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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第二章:一学年二学期・生徒会との接触
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第三十四話:バイト先にて


「ねぇ、鍵奈ちゃん」

「何ですか?」


 話しかけられたので、注文されたコーヒーを淹れながら返す。


「そろそろ文化祭でしょ? いいの? バイトに入ってもらっていて」

「あ、はい。大丈夫です」


 それを聞いて、ならいいんだけど、と言ってくるのは、今いる喫茶店『シュリュッセル』の店主であり、雇い主である花さんこと篠山夏花(しのやま なつか)さん。

 喫茶店はどちらかといえば目立たないところにあり、隠れ家のように存在していた。

 基本的に来るのは常連さんたちで、花さん曰く、開店初期の頃からのお客さんなんだとか。その後は、ここの味を知った人たちが密かに通ってくるようになり、はっきり言って、バイトである私やもう一人の子よりも覚えがいい(あと、もう一名バイトはいて、名前は知っているけど、シフトが合わないため、会ったことがない)。


「遅くなりましたー」


 そう言って、この喫茶店へ入ってきたのは、同じくバイトの天城永久(あまぎ とわ)

 同い年だけど、ここでのバイト歴は彼女の方が先輩だ。


「あ、“Key(キー) Knight(ナイト)”だ」


 様々な曲が流れる『シュリュッセル』だけど、最近よく流れるのは、“Key Knight”というグループの曲だ。よく『鍵騎士』とか称されることがある。

 表記から分かると思うが、ぶっちゃけると身内だ(知り合い的意味で)。


「やっぱり、いいなぁ。きーなもそう思うでしょ?」

「そ、そうだね……」


 『きーな』は私に対する永久(とわ)の呼び方で、何となくどっかの誰かを彷彿とさせてくる。


「ほらほら、話してないで動いてねー」


 やんわりと言う花さんだけど、目が笑ってない。


「あ、すみません」

「今行きまーす」


 二人して謝りながらも、接客作業に向かった。


   ☆★☆   


「……何で、こうなってるん……?」


 目の前の状況……ではなく、背後から聞こえてくる声にそんな疑問が湧く。

 カウンター裏の隅で固まる私に、「微妙に口調がおかしいけど大丈夫?」と花さんたちから聞かれ、大丈夫です、と返したけど、全然大丈夫じゃない。


(何でいる!?)


 いや、『シュリュッセル(ここ)』の制服は、どちらかといえば動きやすさ重視だし、知り合いに見られても別に恥ずかしくはないのだがーー


(でも、あのメンバーは駄目だ!)


 よりにもよって、仁科さん+生徒会役員(岩垣先輩と有栖川先輩除く)が来店したのだ。


(私がいるなんてバレたら……っ、嫌な予感しかしねぇ!)


 嫌な予感がするせいか、汗が止まらない。


「もしかして、きーなの知り合い? 制服から見るに、同じ学校みたいだけど」

「……うん。そんでもって同級生と先輩方」


 それをどう判断したのか、永久はふーん、と言うと、「フルーツパフェ、お待ちどお様です」と仁科さんたちに注文のあったパフェを出しに行った。


「ところで、皆さん。仲がよろしいみたいですが、ご友人ですか?」

「えっ、と……」


 永久の問いに、仁科さんの戸惑う声が聞こえる。


「うん、そうだよー」


 これは、声的に書記ーー双葉瀬先輩か。


「それにしても、ここの料理は美味しいね」

「お褒めいただきありがとうございます。そう言っていただき、店主も喜んでいると思います」


 ……あれ? 何故か火花散る光景が思い浮かぶぞー?


「で、会計どうする? 誰かの(おご)り? それとも割り勘?」


 双葉瀬先輩の言葉に、話し合う気配を感じる。


「割り勘って……ここ、カードは使えるのか?」


 おい。今、カードって言ったか? なぁ、会長?


