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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第二章:一学年二学期・生徒会との接触
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第三十二話:忠告と警告


今回は鍵奈、朝日視点


あと、一部ダイジェストのような、独白のようなシーンがあります




 朝日と仁科さんが、役員たちに何か言ったらしい。


 では何故、朝日がこの問題(・・・・)ーー私が一人で生徒会の仕事をしていることーーに口を挟んだのか。

 私もその時の話を聞いたときは驚いたし、京も「久々にあの状態の朝日を見たぞ」と珍しく驚いたらしい。

 いや、言い方はそんなに驚いてなかったけど。


 では、そもそもの原因は何なのか。

 事の起こりは数日前まで遡る。


   ☆★☆   


「うがーっ! ぜんっぜん終わらないーっ!」


 季節は秋。十月に入り、九月という新学期の始まりから、数週間経った頃。

 生徒会室でそんな叫びが響き渡った。

 ……まあ、声の主は私なんですがね。


 さて、前生徒会長である岩垣先輩の生徒会役員権限で生徒会の副会長に指名された私は、正直、生徒会の仕事量を嘗めていた部分があったんだと思う。

 夏休み前ーー私は生徒会の仕事を手伝ったのだが、あれは本の一部だったのだと改めて知り、基本一人(いや、有栖川先輩がいるから二人か)でこの量を捌いていたんであろう岩垣先輩たちは本当に凄いと思った。

 現在も、受験生である岩垣先輩と有栖川先輩が時折、手伝いに来てくれてはいるが(さすがに勉強せずに、ずっと手伝わせるのはマズいと判断した)、現状基本的に私一人で捌いている状態だ。

 ん? 獅子堂君はどうしたのか?

 この前の来襲が原因かは分からないけど、何らかのきっかけにはなったのか、どうやら仁科さんと接触したらしく、魅了されたらしい。

 相変わらず、線引きの分からない彼女の異能である。


 さて、そんなこんなで、副会長に就いたはいいが、何せ男ばかりの生徒会である。

 そこに女が入れば、(主にファンクラブという名の)女子生徒たちから嫉妬の眼差しを向けられるであろうと予想していれば、案の定、嫉妬の眼差しは向けられたのだが……一週間と数日過ぎた頃、気づけば嫉妬の眼差しは憐れみの眼差しに変わっていた。


「貴女も大変ね」


 他の役員たちは相変わらず、仁科さんの所に行っているため、ほぼ全校生徒から一人で大変そうだ、とどこか可哀想なものを見る目を向けられた。何故だ。

 というか、可哀想だと思うのなら、少しばかり手伝ってほしい。猫の手も借りたい。


 だが、今は権限や視線云々何ざどうでもいい。

 問題は、目の前の書類の山だ。

 いくら役職別に書類を分けたとはいえ、この量は私に過労死しろと言っているようにしか見えない。

 とりあえず、急用のものから先に片付けている最中なのだがーー


「あの、副会長……」


 生徒会室で仕事しているのが私だけなためか、生徒会室(この部屋)に来るのは、生徒会に用があり、私を副会長と呼ぶ人がほとんどだ(うん、一人だから別に名前や役職を呼ぶ必要ないとか、そんな突っ込みはいらない)。


「何かな?」


 中に入ってこない来訪者に、目を向ければ、「先生から頼まれたから」と書類を差し出される。


「ありがとう、ご苦労様」

「いえ、副会長ほどでは……」


 そう言うと、それでは、と来訪者は足早に去っていった。


「……ああ、本気でヤバいなぁ」


 他の役員たちをどうにかしないと、なんて思っていたのだが、残念ながら今の私には、生徒会の仕事と近いうちに行われる文化祭と体育祭の準備、バイトに上から与えられた仕事(お役目)がある。

 ああ、確実に倒れるな、と思っていたら、手伝いに来ていた岩垣先輩から「死のうとしないでね?」と言われた。

 だから、「大丈夫ですよ、自殺する以前に過労死するほうが先でしょうから」と冗談半分で返せば、冗談でも(たち)が悪いから止めて、と泣きつかれた。


 書類だけならともかく、生徒会による文化祭の出し物は私抜きで何故か決まっていた。クラスの出し物は朝日や真衣たちが意見を聞きにきたり、教えに来てくれたのに。

 しかも、奴らは仁科さん()いるうちのクラスの出し物の準備を手伝っている、と他のクラスの子が教えてくれた。


 完全に仲間外れである。

 そして、微妙に泣けてきた。


 いっそのこと、私も仕事放棄しようかと思ったけど、自分でいうのもあれだが、根が真面目な上に、役員にしてくれた岩垣先輩たちのためにも、役目も仕事も放棄できるはずもなくーー






