第百二話:山と海と修学旅行Ⅶ(土産選びの問題と三人での時間を)
修学旅行二日目。
現在、私が居るのはお土産屋である。
「どうすっかなぁ……」
私の場合は金銭の問題ではない。問題なのは、選ぶべき土産品の数だ。
「……気が滅入りそうだ」
溜め息混じりに肩を落とす。
誰かいくつか便乗させてくれないものだろうか。
……うん、無いよね。私と共通の関係者なんて、数が少ないし。それに、「便乗なんてさせないから」と、和花には前もって言われちゃったし。
「……」
もう、『上』とかバイト先のみんなには、無難に消え物で良いか。
『上』からは両親からの分があるので、悲鳴を上げられそうだけど、受け取ってもらおう。中学の時の修学旅行は、土産選びが唯一至福の時間だったから、無駄に長引かせていたけど(一部配送を使いました)。
あ、今回も一部配送使おっかな。数が数だし。
「あ、きーちゃんがヤバいことになってる」
「ある意味では中学の再来か」
聞き覚えがある声が聞こえたので振り向けば、やっぱりというべきか朝日と京でした。
「デートか。良かったな、京」
「……何か、お前に言われると、馬鹿にされてるように聞こえるのは気のせいか」
京よ。その言う前に『デート』って言われてるんだから、照れるか喜ぶべき所でしょうに。
開口一番でそんなことを言うから、朝日には苦笑いされるし、意識されないんだよ。
「で?」
「お土産、見に来たんだよ。どうせ、きーちゃんのことだから、配る方法とかで悩んでるんじゃないかって」
何かもう……さすがである。
「ああ、そうだよ。送料掛かるけど、送ってやろうかと思ってさ」
「つか、まだお前の両親の分が残ってそうだよな」
「うちはまだ大量に残ってるけど?」
あの山はもう、長持ちさせられる保存方法に化けさせるしかない。冷凍したり、干物にしたり、燻製にしたり……
「お前んとこの分があるから、うちの食費の一部が浮いてるんだよな」
「それは何より。大半が京たちの腹の中に入ってくれるから、有り難いよ」
「腹言うなよ」
とりあえず、男の意見が欲しいので、どっちが良いのか候補の土産品を見せてみる。
「京的にはどっち?」
「俺ならこっち。でも、『上』にやる分なら、数が多い方が良いだろ」
そこなぁ……。
「きーちゃん、きーちゃん。これはどう?」
土産品を見ていたのだろう、朝日が見せてくる。
「見た目綺麗だから、女性陣が喜びそうじゃない?」
「それもね、迷ってたんだよ。けど、和花たちも買うでしょ? なるべく被らないようにしたいんだけど……」
「便乗できないもんね」
朝日たちにまで言ったんですか、和花さん。
「風峰君は……どうなんだろう?」
「私、生徒会の人たちの分も買わないといけないから、獅子堂君にも聞かないとなぁ」
風峰君もそうだが、獅子堂君にも確認しなければならない。
「獅子堂は分からんが、風峰なら……」
「京くん」
何か言おうとした京を朝日が遮り、首を横に振る。
それにしても、風峰君がどうかしたのか?
「とりあえず、電話で確認してみたら?」
「そうだね」
どこに居るのかも分からないので、メールにしてみる。
なお、和花には『便乗はしないけど、土産品被りしたくないから、どっかで待ち合わせて選別ヘルプ!』と候補写真とともに送っておいた。これで、こっちが買ってないのは伝わったはずだ。
「よし、送信完了」
「メールにしたんだ」
「どこに居るか分からないからさ。下手に掛けて、携帯取り上げられたらマズいだろうし」
まあ、うちの学年は悪さをするっていうより、ノリで動くみたいな所があるから、本当に馬鹿みたいなことをしない限りは取り上げられるようなことは無いだろうけど。
「そういえば、宿泊場所。天上琳海も一緒みたいだけど……」
「知ってるし、多分向こうも気付いた。前会ったときに、『千錠に通ってる』って言っておいたから」
朝日と京が顔を合わせる。
「いつ会ったんだよ」
「去年の冬」
「去年の冬!?」
何でそんなに驚かれなきゃならない。
つか私、会ったこと、言ったよね? ……あれ、言ったかな?
「だから、向こうから何らかのアクションが無い限りは、ここで会うことは無いと思うよ」
「そっか」
「それなら、それで良い」とばかりに、朝日が頷く。
「ねえ、きーちゃん」
「何?」
「久々に三人だけで回らない?」
「三人だけで?」
「うん」
そういえば、高校生になってからーー特に二学期以降は、三人で過ごすことは減ったんだっけ。
「京は?」
デートの邪魔することになるけど。
「別に構わないが。朝日が決めたんだしな」
甘いなぁ。私もだけど。
「じゃあ、少しの間だけね」
「うん!」
ーーそれじゃあ、行こうか。
そんなに嬉しかったのか、朝日の黒髪が私たちの手を引くのと同時に舞う。
「……」
ああもう、この子は……この幼馴染たちは……
「ーーありがとう」
やっぱり、大好きだ。
何か言ったかと聞きたそうな二人に、「何でもない」と返す。
だって、もし言ってしまえば、きっと二人はーー特に朝日は泣きそうな顔をしそうだから。
だから、私はこの気持ちについては、黙っておくことに決めたのだ。




