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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第二章:一学年二学期・生徒会との接触
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第二十五話:質疑と勧誘、一種のチーム


 ーーねぇ、私のことを覚えてる?


 誰かが桜の木の下で尋ねる。


 ーー春に会ったくせに、忘れてたなんて信じられない。


 ーーそれでも、姉さんのことは覚えてる?


 こてん、と首を傾げる。


 ーー私は、二人のことを覚えてるよ。


 ーー今度はちゃんとした時に会おう。


 そして、切れた。





「桜……?」


 その言葉とともに目が覚める。

 あの制服は、どこのものだったか。

 見覚えがあるはずなのに、思い出せない。


「……」


 軽く息を吐く。

 無理に思い出そうとしても無駄なので、支度を始めた。


   ☆★☆   


「彼女の出身中学を教えてほしい?」

「はい」


 生徒会室で書類を捌いていた岩垣は、副会長ーー一ノ瀬律(いちのせ りつ)の言葉に首を傾げる。

 昨日、生徒会業務を手伝っていた少女。

 中学の話が出た際に、話すことを拒否していた。


「まあ、俺も同じ中学だったけど、彼女は中学の話をするのを嫌うからね」

「何故ですか?」

「何故、と言われても困るな。それについては、俺が話すわけにはいかないし」


 岩垣は首を横に振る。

 岩垣にとって、彼女は大切な後輩だ。彼女が話すのを拒否している以上、岩垣も話すつもりはない。

 それに、一年といえど、中学の時、彼女の身に起きたことを、直接関わってないにしても、容易に口にするわけにはいかない。


『岩垣先輩』


 そう、自分を慕ってくれているであろう後輩のために。


「そうですか」

「あと、これは忠告だ。無理やり聞こうとするなよ?」


 彼女にとって、中学での出来事は、あまり思い出したくないもののはずだ。それを無理やりにでも思い出させたとなれば、岩垣は一ノ瀬を許せる自信がない。


「分かってますよ」

「難しいと思うが、あまりしつこく彼女に質問とかするなよ?」


 できれば、彼女の傷口を抉るようなことはしないでほしい。

 それこそ、下手に質問して傷口を抉れば、何が起こるか分からない。


「分かってますって」


 一ノ瀬の言葉に、それならいいんだけどな、と息を吐く岩垣だった。


   ☆★☆   


「まさか、本人に直接聞く気か? 律」

「居たのか」


 生徒会室から出てきた一ノ瀬は、生徒会室前にいた友人ーー生徒会書記、双葉瀬奈月(ふたばせ なつき)に聞かれ、驚きつつも尋ねる。


「無駄だと思うよ。彼女、ガードが堅そうだ」


 奈月はくっくっ、と笑う。


「でも、本当に仁科ちゃん(彼女)と同じクラスなら、会えるだろうね」


 ーーそれじゃ、早速会いに行きますか。


 二人は、一年生の教室に向かうのだった。


   ☆★☆   


「相変わらずねー。仁科さん」


 生徒会役員(といっても、今は会計の一人のみ)と仁科さんのやり取りを見ていた朝日が、以前と同様に言う。


「彼女、無意識に異能が発動してるから、かなり本気でコントロールさせないと、次々と信者を増やすことになるかもね」

「まあ、本命いる人に効かないのは、ありがたいよね」


 私の言葉に、朝日が苦笑いしながら、伸びをする。

 朝日の言う通り、仁科さんの異能は、恋人同士な人たちには効いてないらしい。そして、好きな人がいる人にもーー……


「というか、あれぐらいなら、鍵奈の異能でどうにか出来るだろ」


 京に言われ、うん? と首を傾げる。


「私の能力は期間も回数も限定ものなの。ってか、あんたは平気なのね」

「ん? ああ……」


 そういえば、と京が仁科さんへ目を向ける。


「あんたは本命、いるもんね」

「お前なぁ」


 私が冷やかすように言えば、京が何とも言えなさそうな顔をする。


「え、南條君。好きな子いるの!?」

「やっぱり、桜庭さんか宮森さん?」


 ……おいこら、何故そうなる。

 どうやら近くにいた女子たちの耳に、私たちの会話は届いたらしい。


「新たなターゲットになったわね。京」

「お前、他人事じゃないからな?」


 ニヤニヤしながら言えば、京がそうツッコんでくる。


「え? え? 本当なの? 好きな子いるの?」

「朝日。お前は真に受けるな」


 朝日にはそう返す京。


「で? で?」

「どうなの? どうなの?」


 聞きたいのか迫る女子たちに、京が少しずつ後退を始める。


「やりすぎじゃないのか?」


 様子を見ていたらしい風峰君が尋ねてくる。


「うーん……」


 はっきり言って、この話題になると、私も加減が分からないのだ。

 しかも、京も慣れてる感を出してくるから、余計に加減が分からない。


「……よし、放置しよう」

「根本的な解決にはなってないと思うがな」


 風峰君、言うなぁ。

 転入してきてからそれなりに話すようになり、千錠での生活にも慣れてきたようなのだが……彼、意外と容赦ない。


「その辺は……まあ、ね」


 とりあえず、誤魔化しておく。


 そんな時だった。


 生徒会副会長こと一ノ瀬先輩と書記こと双葉瀬奈月(ふたばせ なつき)先輩が、教室に入ってきた。


「みーつけた」


 明るい声で言う双葉瀬先輩に、私は一瞬、頭を抱えたくなった。

 相手がクラスメイトである仁科さんなら、見つけたなどとは言わないはずなのだ。


 では、見つけたとは誰を?

 答えは簡単。

 こっちに来ようとする二人を見れば、自ずと分かる。

 そして何故か、背後で朝日が笑いを耐えてる気配がする。


「にゃろう……」


 まさか、本当にこっちに来るとは思わなかった。


(来る方向が違うだろ!)


