第三十六話:波乱の文化祭Ⅰ(当日・一日目)
今回は三人称、京視点
むかしむかし、あるところに二人のお姫様がいました。
二人のお姫様がいたのは、別々の国ではありながらも、お隣同士のため、お互いに行き来するほどの仲良しでした。
そして、そんな二人もお年頃。
気になる人の一人や二人、出てくるものなのですが、二人のうちの姫の一人であるララ姫は、偶然出た社交場で運命の出会いをすることになるのです。
「パーティーなんて、退屈だわ。何が楽しいんだか」
並んでいた料理を口にしながら、ララ姫はそう愚痴を言います。
確かに、ララ姫には気になる人もいますし、今出席しているこの会場には、いいな、と思った人もいました。
けれど、そういう人の周囲には、多くのご令嬢たちが集まり、自身をアピールしているので、それを見ていたララ姫としてはその中に突っ込んでまで自分をアピールしようとは思わないのでした。
そんな姫に、ある一人の男性が近づいてきました。
「姫、お久しぶりです」
「貴方はだぁれ?」
自身に頭を下げ、挨拶してきた男性に、ララ姫は少しばかり警戒しながら尋ねます。
「お忘れですか? 数年前に一度会っているのですが」
ですが、意外にも男性は不思議そうに問い返してきました。
「……すみません」
「いえ、お気になさらず」
何度思い出そうとしても、目の前の男性についての記憶が出てこなかったララ姫は、男性に謝罪すると、彼は傷ついたことを気にさせないような振る舞いで、大丈夫ですから、と告げました。
「では、私は初対面のつもりでご挨拶致しますね。私の名前はギーゼルと申します。以後お見知りおきを」
にっこりと微笑みそう告げた彼の名前を聞いたとき、ララ姫は目を見開き、驚きの表情を浮かべました。
「え……ギーゼル様……!?」
ララ姫が驚くのは無理もありません。
彼女の中にあるギーゼルという人物は、自分をからかったりして遊んでくる男というイメージしか無かったのです。
そして、彼の見た目も以前と変わっているとはいえ、よく見れば確かに自分の知るギーゼルという男なのでした。
「あ、その……」
戸惑うララ姫に、ギーゼルは笑みを浮かべました。
「それでは、ララ姫。私のことを思い出してくれたついでに、ダンスを踊っていただけませんか?」
「え……あ、はい。私で良ければ」
ギーゼルの手を取ったララ姫は、曲に乗せて踊る者たちのいる中央へと向かっていくのでした。
☆★☆
「うわぁ……きーちゃん、マジだぁ」
「お前ら、大丈夫か?」
「ら、らいじょうふ……」
照明の影響か、三割り増しぐらいで本物の男たちが負けを認めるぐらいのイケメンぶりに(女に対してそう言っていいのかは不明だが)、思わずぽつりと洩らしてしまったらしい朝日に対し、後ろを振り向き尋ねてみれば、そう返される。
(うん、大丈夫じゃないな)
体育館の舞台袖から舞台上で役をこなす二人……というか、鍵奈を見ながら苦笑する。
文化祭当日となったこの日。
劇をクラスの出し物とした我がクラスでは、生徒会の仕事に追われる鍵奈の役や立場をどうするのか、という話になったのだが、朝日と和花の推薦により、ほぼ主役と言ってもいい王子役に決定してしまった。
当然、そのことを知った鍵奈に締められたらしいのだが、最終的には彼女の黒歴史に触れたことによる注意だけに留まったのだろう。
それにしても、と劇を見ながらふと思う。
中学の時は朝日と鍵奈のペアでの姫と王子を見ているのだが、鍵奈が姫役をするときは来るのだろうか。
たとえその時が来たとしても、鍵奈のことだから「やっぱり王子役がいい」と言い出しそうな気もするが。
今劇では、場面転換により、もう一人の姫役である朝日が舞台上にいる。
(さて、そろそろ行きますか)
台詞の流れとタイミングを見ながら、俺は舞台上へと出て行った。




