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七鍵~姫と七つの鍵~  作者: 夕闇 夜桜
第四章:二学年一学期・新たなる出会い
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第百話:山と海と修学旅行Ⅴ(送られてきた写真とそこにあった名前)


 何の意味があろうが無かろうが、私は私のやるべきことをやるだけであり、それがどんな『仕事』であろうと全うするまでだ。


   ☆★☆   


 サービスエリアを出て、バスは目的地である修学旅行先へと向かっていく。

 出発開始時に(軽くある程度)寝たためか、今では完全に目が覚めたらしい男子たちを筆頭に、我がクラスのバス内は騒がしい。

 『斎藤先生からの伝言』という頼まれ事はもう済ませてあるので、今の私のやるべきことと言えばーー


「桜庭さん、良かったらどーぞ」


 クラスメイトとの交流である。

 後ろの席の子から棒状のチョコ菓子を差し出されたので、「ありがとう」と言って、一本受け取る。さっきのサービスエリアで買ってきたとのこと。

 まあ、いくら役員とはいえ、クラスメイトたちと接してないと、何かあったときに大変だから。ほら、班分けとか仲間外れにだけはなりたくないし。


「仁科さんも、ほら」

「あ、ありがとう……」


 仁科さんが棒状のチョコ菓子に、恐る恐るといった感じで手を伸ばす。

 最近の仁科さんを見てると、去年ほどの嫌がらせなども無さそうで、今のように順調にクラスメイトたちとも距離を縮めているらしい。


「っと」


 携帯はマナーモードにしていたからか、ブブブと振動したので、通話かメール、どちらの着信か確認してみればーー……


『件名:現在地・遊園地にて』


 送り主は双葉瀬先輩だったんだけど……件名もそうだが、本文も『修学旅行、楽しんでるー?』というその一文だけで、一緒に添付されていた写真には、双葉瀬先輩と一ノ瀬先輩、感じ的にその場に居合わせたらしい五十嵐君が一緒に写っていた。どうやら、向こうは向こうで楽しんでいるようだ。

 アドレス部分から察するに、獅子堂君宛の分と纏めて送信されてきたらしいのだが……そうか、獅子堂君にも同じ写真を送ったのか。


「どうしたの?」

「双葉瀬先輩がさ、遊園地で楽しんでる写真を送ってきた」


 ほら、と仁科さんに見せれば、「本当だ」と返してくる。


「こんなの見せられたら、私たちも楽しまなきゃ駄目そうだよね」

「仮に楽しんだとしても、写真は送らないけどね」


 お土産は買っていっても、写真は送らない。今、そう決めた。

 とりあえず、『遊園地、楽しんでいるようで何よりです』と返信しておく。

 そして、携帯を仕舞(しま)おうとすれば、再度振動する。


『何で二人して同じ反応!?』


 どうやら、獅子堂君も似たような反応をしたらしい。彼の性格を思えば、まあ予想通りだけど。

 つか、あんな写真を見せられて、どう反応しろと。

 このまま返信しても、何だか面倒なことになりそうな気がするため、双葉瀬先輩へは返信せずに、一ノ瀬先輩へとメールする。


『先輩、頑張ってください。双葉瀬先輩の手綱は任せました』


 すぐに『お前は鬼か!』という返信が来たが、特に返事をせずに携帯をポケットへと突っ込む。

 さて、二度目の休憩で昼食を食べたら、このまま宿に向かって、連絡通りの自由行動である。学級委員と修学旅行の担当委員、私たち役員に任された以上、ちゃんとやるしかない。


「先生の監視が厳しくならないように、ちゃんとしよう。今までの先輩たちが、修学旅行で何かやらかす度に、その時の監視が厳しくなったみたいだから。二の舞にはならないように」


 その話、どこから仕入れてきたんですか、委員さんたち。


「最悪の場合、スマホとか取り上げられたみたいだから、迷惑だけは絶対にダメだからね?」


 その話で悲鳴が上がるけど……ねえ、もう本当にどこから仕入れてきたんですか。その話。

 鍵依姉(きいねえ)の時ーー二年前の話がまだ残っているとか、妹としては泣けるんですけど。いや、まだ二年前だから残っているのか。


(もう本当に、いろいろやり過ぎだよ。鍵依姉)


 自分の影響を理解しているようで理解してない所があるから、変に姉さんに関する伝説っぽいものがあるのだ。お陰で保険医が聞いてきたこともあったが。

 とにもかくにも、私は自由行動中に第一陣の土産選びに精を出しますか。……なんてね。


   ☆★☆   


 宿泊場所に着いたことにより、荷物を持って、順番にバスを降りる。

 そして、宿泊場所の扉に近付けば、『本日の団体のお客様』と書かれた一覧に目が向くのだがーー


「あれ?」

「どうしたの?」


 私が不思議そうにしたことで、私の近くにいた仁科さんも、団体客の名前が書かれた一覧に目を向ける。


『千錠学園高等部ご一行様』


 と我が高校名があるのは、まだ良い。

 だが、問題はその隣にある学校名。


『天上琳海高等学校ご一行様』


 私の記憶が間違ってなければ、天上琳海(てんじょうりんかい)って……。


「へぇ、別の高校の人たちも来てるんだ。私たちみたいに修学旅行かな?」

「……」

「桜庭さん?」

「え? あ、いや、何でもないよ」


 まさか、雪原先生はこのことを言いたかったのか? でも学年が書いてないから、二年生とか三年生とか限定するのもなぁ……。

 だとしても、偶然であれ何であれ、もし会ったら会ったで、それで良いじゃないか。


「ほら、行くよ。仁科さん」

「あ、うん」


 仁科さんを促して、みんなとともに宿泊場所へと入っていく。


 ーーだって、私は君に学校名は教えたから分かっただろうけど、こっちは君から直接聞いたわけじゃないから。


 あらかじめ決められた部屋に大きな荷物を置いて、貴重品など必要なものを持って部屋を出る。

 そして、先生たちからの注意事項の話も終われば、ようやく解散して、自由行動である。


「よっし、じゃあ行きますか」

「だねー」


 私の前に居る子たちが話しているのを聞きながら、携帯のマナーモードを解除しておく。


「桜庭さーん、仁科さーん。早く行こうよー」

「時間、無くなっちゃうー」

「あ、うん」

「今行くよ」


 仁科さんと共にそう返して、そのまま彼女たちの方へと歩いていく。





 だから、あまりにも距離があったために、気づくことはなかった。


「……」

「何見てんだ?」

「……別に。何でも良いだろ」

「お。あれって、もしかして、もう一つの学校の奴ら?」

「ほら、もう行くぞ」


 クラスでの自由行動を始めた私たちを、見ている存在が居たことをーー



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