第十八話:林間学校三日目、臨海学校二日目
さて、早くも林間学校三日目、臨海学校二日目……最終日である。
御剣先輩たち二年生は、すでに修学旅行へと出発し、残った私たちは、次の目的地に行くためにバスで移動中である。
(あんのヘタレが)
少しばかり苛々してるせいか、窓の縁を指で連打していた。
朝日たちも私が苛々しているのが分かったためか、迂闊に何も言ってこない。
そもそも、私が苛々しているのは、京と朝日のことである。
せっかく何気ないように場を用意して見守っていたのに、京は朝日に告白できないわ、邪魔が入るわで散々だった。
前者は理解できるが、後者は何だったんだ?
ちなみに、京を朝食の時に見かけたが、分かりやすいぐらい元気がなかった。
一方で朝日は、といえば、何もなかったかのようにけろっとしていた。
京、不憫である。
けれど、いつまでもこのままではキリがないので、切り替える。
「ねぇ。この後、何するんだっけ?」
「え? ああ、この後?」
ちょっと待って、と朝日が安堵したかのように『林間学校のしおり』を取り出し、確認する。
「んとね、一回近くにある遊園地に立ち寄ってから、帰るみたい」
「ふーん」
バスの外に目を向ければ、近づいてきたのか、観覧車が見えてきた。
「あ、観覧車!」
真衣が声を上げる。
そして、バスから降り、遊園地の入場口前で『一日乗り放題パス』を受けとった後、諸注意を受け、入場していく。
「わぁーっ、すっごーい!」
目に入ってきた乗り物の数々に、真衣が目を輝かせる。
「ねぇ、きーちゃん。何から乗る?」
「そうだね……」
『一日乗り放題パス』と一緒に受け取った乗り物や食事場所の書かれた遊園地の地図を見て、どれから乗ろうか思案する。
ジェットコースターや観覧車という定番のものから、新作まで揃っているこの遊園地は、一日では遊び尽くせないほどの乗り物がたくさんあるので、迷うのだ。
時間が時間なので、早く決めた方が良いんだけど……
「観覧車は最後って、決めてるし……」
「よし、じゃあ定番から行こう!」
結局、真衣の言う通り、定番から回ることになった。回ることになったのだがーー
「きゃあああ!!」
「わっははは! たっのしー!」
と最初からジェットコースターに乗った。
「ヤバい、微妙に酔ったかも」
「え、マジ?」
「微妙にクラクラする」
はっきり言って、死ぬかと思った。
「私たち、ジェットコースターは初めてだから」
「え、そうなの?」
朝日の言葉に、真衣と霞が意外そうな顔をするが、遊園地に行って、メリーゴーランドとかには乗っても、ジェットコースターは乗らなかったからなぁ。
「そういえば、桜庭さん。途中途中で死ぬー、とか叫んでたもんね」
霞が思い出したかのように言うが、あれは乗るのに慣れるまで、時間が掛かりそうだ。それでも、トラウマにならなかっただけでも、まだ良い方だと思う。
「じゃあ、次はどこに行こうか?」
真衣が遊園地の地図を見ながら、思案する。
「……あ」
ふと目に入った光景に、思わず声が出る。
というか、ヤバい。何か、状況が悪化してるように見える。
「どうしたの……って、ああ彼女か」
不思議そうな真衣たちも、そちらを見て理解したらしい。
林間及び臨海学校に入ってから何度か見掛けた同学年らしい女子生徒。
彼女は現在、男子生徒たちだけではなく、その場に来ていた男性客にまで取り囲まれていた。
「きーちゃん、あの子……」
「うん、間違ってないと思うよ」
朝日も理解したらしい。
「ん? どういうこと?」
聞いてくる真衣たちに説明する。
「あの光景。多分、彼女の異能のせいだと思う」
「彼女の、異能?」
うん、と頷く。
「どんな異能かは分からないけど、種類なら分かるよ」
あれだけ周りを引きつけているのだ。種類ぐらい、いやでも分かる。
「おそらく、あれは周辺及び範囲干渉系。しかも、異能が強すぎて、彼女自身でもコントロールできてないんだと思う」
私も強すぎる部分はあるが、それは異能の影響を抑える道具で補っているため、彼女のような影響は出てはいない。
でも、彼女が道具などで補っているようには見えない。
「ちょ、ちょっと待ってよ。もし、あの子がわざとじゃないんだとしたら……」
「うん、完全な不可抗力。今のところは、ね」
「しかも、無意識の時もあるから、余計に質が悪いよね」
真衣の戸惑いに朝日と二人で返す。
「とりあえず、私としては様子見を勧める。こっちが下手に手を出して、被害が拡大するのだけは止めたいし」
「そうね」
全てはタイミングである。
今の状況から彼女を助けられないのは心外だが、相手の人数が人数だ。いくら私でも、大人数を相手にするにはちょっと辛い。
だから、内心で謝りながらも、私たちはその場から移動する。
これから先、今回の件を彼女から責められても仕方がないだろう。実際に、責められるようなことをしているのだから。
そして、移動する私たちを、彼女が見ていたことに、私は気づかなかった。
最後、鍵奈たちが『彼女』を見捨てたようになりましたが、後にこのことがそれなりに関わってきますので、それまでの経緯として、あの時のことか程度で把握しておいてもらえば有り難いです
次回は学校に戻ります




