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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第一章:一学年一学期・桜庭鍵奈とゆかいな仲間たち
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第十話:見舞い


「朝日~、退屈だよ~」


 そう言えば、ムッとした顔を返される。

 実際、対夜空さん用の言い訳を鍵理(けんり)さんと考えていたけど、「そろそろ朝日ちゃんたち来るだろうから撤退するねー」と言われていなくなった後、朝日たちが来るまでの間、ずっと暇だったのである。

 というか、学校行ってた朝日たちに文句を言っても仕方ないのだが。


「もう! あれだけ心配したのがバカみたいじゃん」


 私の心配を返せ、という朝日。

 まあ、心配させたのは悪いと思ってはいるけどさ。


「怒らないでよ。まあ、個室用意してくれたことには感謝するけどさ」


 話を聞けば、結局、個室を用意したのは鍵依姉(きいねえ)と朝日だったらしい。

 鍵依姉はともかく、朝日はどうやって? と聞けば、ふふ、と微笑まれてはぐらかされた。

 ただ何となく、聞かない方がいい気がしたから聞かないけど。


「でも、いいの?」

「何が?」


 朝日が尋ねてきたため、私は首を傾げる。


「先輩の件だよ。そりゃあ、私が表から、鍵依さんやきーちゃんが裏から手を回したから、世間に知れ渡る前に止められたけど、下手したらきーちゃんは死んでたんだよ?」

「それは、あんたも一緒でしょ」


 私が出なければ、朝日や京が私みたいなことになっていた可能性だってあったのだ。

 その可能性を想像するだけでも後が怖い(いろんな意味で)。

 あと、ケガ人である私がどうやって手を回したことになっているのか、これは聞いた方がいいのだろうか?


 そんなこと考えてみれば、ドアがノックされ、「どうぞー」と言えば、恐る恐る顔を見せてきたので、来訪者が誰なのかを理解した。


「先輩、わざわざ来てくれたんですか」


 そう言えば、物凄く気まずそうな来訪者こと御剣織夜(みつるぎ しきや)先輩。


「その……済まなかった」


 私に向かって頭を下げて謝る御剣先輩に、どうしたものかと思う。

 私に謝る前に、怖がらさせた朝日に謝るべきなんじゃないのかな?


「来たって事は、分かりました? 私の正体」

「ああ、凄かったんだね。君は」


 御剣先輩ーーというより、先輩の父親に伝言として伝えた概要を鍵依姉からメールで知った私は、思わずうわぁ、と言いたくなった。

 というか、鍵理さんもいるときに確認したため、鍵理さんが部屋を出た理由もこれが原因ではないのか、と私は思う。


「これからはこんなこと、起こさないで下さいね?」


 とにもかくにも、注意喚起は必要である。

 今回は私だから良かっただけで、相手が相手なら、先輩が病院に来られるはずがない。


「ああ、分かってる。錠前ーー」

「先輩、訂正しますが、私は錠前時の令嬢じゃないですから」

「え」


 え、はこっちの台詞だ。

 やはりというか、やっぱりそう思っていたのか。即座に訂正を入れて正解だった。

 というか、私みたいな性格だと姫には向かない。向くとすれば、朝日や鍵依姉ぐらいだ。


「あと、ヤンデレはやっぱり(・・・・)設定だったんですか」

「え、あ……って、ヤンデレ?」


 何のこと、と聞かれたが、こっちのことなので気にしないでください、と返しておいた。

 それに、先輩と対峙していたときから思っていたけど、慣れないのか、話しているうちにどんどんボロが出てきていたし。


「先輩。私、あの時本当に怖かったんですから!」

「あ、その、すまない……」


 今だって、朝日の言葉に気まずそうにしながらも謝っている。


「もう、いいです。きーちゃんも無事でしたし」


 うん、朝日はやっぱり優しいね。

 これで私が無事じゃなかったら、いろいろとヤバそうだ。


「御剣先輩、一つ聞いても良いですか?」

「え、何かな?」


 タイミングを見計らい、話しかければ、先輩が頭を上げてこちらを見る。


「非常にどうでもいいことなんですが、先輩の一人称って『僕』と『俺』、どっちですか?」


 対峙し始めた時は『俺』だったけど、時間が過ぎるに連れて、『僕』という一人称の方が多かった気がする。


「僕は『僕』だよ。『俺』も使うときはあるけど」

「そうですか」

「僕からも、一ついい?」

「どうぞ」


 答えられる質問なら答えないと、先程答えてもらった意味がない。


「君がもし令嬢でないのなら、君は一体、何者なんだ?」


 あ、朝日がビクリとして、側にいた京がどうするんだ、と言いたげな顔を向けてきた。


「何者、って言われましても、私は先輩の後輩で、この春に高校に入学した新入生です、としか答えられません」


 遠回しだが、それについては答えるつもりはない。知りたければ調べろ、である。

 仮に知られたところで、距離が置かれたとしても、余計な手出しをされなくて済む。


「……まあ、答えたくないなら、答えなくていいけどさ」


 どこか残念そうな御剣先輩だが、発する気は残念そうではないですよ、先輩。


「ま、君たちにとっての高校生活はまだ序盤だからね。ちゃんと楽しみなよ? 一年なんてあっという間なんだから」

「それはどうも」


 経験者は語る、って奴か。

 分からなくもないけど。


「それじゃ、僕はそろそろ帰るよ。暗くなってきたしね」

「気をつけて」

「ん、君も早く復帰しなよ」

「先輩が言いますか」


 苦笑する先輩を見送りつつ、窓の外を見れば、真っ暗である。


「朝日たちは帰らないの?」

「そうだね。そろそろ帰らないと、お母さんたちまで心配するし」

「京」

「分かってる」


 さすが幼馴染。私が言いたいことをよく理解していらっしゃる。


「じゃあ、きーちゃん」

「ちゃんと治せよ」

「分かってる」


 ドアから出て行く二人に向かって手を振る。


「……」


 ドアが完全に閉められたのを理解すれば、一人、溜め息を吐く。


「……勉強、追いつけるかな」


 復帰後の私のやるべきことの中で最初に出た心配はそれだった。



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