 そう叫びたくなった。

 だが、本当に叫ぶわけにもいかないので、とりあえずーー


「こんにちは、お手伝いさん」

「どうも、生徒会役員の先輩方」


 互いに笑顔で挨拶をする。

 仁科さんの方へ行かずに、私の方へ来た二人に対し、うちのクラスにいた女子たちが声を上げるが、当の本人である私たちが放つ空気が悪いのは仕方がない。


「ぷはっ、もうダメ……」


 朝日が噴き出した。

 一ノ瀬先輩(副会長)双葉瀬(書記)先輩は不思議そうな顔をしていたが、私は頭を抱えた。

 どうやら、朝日の変なつぼに入ったらしい。


「笑いすぎだ、朝日!」

「ごめんごめん。でも、まさかこのコントを、千錠(ここ)で見られるとは思わなかったよ」


 注意したためか、朝日はやや涙目になりながらも、笑いを収める。


「ったく……」


 役者(人物)は違えど、似たようなことは中学でもあったため、そんな朝日に呆れながらも、私は先輩たちに目を向ける。


「それで、二人してどんなご用ですか? 岩垣会長からの指示じゃないですよね?」


 もし、岩垣先輩からなら、あの人は自分から来るはずだ。

 そう思って、二人に尋ねると、あっさり返事は返ってきた。


「うん、会長からの指示じゃないよ」


 双葉瀬先輩の返事を訝しみつつ、二人を見る。


「会長と中学が同じなのは本当か」

「は?」

「だから、会長と中学が同じなのは本当か?」


 一ノ瀬先輩の問いに、そこは話したのか、と思いつつ、私は笑顔で返す。


「だとしたら?」

「だとしたら、教えてほしいなーって」


 双葉瀬先輩が笑顔で返す。

 というか、一ノ瀬先輩が聞くならまだしも、何故双葉瀬先輩なのだ。関係ないだろうに。


「嫌です」


 笑みを崩すことなく、拒否する。

 何度も嫌だといっているのに、意外としつこい。


「知りたければ頑張って、自分たちで調べてください」


 これ以上、しつこくされても嫌なので、中学の件は勝手に調べるように仕向けてみる。

 まあ、調べられたとしても、真実に辿り着くのは無理だろうけど。


「そっかー。あとさ、生徒会に興味ある?」


 話を変えられた。

 聞いている張本人である双葉瀬先輩の表情は笑顔といえば笑顔だが、目が笑っていない。


「ありません。昨日はお世話になった先輩からの頼みだから、引き受けただけです」


 再度はっきり言い放つ。

 事実なのだから、否定する必要はない。


「そうか」


 それをどう解釈したのか、一ノ瀬先輩はそう返すと、さっさと仁科さんの方へと行ったので、それについていくかのように、双葉瀬先輩も彼女の方へ行った。


「大変だね。桜庭さん」

「見ていたなら、助けてくれれば良かったじゃないですか。御剣先輩」


 横目で返せば、いつの間に来ていたのか、御剣先輩は苦笑いする。


「いや、さすがに君たちじゃないから、一ノ瀬たちに文句は言えないよ」


(それはどういう意味でしょうか、御剣先輩?)


 というか、たちって何だ。たちって。

 そう思いつつも、今は聞かない。後で聞けばいいのだから。


「それで、何かありました?」

「いや、今日は集まるのか、確認に来ただけだよ」


 用件を聞けば、単に確認に来ただけらしい。


「そろそろ部活扱いされててもいい気がするけどな」


 近くに戻ってきたのか、京が言う。

 何だかんだで放課後の空き教室に、関係者で固まってること増えたしなぁ。


「だよねー。そうなると、問題は部活名と顧問だよね。仮になるとしたら顧問はやっぱり……?」


 朝日の言葉に、みんな私を見る。

 私たちのことをよく理解している教師と言えば、一人しかいない。


「まあ一応、そうなった場合の話だけは通してある」


 まあ、断られたら断られたでややしつこいぐらいに交渉するつもりだが、それでも駄目なら、姉さんの名前を使わせてもらおう。


「あの人って、本当に保護者だよねー」


 朝日が笑いながら言う。

 それは否定できない。

 あの人の妹を知っているだけに、兄であるあの人はいやでもしっかりしてきたのだろう。

 鍵依姉のしっかり具合を知る私としては、やはり上は上同士、気が合うものなのかと思えてしまう。


「でも、鍵依姉の考えが分からん」


 私は机に顔を伏せた。

 本当に、私の暴走を止めるためだけに、保険医(あの人)をこちらに寄越したのだろうか。

 和花の場合は自分の意志にも見えるし、風峰君は私と顔合わせの意味も込めて、転校させられたんだろうけど。


「俺にも兄貴の考えは分からん」


 京が同意するように言う。


「いや、鍵理(けんり)さんと一緒にしなくても……」

「似たようなものだろ」


 一緒にする必要がないと言えば、自分たちの兄姉なんだから、と言いたげに京が返してくる。


「まあ、断られたら、最終手段を使いますがね」


 ふふふ、と言いそうな笑みを浮かべ、そう告げる。

 鍵依姉の名前よりも効果がありそうなもので、引き込んでやる。


「きーちゃん……」

「鍵奈……」


 朝日と京が何とも言えなさそうな顔で名前を呼んでくるが、席の離れていた仁科さんたちもビクリとしたことから、おそらく私の声があそこまで聞こえたのだろう。

 結局、そのまま予鈴が鳴り、私たちは解散となった。

 ただーー……


「とにかく、変なことはしないでね」


 去り際に朝日を筆頭に、京や御剣先輩にもそう言われた。


 何故だ。



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