出された。


「……もしかして、桜ちゃんって、心霊系って信じてない方?」

「いや、いるとは思いますよ」


 実際、幽霊っぽい存在は側にいるし。


「それにしても、中々ゴールが見えないね」


 その言葉に、足を止める。


「桜ちゃん?」

「双葉瀬先輩。一ノ瀬先輩に、もう出たか聞いてもらえますか?」

「え? 別に構わないけど……」


 双葉瀬先輩が一ノ瀬先輩と連絡を取り始めたのを見て、私は周囲を確認する。

 そもそも、このお化け屋敷は、教室を丸々使っているようで、少し入り組んだルートだとしても、そろそろゴールしていてもおかしくはないはずなのだ。


「あの、桜ちゃん」

「はい」

「律たち、もう出てるって……」


 顔を引きつらせながら、今の状況で冷静になってきたのか、双葉瀬先輩がそう言ってくる。


「そうですか……」


 嫌な予感がひしひしと伝わってくる。

 異能で今いる場所を見てみれば、やっぱりというか、別空間を利用した別ルートらしい。


(脱出するのは簡単だけど……下手に壊すわけにも行かないし……)


 本当、どうしたものか。

 ……いや、これが異能によるものなら、気にする必要はないか。


「……らちゃん、桜ちゃん」

「っ、」

「大丈夫?」


 双葉瀬先輩が心配そうな顔で覗き込んでくる。


「あ、はい。少しこの状況について考えてまして」

「なら良いんだけど、かなり強く握っていたから」

「あ、すみません」


 無意識に強く握っていたらしい。


「それで、何か分かった?」

「まあ、いろいろと。とりあえず、ここから出ましょう」


 どうするの、と言いたげな双葉瀬先輩に、「ちゃんと手を握っておいてくださいね」と言いながら、異能を発動する。


「……もう、出た?」

「はい。ゴールに行きましょう」


 双葉瀬先輩はもう大丈夫そうなので、手を離して一人ゴールから出れば、廊下の眩しさに眼を細める。


「桜庭さぁん!」


 仁科さんが飛びついてきた。


「……仁科さん」

「怖くなかった? 会長たちより遅かったから心配したよ」

「あーうん。大丈夫」


 というか、お化け屋敷に関しては、双葉瀬先輩が怯えすぎてて、あの空間に関しては、あっさり対処できることに気づいたら、冷静になったし。


「良かったぁ」


 安堵の息を吐く仁科さんに、私は肩を竦める。

 それにしても、術者の標的(ターゲット)と目的は何だったのか。

 能力的には私たちの誰かが標的だったのは分かる。だが、目的は何だ? 誰かを閉じ込めるつもりだった、とか?


「……けど、実行する場所がお化け屋敷である必要があった? いや、それなら他にも同じ条件を満たす場所があったはずだし……」

「さ、桜庭さん……?」


 ぶつぶつ言っていれば、目の前にいた仁科さんが頬を引きつらせていた。


「ああ、ごめん。少し考え事してた」

「そ、そうなんだ」


 とはいえ、空間系の異能なんて、そうそう目にすることは無いからね。

 きっちり、この目で視させて(・・・・)もらいましたよ。術者さん?


「あと、先輩。やっぱり、そんなに怖くありませんでした」

「お前……」


 軽く手を挙げながら言えば、今度は一ノ瀬先輩が顔を引きつらせた。

 中からは、悲鳴が聞こえてきているから、無理もないとは思うけどさ。


「……そこは嘘でも良いから、怖いと言っとけよ」

「きーちゃんが嘘をつかないのは良いところ!」


 京は頭を抱えて、朝日は良い笑顔でそう言うけど……お二人さん、フォローにも慰めにもなってませんよ。


「お前ら……」


 どうやら、一ノ瀬先輩も察したらしい。


「ほ、ほら次行こうか」


 これ以上、空気が悪くなる前に、仁科さんがそう促す。


「それもそうだね」

「空気悪くした張本人が同意してんじゃねーよ」


 そんな会話をしつつ、私たちのクラスの出し物の宣伝と見回りはまだまだ続くのだった。



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