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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第二章:一学年二学期・生徒会との接触
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第三十七話:波乱の文化祭Ⅱ(宣伝役のペア決め)


「うぁー……疲れたぁ」

「ご苦労様」


 さて、時間は飛んで、劇終了後。

 伸びをし、ぐったりしていれば、朝日がそう労ってくる。


「それにしても、きーちゃん。ガチだった上にマジだったね」

「どこかの誰かさんたちがハードルを上げたからでしょ?」


 衣装も衣装で気合いが入っていたせいもあるかもしれないが、私はそれに応えたまでだ。

 まあ、途中途中で観客席から歓声のような声や悲鳴のような声は聞こえていたが。


「ねぇ、何か待ってる人がいるけど、どうするの?」

「うん……?」


 外を指さしたままの霞に言われ、こっそり外を見てみれば、アイドルの出待ち程ではないにしろ、きっと待ち合わせか何かでそこにいるのだろうそれらしい人たちと、こちらの視線に気づき、ひらひらと手を振ってきた人物(しりあい)を見て、無言で顔を引っ込めるという私の対応は間違ってないはずだ。


「どうする? 朝日たちはともかく、今鍵奈が出て行ったら、騒ぎになると思うけど……」

「多分、それは大丈夫だと思う。それに、何で一学校の文化祭に出ただけで出待ちとかが起こるのかが疑問だけど」


 まあ、あれがもし本当に出待ちで、ここから出て行くのなら、人数の少ない今のうちかもしれないけど。

 手を振ってきた人物(しりあい)の方が、間違いなく目立つ気がする。


「ああ、それなら部活の先輩から聞いた話なんだけど……」


 去年かその前に凄い演技力の持ち主がいて、その人の出ていた劇ーー私たちみたいなクラスの出し物だったらしいーーが注目を集め、集客率は劇部門ではダントツ。

 翌年の文化祭では、そのことを知る面々から、裏方に徹してくれと言われたことで、その人は表側に立つことはなかったのだが、とにもかくにも、その人が凄すぎたために、まだその記録を塗り替えたクラスはいないんだとか。


「ま、狙ってはなかったんだろうけど、先輩たちがほとんど伝説扱いしてるのをみると、よっぽど凄かったんだろうね」

「あー、うん。そうだね」


 ヤバい。何となく心当たりが……。


「それで、どうするんだ。このままだと、次のクラスの邪魔にしかならんぞ」

「んー……異能を使って、出るしかないかな」


 あれが本当の出待ちなら、が前に付くけど。


「いい案とは思うが……あるのか?」


 京がそう尋ね、朝日も不安そうに見てくる。


「大丈夫。私だけなら、消費量も少ないし」


 姿を認識させない異能など、パターンは違えどいくらでもある。


「じゃあ、教室で合流する?」

「だね。まあ、少し遅れると思うけど」

「宣伝用として歩いてくれるの?」

「んなわけないでしょ。看板持ってなかったら、ただのコスプレにしか見えないし、看板受け取って、誰か同行してくれない限りは却下」


 それに、ふむ、と真衣が頷く。


「じゃあ、朝日か南條君、おひ……仁科さんで」


 主役のどっちかも付けば、お客さん来るでしょ、と真衣が言う。


「姫・王子ペアにするか、王子ペアにするか、か……」

「そこは姫・王子ペアでいいでしょ。姫のどちらかはいないと」

「えー。王子ペアか姫ペアでもいいと思うけど?」


 本当の所、私は一人でなければ誰とペアであっても文句はないけど、懸念するのは仁科さんと組んだ場合。

 生徒会役員たちが彼女の足を止めてしまっては、私の足も止まりかねない。


「だったらもう、クジにしろよ。その方が早いだろ」

「私もそう思う」


 京の言葉に、朝日が同意すれば、真衣がつまんなそうな表情をする。


「ま、その方が確かに早いけどね」


 とりあえず、方向性が決まれば、早々に撤収して、教室に戻るのだがーー


「うっわぁ、やっぱり目立つなぁ」


 教室に着くまでのその間、かなり目立っていた。


「じゃあ、はい。即席クジです」


 小さく畳んだ四つの紙を、真衣が差し出してくる。


「一人ずつ取って」


 そう言われたので、みんなでクジを取った後、開く。


「同じ数字の人がペアね」


 真衣にそう説明され、朝日たちと確認しあう。


「私と仁科さん、京と朝日ペア、か」

「劇の組み合わせのままか」


 だが逆に、仁科さんが京と朝日と組むよりは良かったかもしれない。

 二人とも、彼女と組んだ場合は離脱するのに時間が掛かりそうだけど、私には生徒会役員という役職もあるから、何とかなるだろうし。


「さて、それじゃ行きますか」


 宣伝用看板を肩に乗せながら、仁科さんに声を掛ける。


「う、うん」


 仁科さんが駆け寄ってくる。


「動きにくくなったら言ってよ? ペース落とすから」

「う、うん」


 劇の衣装のまま歩き回るから、大変だろうと声を掛ければ、戸惑う仁科さんの返事とともに、何とも言えない視線を感じた。


「何」

「いや、上手くは言えんが、時々お前って、()たちに敗北感を抱かせたり、苛立たせたりするよなぁ、と思ってな」

「つまり、きーちゃんが男だったら、完全に嫉妬の対象ってことだよ」


 朝日さん、それがフォローのつもりなら、フォローになってないし、何となく京が言いたいことは分かってた上に、実はあまりはっきり言ってもらいたくなかったんですが。


「まあ、だからこそ王子役に推したんだけどね」

「やっぱり、私たちの目に狂いは無かったわね」


 以前締めたはずなのに、また締められたいのか。このお姫様たちは。


「ほら、早く行ってこい。休憩時間が無くなるぞ」


 いつの間に側に来ていたのか、風嶺君にそう言われ、今度こそ看板を持って教室から出て行く。


「うん……行ってきます」


 とりあえず、気持ちを切り替えて、宣伝と文化祭の様子を見て回ろう。

 この学校に入り、生徒会役員としても初めての文化祭なのだから。



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