第二十七話:『生徒会役員権限』について
前回、『権限』について、何話か後に説明すると言いましたが、予定を変更して今回説明させてもらいます
一限目の授業終了と同時に、朝よりも多くの野次馬に押し掛けられた。
そして、その理由も分かりきっていた。
「本当に生徒会に入るの?」
「止めた方がいいよ? 役員のファンに何されるか分かんないし」
と、クラスメイトたちから言われた。
そう、話や野次馬の原因は、生徒会長による私への指名である。
というか、ファンって何だ。まあ、あれだけ目立つ連中なんだから、中にはそういう人たちがいてもおかしくはないけど。
「そりゃあ、分かってるんだけどね……」
しかし、もうすでに引き受けてしまった。
「きーちゃん、もしかしなくても引き受けちゃったんだね」
さすが幼馴染、私のことを分かってらっしゃる。
京は京で呆れた目を向けてきていたし、ちゃっかり来ていた御剣先輩は心配そうにしていた。
「だって、知り合い云々以前に、『生徒会役員権限』使われたんだよ? 断れるわけないでしょうが」
『生徒会役員権限』。
呼んで次の如く、生徒会役員が持つ権限であり、それぞれの使用回数は生徒会長が会長のみ使える『役員推薦枠』とその他の二回、副会長と書記、会計と庶務はそれぞれ一回使うことが出来る。
使用できるのは生徒会役員である会長、副会長、書記、会計、庶務として選ばれたときからであり、それぞれに『権限』が与えられる。
そして、『権限』の使用方法は本人に委ねられ、無茶な内容でなければ執行される。
その上、生徒会長は自身の持つ『役員推薦枠』を使い、私を指名したように『役員指名』も可能となる(だが、指名されて就いた役員は権限が使えない)。
「にしても、よく知ってたな。『生徒会役員権限』なんて」
「そこについては姉さんから説明されたからね。先輩には上級生から当たれって言ったけど、消去法で私になったって、返された」
京の問いにそう返す。
『権限』については、鍵依姉から直接聞いたから、嘘は言ってないはずだ。
『鍵奈ぁ~、理央が怖いよ~。『権限』振りかざそうとしてくるんだよ?』
と愚痴っぽいことを聞かされ、
『理央? 『権限』?』
と首を傾げれば、鍵依姉が教えてくれた。
理央というのは鍵依姉が会長をしていたときの副会長(同学年)で、今でも連絡を取るほどの関係らしい。ちなみに男。
『権限』については、先程の説明通りに説明された。
それを聞いたとき、半分聞き流していたとはいえ、面倒くさいシステム、と思ったのは事実だ。
「でもまあ、そっかぁ。『権限』が執行されてるなら、私たちが何を言っても無理、ってなるのか」
クラスメイトの女子が納得したように頷く。
「でも、一番の問題は……」
「ファン、か」
ファンたちの間に、どういうルールがあるのかは分からないが、その中に過激派というのがいるなら厄介だ。
「過激派がいるとすれば、厄介なことになるわね」
「厄介なことになるんじゃなくて、なるのよ」
和花の言葉に、私はそう返す。
男の中に女が一人とか、自分に自信があるか、仁科さんみたいに異能が原因じゃない限り、良い気分ではないし、見てる方も良い気はしない。
「煽りに煽っといて、いじめとか最悪なパターンに発展した場合、状況次第では助けられない場合もあるからな?」
「安心しなさい。大事になる前に潰すから」
「冗談に聞こえないから、怖いんだよ。お前は」
京が私とやや間を空けて言えば、
「まあ、マジになったきーちゃんに勝てる人なんて、そんなにいないからねぇ」
朝日もそう言ってきた。
そんなときだった。
「桜庭……さんはいるかしら?」
どこか偉そうな、それらしい雰囲気を持つ来訪者に、私は首を傾げる。
はっきり言って、知らない人だが、ファンの一人だろうか? それに、同学年でも見覚えが無いから、上級生なのだろう。
「あ、あの人。きーちゃんの名前が読めないパターンの人だ」
「というか、読める人の方が少ないわよ」
読み仮名を打つか、自己紹介しない限り、一度で読まれる確率は少ない。
そうこうしているうちに、来訪者がこっちへ来た。
「貴女が桜庭……」
「鍵奈です。鍵に奈と書いて、『きいな』って読むんです」
とりあえず、恥をかかせる前にこちらから名乗る。
それを聞いて、相手は一度咳払いすると、改めまして、と言い直してくる。
「こほん、桜庭鍵奈さん。単刀直入に尋ねるわ。貴女、生徒会役員になるつもり?」
「はい、生徒会長命令なので」
間髪入れずにそう返す。
だが、相手はそれが気に入らなかったらしい。
「だからってーー」
「登校早々に生徒会室に行って、話を聞きましたので」
「あ。だから、きーちゃん。いつもより遅かったんだ」
相手を遮って告げた私の言葉に、朝日が納得したように頷く。
「で、理由聞いた上で、引き受けました」
笑顔で言えば、相手は不機嫌そうな顔をする。
「それと私、先輩の名前を知らない上に、名乗ってもらってもいないので、自己紹介をお願いしてよろしいですか?」
事実、名乗ってもらってないため、目の前のこの人がどういう人なのかが分からない。
ちなみに、今言ったことに対して、『こっちが名乗ったんだから、そっちも名乗れ』という空気も発してみた。
「っ、香宮真凛よ」
空気に圧されたのか、渋々そう名乗る香宮先輩。
って、香宮……?
