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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第一章:一学年一学期・桜庭鍵奈とゆかいな仲間たち
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第十九話:戻ってきてみれば


 ザーザーとこれでもかと降ってくる雨に気分が低くなる。

 林間及び臨海学校の時の晴天が嘘のように雨だが、まだ梅雨明けしてないため仕方ないだろう。梅雨入りが遅かった分、梅雨明けも遅れているのではないか、と天気予報でも言っていた。

 そんな雨を見て、安全とびしょ濡れ、どちらを取るべきか、と微妙に関係ないことを思いつつ。当然、安全を選んだ私はやや時間を掛けながらも、徒歩で通学していた。


「おはよー」


 そう声を掛けながら、自分の席に行けば、何故か固まるクラスメイトたち。


「何?」


 手っ取り早く近くにいた真衣に聞けば、


「え、何。そっちこそ、どうしたの? まさか失恋した?」


 んなことを()かした。

 そして、地味に失礼なことを言われた。心外である。


「何でそうなる。あと、髪の毛に関しては、単に夏が近いから切っただけ」


 おそらく、真衣たちが言いたいのは髪型のことだろう。

 私の場合、夏は暑くなるから短く、冬は寒くなるから長くしている。

 普段なら五月下旬辺りから短くし始めているが、今年はいろいろと予定がずれ込み、この時期になるまで短くできなかったのだ。


「おはよー……って、あ、きーちゃん。髪の毛切ったんだ」


 教室に来た朝日が声を掛けてくる。


「夏が近いんだねぇ、うん」


 その言葉で、クラスメイトたちはいつものことだと理解したらしい。

 朝日は、わけが分からず首を傾げていたけど。

 そんな感じでやや和んだような雰囲気になるが、その数分後に来た担任から朝のホームルームで落とされた爆弾により、クラスの雰囲気が暗くなることを、私たちはまだ知らなかった。






 とは確かに言ったが、確かに言ったが。今はそんなことはどうでもいい。

 楽しかった思い出を塗り替えるように、担任や教科担当の教師たちは、私たちに試験と提出物という名の爆弾を投下してきた。


「死んだ。俺、死んだ……」

「つか、提出物多くない? この短期間でそこまでやってないよね?」


 と、クラスメイトたちは大量の提出物を前に話している。


「御剣先輩、大丈夫かな」


 朝日が心配そうに言う。

 二年生は林間及び臨海学校と修学旅行で一週間丸々潰れたからね。私たちより悲惨なことになってそうだ。


「まあ、大丈夫じゃない?」

「それにあの人、去年も経験してるだろ」


 私と京の言い分に、だよね、と朝日は返してきたけど、心配そうな表情は変わらなかった。


「はいはい、ちゅうもーく」


 真衣が手を叩き、注目を集める。


「とりあえず、悩んでいても仕方ないから、勉強しよう。苦手な部分は得意な人に聞いて補うこと」

「つまり、それって勉強会ってこと?」


 真衣の言い分に、霞が片手を軽く挙げて尋ねれば、真衣は肯定するように頷いた。


「そ。今回はそれぐらいしないと、片付きそうにもないからね」


 提出物の山を見て、真衣が肩を竦める。

 私も気持ちは分からなくはないけど、大体こういう場合って、反対意見を言う奴もいるわけで。


「えー、面倒くさい」

「やりたい奴だけでやれよー」


 いくらノリの良いこのクラスでも、勉強とその他でテンションは変わってくる。

 さて、真衣はどうするのか、と見ていれば、助けてと言いたげな真衣と視線が合う。


(といわれてもなー)


 注目を集めるのは簡単だが、問題はその後だ。


「鍵奈~」


 ついにはこっちに来ちゃったよ。


「まあ、何だ。分かるところはさっさと埋めて、英単語とかの書き取りはさっさと書いちゃえば終わるでしょ。それか、数学の提出物なら数学の授業中にやっちゃうとか」


 教科担当の先生も、授業中には教室にいるから、質問があれば聞けるだろう。


「確かにそれなら、提出物を片付けられるけど、授業のノート取るとしたら大変だよ?」


 朝日の言葉にも一理ある。


「いくら私でも、自分の分もあるから、そこまでは見切れないわよ。それに、これはアイディアだから、最終的にどうするのかは、みんなが決めることだし」


 このような言い方だと無責任と言われても仕方がないが、私に出来るのはこれぐらいだ。

 分からないところを教えてくれと言いにくれば、私が分からない限りは教えるつもりだし(ただし、理数系以外)。


「きーちゃんらしいなぁ」


 朝日はそう言うけど……そうかなぁ?


「お前って、最終的には個人に一任することがあるからな」

「“自分のことは自分で片付けろ。無理そうなら他人を頼れ。それでも無理なら、人海戦術”よ」


 うわぁ、と朝日と京が遠い目をしているが、私が知るか。


「こういう場合、人海戦術って意味が無さそうなんだけど……」


 霞が正論言ってきた。


「それでも、何もやらないよりはマシ。零点よりは一点か二点でも合った方が良いでしょ?」

「それもそうね」

「逆に零点でもいいやと開き直られたら、私でも困る」


 真衣と霞の言葉にやや苦笑いするクラスメイトたち。


「だから、提出物とかから考えて、今回の場合は、中間の時と同じぐらいの点数取れば、大体大丈夫なんじゃないの?」


 平均点や先生方の予想は下がるだろうが。

 それに、今更の突っ込みだが、期末試験なのだから中間試験より増えて当たり前だし、中等部高等部で違うと言われても、習う範囲や量も違うのだから、当たり前である。

 だが、外部生である私も、純粋な千錠の面々を笑っていられるほどの余裕もないのは事実だから、否が応でも勉強しなくてはいけない。


「これで赤点取れば、何を言われるか……」


 私の呟きが聞こえたのか、朝日と京は無言で自分の席に戻ると、提出物のプリントと向き合い始めた。

 私も夏休みのことを考えると赤点だけは阻止したいので、提出物での点数稼ぎのために、プリントを取り出し、処理を開始する。

 未だに言い合っているクラスメイトたちには悪いが、私たちはそれぞれ一抜けさせてもらう。

 そして、気がつけば霞も、いつの間にか提出物と向き合っていた。真衣、何やら言い合っているけど、あの様子だと気づいてないな。


 そんなこんなで数日後。

 運命の日こと期末試験当日を私たちは迎えた。



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