第十二話:林間学校当日
今回は京、鍵奈視点
目覚まし時計の鳴る音が聞こえる。
「……うぅん?」
止めようと体を動かそうとするが、何かに封じられたかのように動かすことができない。
というか、動かせないのは腕だった。
そもそも誰が掴んでいるのか、と目を向けてみれば……
「あ、起きた?」
「……」
我が幼馴染、桜庭鍵奈が俺の腕を掴み、隣で寝転がっていた。
……一体、何事?
☆★☆
「一体、何事? って、聞きたそうな顔をしてないで、さっさと起きる」
俺の疑問を見透かしたかのように、鍵奈はあっさり腕を解放すると、そう言って、俺の隣から離れてドアの向こうに行ってしまった。
何となく気配がするから、ドアの近くにはいるんだろうが。
「今日、何の日か忘れたわけじゃないでしょ?」
「……ああ」
制服に着替えながら、扉越しに返す。
言われなくても分かってる。
本日は、全校生徒(とはいっても、千錠学園高等部のみ)との林間学校当日である。
「そもそも、さっきのは何なんだ?」
「“幼馴染(男)を起こしに来た世話焼きの幼馴染(女)”という設定でやってみました」
「設定って……」
鍵奈のことだから、そんなことだろうとは思ったが。
朝食を口にした後、現在、俺と鍵奈は、林間学校の荷物を持って、学校まで俺の親父に送って貰っている最中である(親父はついでに会社に行くらしい)。
全校生徒(何度も言うが高等部だけ)での行事なので、学校に近づけば近づくほど予想通り、バスが何台も止まっていた。
「よし、間に合った!」
「小父さん、ありがとうございました」
学校のギリギリまで近づいた場所に車を止めてもらい、鍵奈が親父に礼を言っている間に、鍵奈の分の荷物も車から下ろす。
「ほらほら、礼はいいから早く行かないと置いて行かれるぞ?」
「げっ!」
親父に言われ、慌てて荷物を抱えると、待ち合わせ場所へ向かって走り出す。
「おい、マジで大丈夫か?」
「大丈夫ですっ!」
鍵奈が身体強化の異能を俺にも掛けてはくれたが、間に合うかどうかは微妙である。
「大体、あんたが起きるのが遅いからいけないんだからね?」
「あーもう! 分かってるよ!」
普通なら、鍵奈は俺なんか起こそうとせずにさっさと行っていれば、待ち合わせ場所にも間に合っていたはずなのだ。
だが、鍵奈はわざわざ俺を起こしに来ては、結局ギリギリとなっている。鍵奈も鍵奈で何で待っていたんだか。
☆★☆
さて、林間学校当日である。
「きーちゃん、おはよう」
「おはよう、朝日」
私を見つけたらしい朝日が声を掛けてくる。
中間試験が終わり、約一週間後。やはりというべきか、私たち一年生が揉めたが、上級生の意見もあり、何とか今年の学校が林間学校に決定した(なお、上級生の意見に朝日は無関係)。
「京くんは?」
一緒に来てないの? と言いたげな朝日に、やや目を逸らしてしまう。
「あー……まだよ。さっき鍵理さんと会って話したら、数秒後くらいに悲鳴が聞こえてきたから、そろそろ来るわよ」
悲鳴に関しては大げさかもしれないけど、一度鍵理さんと話したのは事実だし、そろそろ来るのも事実だ。
「うわぁ……京くん、ご愁傷様」
「ねー」
「鍵奈、朝日……」
朝日の言葉に同意していれば、噂の張本人の登場である。
「あら、ようやくご到着?」
「鍵奈、お前な……」
笑顔で出迎えれば、お前が言うかと言いたげに返される。
いくら身体強化で走ってきたとはいえ、そもそも私と京では体力差ややっていることが違うので、到着するまでに間が出来てもおかしくはない。
「点呼、取るぞー」
そんな先生の声が聞こえ、京が自分の列へと向かい、私たちも並び直す。
そして、参加生徒の確認が終わると、これからの注意事項が告げられ、私たちは移動用のバスへと乗り込むのだった。