「香宮って、あの香宮?」
「知ってるの?」
首を傾げて尋ねる和花に、面々が顔を向ける。
「ああ、ちょっとね……」
和花の知り合いということは、どうせ錠前時関係なのだろう。
私の知り合いにも、似たような名字の人もいるし。
「私は私の名前よりも、貴女が役員を引き受けたことについて、聞きたいのだけど?」
「名前よりって……引き受けた件については、そのまんま言葉通り、引き受けましたけど?」
だからっ、と同じことを言いそうな香宮先輩が全てを言う前に、私は告げる。
「それに、生徒会長の持つ『役員推薦枠』まで使われたら、文句は言えませんから」
岩垣先輩が使ったのは『権限』であり、『役員推薦枠』を使ったわけじゃないから、私が断ろうと思えば、断れたのだ。
でも、岩垣先輩は生徒会長としての『役員推薦枠』を私には使わなかった。恨まれる覚悟までして、『権限』執行だけで抑えたのだ。
もしかしたら、単に先輩が忘れてただけかもしれないが、『役員推薦枠』を使わないことで、その隙を逃げ道として用意しておいてくれたのかもしれないし、私が引き受けないことを前提にしながらも、最終手段的なものとして使おうとしていたのかもしれない。
(それでも使おうとする気配を、少なくとも私は感じなかった)
まるで『役員推薦枠』を使わずとも、私が引き受けることを知っていたかのように。
(……って、あれ? まさか填められた?)
朝は時間の少なさに微妙に焦っていたから、あっさりと返事しちゃったけど……うわぁ、もしかして、やっちゃったのか? ヤバい。やっちゃった可能性が……うわぁ。
「っ、」
けど、今の言い方からすれば、『役員推薦枠』を使われたと勘違いされても仕方ないのだろう。
香宮先輩は悔しそうな顔をすると、「私は認めないんだからっ!」と言いながら、教室から出て行った。
「きーちゃん、『役員推薦枠』使われたの?」
「ん? 使われてないよ? 使われたのは『権限』だけだし」
「紛らわしい言い方をするなよ……」
朝日の問いに答えれば、京が呆れた目を向けてくる。
「ごめんごめん。でも、中学の時よりは酷いことにはならないと思って、引き受けたわけだし」
そう言えば、朝日と京は顔を見合わせ、溜め息を吐いた。
「そういう問題じゃないと思うけど?」
「朝日以上にお人好しだもんな、お前」
心配そうな朝日に対し、京の呆れた目は変わらない。
「まあ、いざとなったら、私たちがサポートすれば問題ないでしょ」
「あっさり、そんなこと言うなよ……」
和花の言葉に、京は頭まで抱えてしまった。
「で、本音は?」
「ん?」
「あんたのことだから、何らかの条件でも出したんじゃないの?」
「出してないよ。というか、私のこと一体何だと思ってんのよ……」
和花の言葉に思わずそう返す。
それに、毎回毎回そんなことはしないし、状況次第だ。
「でも、何らかの目的があって、引き受けたわけでしょ?」
「まさか、役員たちと知り合いたいとか?」
「いや、それはないから」
和花に被せるように、聞いてきたクラスメイトにありえないから、とほぼ無表情で返す。
というか、関わりたくない。
「あ、そうなんだ……」
さすがに、私が本気で近寄りたくないと思っていることが伝わったらしい。
「まあ、やられたらやられた分、倍にして仕返しするつもりではいるけどね」
うふふ、と笑みを浮かべれば、話していた面々と微妙に間を空けられた。
「うん。分かりやすい反応、ありがとう」
「あんたが笑うと、どうも悪い予感しかしないのよ」
……それは、どっちの意味で言ってるのだろうか?
とにもかくにも、『副会長』という椅子を引き受けた以上は、職務を全うするつもりだ。
(そしてーー中学と同じことは、二度と起こさない)
選んでくれた岩垣先輩(たち)のためにもーー……