「申し訳ありません。支払いは現金で(・・・)お願いします」


 永久の声が低く聞こえる。

 そういえば、永久はどちらかといえば珍しい、彼らに話しかけられても頬を赤らめずに、気に入らなさそうにしていたっけ。


「じゃ、じゃあ、私が出します」

「いやいや、もう僕が纏めて払うことにするよ」


 おずおずと手を挙げて言ったのであろう仁科さんに、払わせるわけにはいかないと思ったのか、そう告げる双葉瀬先輩の声が聞こえるが、何か視線を感じるなぁ。


「……っつ!?」


 そっと顔を覗かせれば、こちらににっこりと微笑む双葉瀬先輩と目が合った。


(な、んで……?)


 すぐさま身を引っ込めたから良かったものを、今ので確実にバレた気がする。


(あー……永久の努力、水の泡にしちゃったなぁ)


 せっかく気づかれないようにしてくれていたのに、よりにもよって本人が台無しにしてしまった。

 内心で唸っていれば、いくつかの気配が動き出す。

 一、二……って、この数と気配は仁科さんたちか。

 数人がドアを出て行ったのを感じるも、そこで一つの気配が背後で止まる。

 そういや、会計は双葉瀬先輩が一人で請け負うって言ってたなぁ。


「ここでもバイト(お手伝い)、ご苦労様」

「なっーー!?」


 カウンターの裏、レジがある場所の下にいた私は驚いた。

 双葉瀬先輩が横から私を見ていたから。


「ああ、安心して。内緒にしておいてあげるから」

「……それを信じろと?」


 でも、双葉瀬先輩はにっこり笑みを浮かべた。


「なら、文化祭までの期間。君にこの喫茶店に関する情報が届かなかったらーー」


 僕を、信じてもらえないかな?


 そう告げ、支払いを済ませると、双葉瀬先輩はドアから出て行った。


「文化祭までって、月末じゃないの……」


 半月なんて微妙な期間の間、生徒会の仕事とかをしながらでも覚えているかどうかも怪しいが、もしうっかり話されたりなんてしたら……


(やっぱり、嫌な予感しかしない!)


 こうなれば、双葉瀬先輩を信じるか信じないかは、この際後回しだ。


「って、あれ?」


 店内のカレンダーを見て、次に予定が入力された携帯内蔵のカレンダーを確認した後、手帳を取り出し、今後の予定を確認する。


「……」


 少し思案する。


「すみません、花さん。やっぱり、数日こっちに来られない日が出てきそうなんですが」

「そうなの? じゃあ、仕方ないわね。その代わり、ちゃんと成功させておいでよ?」


 はい、と頷き返せば、花さんが笑顔で返してくる。

 でもこれで、花さんから許可が下りたわけだから、これで少しは文化祭の用意に意識を向けられるはずだ。

 問題は、生徒会室で双葉瀬先輩に絡まれた場合だけど……


「無視でいっか」


 どうせ相手にしていても、こっちが疲れるだけだろうし。

 その後も、勤務時間内働けば、「きーな、時間ー」と永久に教えられ、先に上がらさせてもらう。


「気をつけなよー」

「世の中、物騒だからなぁ」


 常連さんたちのそんな声が聞こえてくる。


「はい。では、失礼します」


 そのまま『シュリュッセル』を出てみれば、冬に近づき、冷え込んできたのか、思わず身体が震える。


「そろそろ冬かぁ」


 ストーブとかの暖房器具を用意するべきだろうか。

 時期が時期だけに、様々な店のショーケースなどにハロウィン関係のグッズや食品が並んでいたり、飾り付けがされていたりするのだが、今の私にはハロウィンよりも文化祭と体育祭を成功させることの方が重要である。


「さて、明日から頑張りますか」


 本格的な準備期間はすでに入っているのだが、今の私には余裕があるので、遅くなったものの、少しはクラスの出し物を手伝えるはずだ。


「楽しみだなぁ」


 せめて、何事もなく、本番が迎えられるといいな。



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