第十一話:海か山か
「桜庭鍵奈、復活しましたよ~ってね」
そう言いながら席に着けば、
「桜庭さん、大丈夫!?」
「入院したって聞いたけど、もういいの?」
教室へすでに来ていたクラスメイトたちに囲まれました。
というか、情報操作したはずなのに、何故知っている。
「えっと……大丈夫です」
「良かった~」
大丈夫だと告げれば、安堵したような息を吐いたり、そんな雰囲気を感じ、みんなが心配してくれていたのだと理解する。
でも、クラスメイトたちが安心した理由はそれだけではないらしい。
「私が休んでる間、何かあったの?」
「あったも何も、林間学校と臨海学校、どちらにするかで、二組とケンカになったのよ」
ああ、そういうこと。
「一組、三組、五組は林間学校派、二組、四組は臨海学校派なのよ」
ちなみに、私たちは一組である。
「うん? なら、林間学校に決まりじゃないの?」
多数決制なら林間学校に決まっていそうなのだが。
「それが、五組の女子が臨海学校が良いって言ってるみたいで、なかなか決まらないのよ」
「うわー、それは大変だ」
つまり、五組の林間学校派は男子の意見、というわけか。
「それで、何で私たちは林間学校?」
「宮森さんが林間学校を勧めるから、理由を聞いたら、『きーちゃーーいや、桜庭さんのことも考えて!』って、言われてね」
まさかの朝日の影響か!
だが、これはマズい。
「いや、みんな海が良いなら、臨海学校にしなよ。その時までには絶対治ってるから」
というか、ほぼ完治してるし、医者からも学校行っていいと言われたから来てるんだけど……どうしたものか。
そう思っていれば、
「あっまーい!」
そう言いながら、朝日が近づいてきた。
「あ、朝日?」
「病気やケガって、油断してるとぶり返すんだよ!?」
戸惑ったようにその名を呼べば、正論を言われた。
「いや、でも、一ヶ月後でしょ。どっちかが」
「そうだけどさぁ」
朝日が微妙に不服そうである。彼女の気持ちは分からなくはないが、今の状態でもほぼ完治しているのだ。
まだ林間学校か臨海学校のどちらになるのかは分からないが、それまでに一ヶ月近くもあるのだから、その間はほとんど問題無いぐらい動き回れるはずだ。
「それでも、朝日の気持ちだけ受け取っておくよ。それにーー」
「それに?」
感謝の気持ちを示しつつ、付け加えるようにして告げる。
「まずは夜空さんの説得、しないといけないでしょ」
「!?」
笑顔で爆弾を投下してやった。
「忘れてたわね。その顔」
「ううっ……どうしよう、きーちゃん」
私が指摘すれば、狼狽えながらも朝日が尋ねてくるが、こればかりは難しい気がする。
ちなみに、林間学校か臨海学校云々ではなく、私がケガをしたということについてである。
ただ、今回の場合、夜空さんへの説得・説明などは私や京も関係者だから同席はするつもりではいる。
「いつものことでしょ。頑張りなさい」
とはいえーー
『夜空が暴走しだしたら呼びなよ?』
と鍵理さんに言われたので、その時は遠慮なく呼ばせてもらうつもりだ。
そんな話をしていれば、朝のホームルームのチャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってきた。
近いうちに中間試験もあるし、何もなければいいんだけどなぁ。
【説得】
よく話して、相手に納得させること
今回の場合、鍵奈としては、『朝日が夜空に対し、鍵奈や京を巻き込んだ“織夜との出来事”を説明し、理解してもらう』という意味で使ったので、誤用・ミスではありません




