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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第二章:一学年二学期・生徒会との接触
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第二十三話:協力要請


「相変わらずねー。仁科さん」


 あの二学期の始業式からある程度経った数日後の今日。

 教室の一角で行われている、生徒会役員たちと同級生である仁科麗(にしな うらら)さんのやり取りを見ていた朝日が面白がるように言ったため、私も仁科さん(彼女)を一瞥する。

 彼女の名前を知ったのは、始業式からある程度経ったときであり、和花がクラスメイトの名前を覚えるために、何気なく名前を口にしたからだ。

 朝日たちからは私にしては珍しい、と言われたけど。


 彼女ーー仁科さんは、所謂(いわゆる)逆ハーレム状態になっていた。

 だが、彼女自身は悪くない。

 原因となっているのは、彼女の持つ異能なのだから。


 さて、ここで問題となるのが、彼女こと仁科麗さんの異能だが、どうやら誘惑タイプの異能らしく、その異能を無意識に発動しているようで、困ったことに生徒会役員たちがそれに引っかかってしまったらしい。

 そんな彼女の異能について知る者は同情の眼差しを、彼女の異能について知らない者は怒りや嫉妬の眼差しを向けている。


 仁科さんとしては、困ったものなのだろう。

 だが、本人が本当に困っているのかは別にするとしても、正直に言えば、ウザい。


(ここは、乙女ゲームの世界じゃないっつーの)


 内心でそう思いつつ、そっと目を離す。

 乙女ゲームでもなければ、ギャルゲーやVRMMOでもない。

 そこでやっと、ずっと頭を下げっぱなしの上級生に目を向ける。


「……」


 頑固だなぁ、と思いながら溜め息を吐く。

 目の前の上級生も生徒会役員の一人だが、他の役員と違い、明らかに苦労人です、というオーラが出ていた。

 では、何故生徒会役員である目の前の上級生が、仁科さんの方へ行かず、私に頭を下げているのか。

 答えは明白。

 単に私に用があったからだ。


「頼む、桜庭。助けてくれ!」

「……いきなりですね。岩垣生徒会長」


 会って早々、頭を下げてきた上級生(先輩)に、私はやや引きながら言う。


 岩垣巡(いわがき めぐる)

 千錠高校生徒会会長(三年)にして、私とは姉を通じての中学からの知り合いである。

 そして、仁科さんの異能が効かない内の一人だ。


「お前の事だから知ってるだろうが、生徒会を助けてほしい」

「“知ってるだろうが”と“生徒会を助けてほしい”の間を説明してください」


 それでも、大体の予想は付いている。

 教室の一角であんな事をされていれば、察するなという方が無理である。


「今、生徒会役員がまともに仕事してないの知ってるか?」

「知ってます。うちのクラスの女子と一緒にいるのを見ましたから」


 すぐ近くにいますがね。


「おかけで、生徒会の仕事が滞ってるんだよ」

「それで、私にどうしろと?」


 生徒会長(せんぱい)に尋ねる。


「生徒会業務を手伝ってほしい。中学の生徒会関係者として」

「中学の時の話は出さないでください。それに、中学と高校では違うじゃないですか」


 真面目な顔で言う生徒会長ーー岩垣先輩にやっぱり、と思う反面、『中学』と聞いた私は、自分でも声が低くなるのを理解しつつ、そう返す。


「正直、鍵依(きい)先輩の時には、こんな事はなかったんだ」

「当たり前です。同じ事があって堪りますか」


 全く、と思いながら、私は岩垣先輩の話を聞いていく。


 桜庭鍵依(さくらば きい)

 我が姉であることは言ったと思うが、保険医であり、姉さんの鍵錠である雪原塁の婚約者でもあると同時に、錠前時の『桜庭の姫』でもあり、千錠高校の生徒会長をしていたこともあった。


(相変わらずですね、姉さん)


 岩垣先輩は姉さんが好きだ。

 好きと言っても、好意ではなく、尊敬の意味で、だが。

 あと、分かってはいたけど、ここでもそのカリスマ性を発揮していたとは、このような問題があまり起こらないわけだ。


「それに、中学で生徒会を立て直したのは桜庭だろ?」

「だから、中学の時のことは出さないでください」


 はぁ、と溜め息を吐き、岩垣先輩を見る。

 中学のことは出すな、と言っているのに、何故こうも言ってくるのだろうか。

 それに、立て直せたのは、岩垣先輩がいたからだ。私だけじゃない。

 とはいえ、せっかく来てくれたのに、無理やり追い払うわけにもいかない。


 というわけでーー


「つか、私が見たらマズいものありますよね?」


 生徒会役員のみが知り得る情報を私が見て大丈夫なのか、そう尋ねれば、ああ、と頷かれる。


「桜庭、口堅いから大丈夫だろ」


 おい、生徒会長がそんなでいいのか。

 一気に不安になってきた。

 口が軽い堅いの問題ではない。気にするべきは情報の漏洩だ。いや、私はしないけど。


「……」


 仕方ない。とりあえず引き受けて、ヤバそうな情報は記憶から削除することにしよう。


「……分かりました」


 私の言葉に、え、と岩垣先輩は固まる。


「一応、中学からの先輩だから聞くんであって、生徒会の為じゃないですからね?」

「ありがとう、桜庭」


 嬉しそうに告げてくる岩垣先輩に、私は思わず照れくさくなるが「お世話になった先輩ですから」と返しながらも、何故私のことは名字で呼ぶんですかね? と内心で疑問に思いながら、私はすっかり忘れていた。


 現在の生徒会は男だらけだということを。

 そして、鍵依姉以来の生徒会に、紅一点として、女子生徒が入らなかったことを。


 もし、それを忘れずに、私がもっと深く考えた上で、安請け合いをしなければ、私だけではなく、朝日たちや仁科さんたちも、巻き込まずに済んだのかもしれないのにーー……




なお、今回と次回は、短編部分を加筆や削除、修正したものです



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