第百六話:帰ってきたその日に
さて、修学旅行から帰ってきたわけなんですがーー
「……あれだけここ三、四日間は留守にするから送ってくるなって言ったのに、まさかの不在票とか」
郵便受けに入っていた『不在票』を目にした瞬間に、修学旅行の思い出ではなく、どっと疲れが出てきた。
え、何。あの人たちって仕事は出来る代わりに、そういうことは忘れるタイプなの?
「ねえ、鍵依姉。私、散々修学旅行で留守だからって言ったのに、何か不在票があったんだけど、それについてどう思う?」
『とりあえず、あまり冷静になれてない様だから、私に掛けてきたんだと判断するけど……それでいい?』
「うん、それで合ってる。正直、あんまり頭が回ってないから、また明日の朝にメールしてくれると助かります」
『……これは重症ねぇ。どうせ明日は休みなんでしょ? しっかりと休みなさい』
さすが、卒業生。一度経験しているだけあって、日程もよく分かっていらっしゃる。
「ん。でも、私のところに来たってことは、みんなのところにも行ってるって思っていいんだよね? というか、その可能性が無い方が怪しいんだけど、せめて私たちのお土産には目を通すことぐらいはしてほしいなぁ」
私たち『千錠』と彼ら『天上琳海』からのお土産である。その上、うちの両親からの送り物も含まれるのだから、その数がどれだけになるのかは、想像しやすい。
『ちなみに、お土産の内容は聞いても良い?』
「自分用を除いては、オール消え物。多少、被ってはいるだろうけど、残るものよりはマシかと思って」
『そうね。鍵奈の元に、何らかの形として残るものがあるのなら、それで修学旅行のことが思い出せるから良いじゃない』
「現状、こうやって報告してることも思い出すだろうけどね」
それでも、やっぱり今回の修学旅行は、少しばかり特別だったのだ。
『彼』についても、彼自身から救援要請してくれるほどには悪感情を抱いていないことは把握できたし。
『……鍵奈?』
「いや、そうだね。嫌なことはあったけど、良い思い出も確かにあったから」
少なくとも、中学時代よりはマシなのだ。
『そういえば、天上琳海も今年は同じ場所とか言ってたっけなぁ』
「……っ、何それ。私初耳なんですけど」
『だって、今言ったし。あ、もしかして、向こうで会ったの?』
鍵依姉の声のトーンが上がる。
本当、お前ら恋愛の話が好きだよな!
「……姉さん。そろそろ持って帰ってきたお土産を分けたいので、切っても良いですかね?」
『あ、やっぱり会ったんだ。彼はどう? 元気そうだった?』
「元気そうではあったけど……私、冬にも会ったこと、鍵依姉に話してなかったっけ?」
『聞いてないと思うけど?』
話したような、話してないような。
『けれどまあ、修学旅行お疲れ様』
「うん」
『お土産については後回しにして、今日はもう休みなさい』
「それじゃ、お休み」「お休みなさい」と互いに挨拶をして、電話を切れば、部屋の中が一気に静まり返る。
「……はぁ」
そのままリビングの床に倒れ込む。
他の誰かが居たら、注意されたんだろうけど、今だけは許してほしい。
「……『大会』と『試験』、かぁ」
会長には、出場云々については次会った時にどうするのかを話すとは言ってあるので、答える必要があるのだが。
「……また一つ、確認しないとなぁ」
やはり、自分でも思ってた以上に疲れが溜まっていたんだろう。
そう呟いたあとに、そのまま私は見事なまでに寝落ちすることになるのだった。




