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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第四章:二学年一学期・新たなる出会い
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第百八話:別の意味で話し合う役員たち


今回は三人称。



桜庭(さくらば)先輩、大丈夫ですかね?」


 静まり返った生徒会室に、庶務の五十嵐(いがらし)がそう呟く。

 名前を出された当人は、というと、職員室に書類を届けたついでに自販機に寄ってくるとかで、今は不在である。


「……そうだね」


 鍵奈(きいな)の様子が目に見えてーーといっても、ペンが止まった程度だがーー変化したのは、一ノ瀬(いちのせ)が『聖鍵(せいけん)学園』という名前を出してからだ。


「でも何で、あんな反応したんだろ?」


 双葉瀬(ふたばせ)が疑問を洩らすが、この場で答えられるものなど、誰一人いない。


「あ、もしかして、以前通ってたとか?」


 「なーんて、有り得ないですよね。千錠(ここ)って、エスカレーター式ですし」と五十嵐は笑って誤魔化すが、他の三人はその可能性に笑うことなど出来なかった。


「……その可能性があったか」

「いやいやいや、でも一つの可能性でしょ? それに、何で千錠(こっち)に来たのさ。向こうも同じエスカレーター式だから、わざわざ試験受けてまで、外部(こっち)の学校に来る必要なんて……」

「その、外部(がいぶ)の学校に行かなきゃならない理由が出来たから、千錠(こっち)に来たんじゃないんですか? 桜庭は」


 獅子堂(ししどう)が双葉瀬の言葉を遮り、告げる。


「あの、先輩たちって、中学時代の話とかしないんですか?」

「こっちはしようとしたけど、中学の話だけは避けられるんだよね」

「生徒会経験者だっていうことは言っていたがな」


 逆に言えば、それしか知らないのだ。彼女については。


「それで、どうします? 桜庭が戻ってきたら、駄目元で聞いてみますか?」

「え、でも地雷踏みたくないし、何より空気悪くなるのが簡単に予想出来るんだけど」


 獅子堂の問いに、双葉瀬が唸る。

 鍵奈とは半年以上の付き合いとはいえ、未だによく分からない点は、分かっている点よりも多く存在している。


「ねぇ、(りつ)。会長権限で、桜ちゃんの情報って見られないの?」

「それなら、もうやった。ただ、いくつかの場所には情報規制が掛かっていたがな」

「うわー、もう桜庭先輩ってば、黒に近いグレーじゃないですかー」


 双葉瀬の言葉に、一ノ瀬は首を横に振り、五十嵐が嘆くような声を上げる。


「……誰が、黒に近いグレーだって?」


 聞き慣れた背後からの声に、五十嵐が固まり、一ノ瀬、双葉瀬、獅子堂の三名は視線を泳がせる。


「一体、いつ戻ってきたんですか?」

「全部、って言いたい所だけど、さっきだよ。双葉瀬先輩が一ノ瀬先輩に、私の情報を見れないか確認してた時」


 ーー本当に、『さっき』だ……!


 四人は今すぐ突っ伏したり、この場から逃げ出したくなるほどに、視線でどうするのか会話する。


(それで、どうするの? さっきのこと、聞くの? 聞かないの?)

(このタイミングで聞くんですか? なら、双葉瀬先輩が聞いてくださいよ)

(そうだな。言い出しっぺでもあるし)

(言い出しっぺなら、(なぎさ)でしょ?)


 そんなやり取りをしていれば、当然、結論が出るはずもなく。


「……」


 そして、他人の様子に目聡(めざと)い鍵奈が、そのことに気付かないはずもなくーー


「あの、少し休んできては?」


 「私たちのお土産もあることですし」と鍵奈に促され、四人は「そうだな」と場所を移動する。

 鍵奈たちが来たときよりも書類の山も減っている上に、長机にも置いていた書類も少し場所を変えれば、男四人でも休憩できるほどのスペースも確保できるわけで。


「お茶とか淹れてきます」


 基本的に鍵奈以外だとお茶汲み当番と化している獅子堂が、キッチンスペースへと移動する。


「……」

「……」

「……」

「……」


 沈黙がその場を支配する。

 音があるとすれば、鍵奈のペンを動かす音やキーボードを打つ音、キッチンスペースから聞こえてくるカップを用意したり、お茶を淹れる音のみである。


「……っ、あの、桜ちゃん!」

「何ですか?」

「え、あ、その……」


 静かなその場に耐えきれなくなったのか、双葉瀬は話し掛けるが、いざ彼女を前にすると、聞きにくいことを聞こうとしているためか、緊張してすぐには口から疑問が飛び出さない。


「何ですか?」

「あ、えっと、その……修学旅行、楽しかった?」


 その問いが出た瞬間、双葉瀬は「僕、何やってんの!?」と内心焦り、一ノ瀬と五十嵐は「このヘタレが」と呆れるも、尋ねられた鍵奈は、というとーー


「楽しかったですよ?」


 苦笑しながらの返答となった。

 ただ、聞いてくるだろうなと思っていた質問とその内容が違ったために、そうなったかぁと思わなかった訳でもないのだが。


「桜庭」

「何ですか?」

「その、この際だからはっきりさせておきたいし、このまま気になったままなのも、俺たちの精神衛生上良くないから単刀直入に聞くが」

「はい」


 一ノ瀬のその言葉に、随分と遠回しな上に保険を掛けてきたなぁ、と鍵奈は思う。


「聖鍵学園とどんな関係なんだ?」


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