第二十一話:新学期、夏休みの出来事
第二章:一学年二学期・生徒会との接触
物語は少しずつ動き始め、仲間は集う
赤や黄色と木々が様々な彩りを見せる中、私たちは今日から新学期ーー二学期が始まるため、夏休み中にあった出校日以来の登校である。
久しぶりー、と声を掛け合うクラスメイトたちだが、生憎私にはそんな余裕もなく。
「よし、終わった」
ようやく夏休みの宿題が終わった。
ハードスケジュールな夏休みだったけど、時間の掛かりそうな宿題を終わらせておいたから助かった。
「きーちゃん。もしかして、今終わった?」
「うん。書き取りを後回しにしておいたからね」
朝日がやや顔を引きつらせながら尋ねてきたので、楽でしたよー、とそう返した。
「で? 上はどうだった」
「どうっていわれても……」
京が聞いてきたが、特に何もなく、いつも通りだった気がする。
挨拶からの私や姉さんの婚約者にするために、自分の息子たちの売り込み。
「だが、全て断ったがな」
「だろうな」
いて困るわけではないけど、それは金や地位のために狙っていることぐらい、私でも分かる。
それが防げないとしても、二人の間に愛が無くとも、妥協は必要となるだろう。
理想は鍵依姉たちのような関係だ。
あの二人は互いを信頼し、認め合っている。
(本当に、羨ましいよ)
そう思っていれば、
「鍵ぃぃ奈ぁぁ!!」
と真衣が人の名前を叫びながら、突っ込んできた。
「……何」
「何、じゃない! 何あれ、減らないんですけど!」
「いや、私に言われても困る」
真衣たちには菓子類を回したはずだけど、あの量を半月で消費できると思える方がどうかしている。朝日たちだって、冬休みになるまで残るほどだ。
さて、ここで夏休み中の出来事を少しばかり話そうか。内容的には中々にカオスだったけど。
まず最初に、両親と土産の山の対処。
自宅の玄関から聞こえてきた「ただいまー」という声とともに期待を裏切らなかった両親の土産攻撃に対し、「このために呼んだの? ねぇ、このために呼んだの?」と軽くパニックになった真衣を余所に、助っ人何人かとともに来てくれた鍵依姉のおかげで、いつもよりは家のスペースが確保できました。
いやぁ、マジで地獄だったよ。人海戦術、便利。
「いや、だから、それは人海戦術とは言わない……」
だから、それは分かってるよ。
ちなみに、祖父母や親戚への分は、鍵依姉が持って行ってくれた。
ご苦労様です。
次に両親の実家こと祖父母に会いに行きました。
片や高層ビル、片や和風な邸宅でしたけど。
「お久しぶりです、お祖父様」
「うむ、よく来た」
と堅苦しい挨拶から始まるけど、今は身内だけなので、
「それで、学校の方はどうだ」
「特に問題なく通えてるよ」
会社のお偉いさんでもある祖父相手にも、畏まる必要はない。
そしてーー
「それにしても、あの二人の土産攻撃はどうにかならんのか」
両親の土産攻撃の被害者の一人でもある。
「私が言っても聞かないから、お祖父ちゃんが言ってくれない?」
「儂が言って、聞くと思うか?」
思いません。
それにしても、娘も駄目、親も駄目。どうすりゃいーのさ。
「まあ、少しの間だから頑張れ、鍵奈」
丸投げしやがったよ。
それに少しの間じゃねーよ。
「さて、話題は変わるが、お前さんこの後の予定は?」
「何も言われなければ、宿題の一掃の予定。その後に土産の処理ぐらいかな」
それに納得したらしいお祖父ちゃんに、では、と言われる。
「『鍵錠選抜試験』と『学校対抗異能演武』に偵察に行ってくれんか。お前さんにも無視できんだろ」
「まあ……」
『鍵錠選抜試験』と『学校対抗異能演武』。
『鍵錠選抜試験』は、以前話した鍵錠を文字通り、選び出す試験である。どれだけ頭が回るか、とっさの判断や危機的状況の臨機応変さなどから合格不合格が決められる。
『学校対抗異能演武』は、文字通り学校対抗の異能を使ったバトル大会である。異能を使い、華やかさや個性で魅了する技術的要素がメインで繰り広げられる『技術パート』と、異能と異能のぶつかり合いで盛り上がる『戦闘パート』の二種類で、競技は進められていく。『技術パート』は盛り上がりと点数で、『戦闘パート』は予選と本選に分けられ、予選通過者のみが進められる本選はトーナメント方式で行われる。ちなみに、我が千錠高校も『戦闘パート』に生徒会組がエントリー済みらしい。
「無理にとは言わん。儂もできれば見ておいた方がいいと思ったから、勧めただけだしな」
「……ううん、行くよ。視たことのない異能があるかもしれないから」
私のこの眼がまだ視ていない異能ーーそれは、私にとっては、視ておく必要がある。
その後、お祖父ちゃん宅を後にし、私は土産の山とともに宿題を処理するという苦行じみた出来事が待っていたのは、言うまでもない。
ここまでが私の過ごした夏休みの、大体の出来事である。
未だに唸っている真衣から目を逸らしていたが、
「真衣、そろそろ移動しないと」
霞が真衣に声を掛ける。
今日からは新学期で始業式があるから、体育館へと移動する必要がある。
「桜庭さんたちも、ね」
霞に言われ、苦笑して席から立つ。
霞の言う通り、そろそろ移動しないと、学校にいるのに始業式に遅刻とか笑えない。
「それじゃ、移動しますか」
真衣に行くよ、と声を掛けながら、教室を出る。
さて、これからが本当に二学期の始まりだ。