 結局、他の役員たちを動かすことにした。


「仕事してください」


 仁科さんと一緒にいる役員たちにそう告げる。


「えっと……?」


 首を傾げる役員たち。


「まさか、生徒会の仕事だけじゃなく、文化祭の準備まで私に押しつけるつもりじゃないですよね?」

「押しつけるとは心外だな。俺たちは俺たちで、やるべきことはちゃんとやっている」

「それはすみませんでした。全く(・・)準備してるようには見えなかったので」


 現生徒会会長となった一ノ瀬先輩に、『全く』を強調してそう返す。


「それに、君だって息抜きしないわけじゃないでしょ?」

「もし、この状態が息抜きだと言うのなら、生徒会室で仕事してからにしてください」


 現生徒会書記、双葉瀬先輩にもそう答える。

 仁科さんに至っては、おろおろとしており、状況を見守っているのであろうクラスメイトたちからは、(私が)もうキレてもいいんじゃね? 的な目を向けられた。


「というか、桜庭。お前だって、人のこと言えないだろ」

「は?」


 いきなり何を言い出すんだ、このバカは。

 ちなみに、今言ったのは現生徒会会計、獅子堂君である。


「今、こうして来てるって事は、サボってんだろ?」

「……本当にバカとは思わなかった」

「おい、今何つった?」


 獅子堂君の台詞につい思ったことが声に出ていたらしく、彼が思いっきりこちらを睨んできた。

 そして、これは言い訳になるかもしれないが、言わなきゃ話が進まない。


「悪いけど、私はサボってるつもりは無いよ。ただ、貴方たちがやらない分、やることが多すぎて、人手が欲しいだけだし。別に貴方たちじゃなく、他の人でも良いんだけど」


 そう言って、クラスメイトたちーー特に朝日たちーーに目を向ける。


「ふざけるな。そもそもーー」

「ふざけてません。というか、いい加減手伝ってもらわないと死にそうなんですが。たとえ、私が過労死して貴方たちを祟ったとしても、貴方たちには私を責められないですよね?」


 今のところ倒れはしても、死ぬことはないだろうが、念押ししておく。

 というか、上から与えられた仕事(お役目)もあるから、確実に倒れる自信はある。


「それでもいいのなら、そのまま楽観的でいても構いませんが、周囲に迷惑を掛けるのだけは止めてください。私の負担が増えるので」


 仕事がありますので失礼します、と教室を出る。

 そしてーー


「……私は、岩垣先輩から指名された以上、仕事を放棄するわけにはいかないんですよ」


 鍵依姉(きいねえ)や岩垣先輩たちが頑張って支えていたからこそ、今まで何とか持ってたんだ。

 そんな岩垣先輩が私なら何とかしてくれると思ったから、私を選び、生徒会役員にしたのだろう。


「こりゃ、完徹で片付けないとダメかなぁ」


 今までも家で処理したりしていたのだが、限界がある。

 それでも、誰かがやらないといけない。

 そして、その誰かは、きっと私だ。


   ☆★☆   


「全く、あの子は人に頼ることを覚えた方がいいよね」

「何でもかんでも自分一人で背負おうとするのは、あいつの悪い癖だ」


 教室を出て、生徒会室に戻るのであろうきーちゃんを見送った後、京くんとそう話し合う。


「一応、教えた方がいいかな?」

「本気か?」

「あのままじゃ、きーちゃんは本当に倒れるからね。それに一応、雪原先生に連絡しておかないと」


 役員たちに話すべきか否かを話しながら、私は保険医である雪原先生にメールを送る。

 鍵依さんのこともそうだけど、きーちゃんに何かあって困るのは、あの人も同じだろうからね。


「じゃあ、言ってくるよ」

「……ああ」


 携帯を閉じ、生徒会役員たちの元へ向かう私を見送りながら、どこか不安そうな京くんが頷く。


「先輩方」

「君は……?」


 話しかけてきた私に気づいたのか、双葉瀬先輩が尋ねる。


「いやいや、私は一応、忠告しに来ただけですよ」


 忠告? と生徒会の面々は怪訝そうにするが、私は気にせずに続ける。


「きーちゃん……鍵奈は、ああ言ってましたけど、あの子は一人で問題事を抱え込むことがありますから、注意しておいてください」

「ちょっと待て」

「どういうことだ、と尋ねるのは止めてください。その様子じゃ、知らないみたいだから言いますが、あの子は貴方たちがやらなかった仕事をほとんど一人で、しかも、休むことすらせずに、自分のやりたいことすら後回しにして行っているんです。そんなことをしていれば、どんなことになるのか、分かりますよね?」

「それは……」


 最後まで言わなくても分かる。

 もし、そんなことを続けていればーー……



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