第十三話:林間学校一日目(車内会話)
現在、私たちはバスで目的地に向かっていた。
今朝のことは学園の待ち合わせ場所となった所に着いた時から、京が何か言いたそうな顔をしていたけど、そのことに関して私が無視をしていた上に、口にしなかったためか、京の方からも何も言ってこなかった。
「ねえねえ、鍵奈」
「ん?」
クラスメイトの女子ーー真衣が声を掛けてきた。
木下真衣。
入学式の時、私たちに声を掛けてきた子でもある。
彼女曰く、扱える異能は服を作ったりする、裁縫っぽいっものらしい。
最初は名字で呼んでいたんだけど、彼女が名前で呼べと何度も言うものだから、ついに私が折れた結果、名前で呼び合うようになった(それでも、朝日が御剣先輩の件を相談してきたときとほぼ同時期だったけど)。
「あれから一ヶ月経ったけどさ、大丈夫?」
「問題ないよ」
彼女が心配しているのは、一ヶ月前にあった私の入院騒動であろう。もちろん今では完治しているし、再び傷口が開くこともない。
(そういえば……)
高等部全員で行く林間学校である。つまり、御剣先輩も他のバスで同行しているのではなかろうか。
この前の件もそうだが、あの人はそのうちストレスで胃に穴が開きそうな気がする。
「あ、今思い出したけど、今回って二年生はハードスケジュールなんだよねぇ」
「そうなの?」
朝日は知らなかったのか、首を傾げる。
そう、真衣の言う通り、二年生は今回ハードスケジュールである。
今日からの林間学校、一日目と二日目は他学年と一緒に過ごし、二年生は三日目から離脱し、そのまま修学旅行へと向かうのだ。なので、二年生が実質的に落ち着けるのは、今から一日半だけなのである。
例年では林間or臨海学校と修学旅行は別々にしているらしいのだが、今年は試験運用なのか、林間or臨海学校から修学旅行の流れで行われるらしい(事実なのかは御剣先輩から確認済み)。
「でも、来年は私たちの番だからね。一体どうなるのやら」
と私が言えば、そうなんだよねぇ、と真衣がそう返す。
来年はどうなるか分からないけど、結局は何だかんだでバタバタすることになりそうな上に、今からそんな心配していてもキリがないので、別の話題に移る。
「でさ、話は変わるけど、こんな噂、知ってる?」
「噂?」
疑うように尋ねれば、うん、と真衣が頷く。
「この林間学校と修学旅行で好きな人と結ばれるとか、恋人が出来るっていう噂」
「うわ、本当にあるんだ」
中学の時の友人に高校生の兄だか姉だかがいて、あんなの迷信だー、とか何とか言ってたのを思い出す。
それなのに、本当にあって、噂になっているとは……
「鍵奈って、そういうの信じそうにないよね」
そんな真衣の台詞に、不機嫌そうにすれば、ごめんごめん、と朝日にまで謝られる。
……うん、長い付き合いだから、朝日はよく知ってるよね。
「別にいいよ。自分でも理解してるし」
「ん、分かった。もう謝らない」
そう言う朝日に微笑む。
それを見ながら、でもさ、と真衣が言う。
「二人には南條君がいるから、いいよねぇ」
「「は?」」
私と朝日の声が重なる。
一瞬、京の方を見るが、気づいた様子はない。
「何で京くん?」
「関係ないよね?」
朝日は分からなさそうだが、私には分かる。
真衣が私たちに期待しているということを。
「いや、幼馴染でしょ? しかも異性の。木戸っちが噂聞いたときにぶつぶつ言ってたし」
木戸っちって……あいつか。
でも、納得だ。京と話しているのも何回か見たし、入学式の時の反応からも理解できる。
「い、いやいやいや、無いよ? 真衣ちゃんが思ってるようなことなんて……」
挙動不審になってるよ、朝日。
それに、話をしていて思ったけどーー
「こういう話って、普通は夜にするんじゃない?」
「……まあ、そうだよね」
所謂ガールズトークは、夜に宿の部屋でするイメージがある。恋バナが大半だが、その場合、私や朝日だと幼馴染なせいか、相手として最初に名前が上がるのが京になるのは仕方がないと思う(というか、私は慣れた)。
何気なく外を見れば、バスはどんどん進んでおり、隣を乗用車やトラックが通り過ぎていった。
その後、途中でトイレ休憩を挟み、私たちは目的地である施設に到着するのだった。
鍵奈のいう“この前の件”とは、退院後にあった出来事のことです
何があったかについては、本編にほとんど関わってこないため、省きました




