第十四話:昼食準備での一騒動
千錠高校こと千錠学園(高等部)に通う生徒には、平民というか庶民というかの私たちと金持ちの子息令嬢という二パターンがいる。
そして、時と場合によっては、壁が出来ることもあるが、それでも、このクラスの場合は大丈夫だと、私は思っていた。
だが、事件は起きた。
昼食を作るという行為で。
「……」
「ちょっ、きーちゃん。しっかり!」
ふらっ、と後ろに倒れ掛けるも、一緒にいた朝日が支えてくれたため、倒れずに済んだ。
「さすが自然ね。空気が違うわ」
「だねー」
到着早々、そう話していた時が懐かしい。
「出来ないのは仕方ない。仕方ないけど、包丁すら持ったこと無いって、どういうことだ!」
思わず叫んだ私は悪くないと思う。
私たちの中学というか似たような類の場所では、金持ちだろうが持っていたぞ。
それなのに……それなのにっ……!
「荒れてても仕方ない。さっさと作るぞ」
「そうね。でも、京。それは危ないから止めなさい」
包丁を手にしたまま言う京に、ついでとばかりに指摘しつつ、さっさと取り掛かる。
「私も手伝うね」
と朝日が言うので、お願い、と返せば、お米行ってきまーす、と飯ごうとともに水道の方へと向かっていった(見れば、米は水道付近で配られていた)。
それよりも、飯ごうなんてあったのか。施設の物なら納得だけど、この学校の面々が扱えるのかは不明だ。
私たちは中学の行事で使い方は知ったし、使いもしたから良いが、ボタン一つで炊くことの出来る炊飯器ではないので、油断してると失敗して昼ご飯が無くなる恐れがあるため、気が抜けない。
「とりあえず、誰か火を起こせ。それぐらい出来るだろ」
京が声を出して、指示をすれば、ようやく動き出す面々。
「ただいまー……って、火、まだ誰も起こせてないの?」
何度か行き来し、今ので最後なのか、戻ってきた朝日が嘘でしょ、と言いたげに言うが、目の前にあるのが事実だ。
「朝日、真衣。悪いけど、材料取りに行くよ。京。材料取りに行ってくるから、指示任せた」
「引き受けた」
さっさと行かないと作るどころか食べる時間すらない。
全く、こんな事になるなんて、予想外もいいとこだ。
☆★☆
昼食制作は修羅場と化した。
さすがに少人数(約五人)で一クラスの人数分作るのに対し、手が足りなかったので、材料を洗ったり、切ったり煮たり出来る人たちに手伝って貰った。
ただ、手伝ってくれた大半が自宅での料理経験者、家庭で手伝っていた人たちだったから、その点に関してはありがたかった。
というか、それなら最初から手伝ってほしかった、というのは贅沢なのだろう。それでも、一クラス分の昼食を、料理経験者を加えたとはいえ、少ない人数で指示しながら行うのは、やはり大変だった。
「……何なんだろうな、この気持ち」
「……学食の人たちの気持ちが理解できたよ……」
「……マジで、調理実習やろうよ。他にも被害者出るよ……」
上から京、朝日、私である。疲労とやりきった感でほとんど食べる気力は無いけど、食べないと動けないから何とか手と口を動かして食べる。
あ、キャベツが美味しい。
ようやく、まともに頭が動かせるようになったのか、今までの先輩方がふと気になった。
先輩たちは今まで一体、どうしていたのだろうか?
後で御剣先輩にでも聞いてみようか。
☆★☆
来たのが山で良かった気がする。先程までのイライラが、少しばかり解消されたから。
それにしてもーー
「鍵奈たち、料理出来たんだね」
「美味しかったよ~」
真衣を筆頭に、そう言ってくれるのは嬉しい。
「つか、どうすりゃあんなに美味くなるんだ?」
それでも、これだけは聞き捨てならない。
手伝わないもしくは包丁すら持ったこと無い奴が何を言うか。
だから、
「上手くなりたいなら、包丁を握ることから始めてみようか」
と答えてやった。
それを聞いていたのか、朝日と京が苦笑いしていたけど、持てなきゃ話にならない、と私は思う。
どんなことも、基礎はきちんとやっておいたほうがいい。
それが後にーーどんな未来が待っているのだとしても、ね。
今回の話、実は子息令嬢が料理経験者にするかどうか迷いました




