CHAPTER,8
なんか早速声をかけられたっぽいぞ?
まぁまだこの時点では確信はないが。
だから僕は振り返ったんだ。相手が話しかけたのが本当に僕かどうかを確認するために。
「あの?」
「おーやっぱ可愛いね君。どう?見たところ初心者みたいだし、俺達とパーティ組まない?
こう見えて俺たち結構強いんだぜ?」
二人組の男だった。金髪のいかにも、なチャラ男に、僕と同じ黒い髪の男。どちらも作りこまれた感のあふれるイケメンである。
化身を作るときは、自分で自由に顔をいじることが出来るため、周りを見渡しても美形ばかりだ。しかし、ちゃんと考えていじらないと、どうにも微妙な顔になってしまう。ただパーツが良ければいいという訳ではないということだ。
やはりそこら辺の調整は難しいようで、所々そういったプレイヤーもいる。
因みに二人の装備は先程見た正規版からのプレイヤーたちとは違い、ある程度整っている。
「結構です」
なんだ、よくある勧誘か。と思い当たり障りのないように、短く答える。
ぶっちゃけた話、僕は人が少し苦手だ。理由は色々あるが……まぁ今はいいだろう。
とりあえず僕が何を言いたいかというと、マルや騎士以外の人とはなるべく関わりたくない。
これが廃人が身近にいて、ゲームが嫌いなわけでもないのにMMOに今まで手を出さなかった理由である。
が、男達はさらに言い寄ってくる。
「いいじゃんよ。
あ、もしかして警戒してる?だいじょーぶだって!何もしないから、さ。な?」
な?じゃねーよ。何もしないのは当たり前だろう。考えもしなかったわ、そんなこと。
この時点で十分僕の中ではウザい人認定がされていたのに、なおも男達は言う。
あのパーティはどうだの、俺達はこうだの、β版のプレイヤーだからどうのetc……。
正直半分も聞いていなかったんだが、所々聞こえるほかのプレイヤーへの中傷には中々イラッとした。
ハイ、こいつらアウト―。
えぇっと、とりあえず。
うっぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!
最初に可愛い君って言われた時点で思ってたけどうっぜぇぇえええ!!
初心者で悪かったな!うっさいわ!
つーか僕は男だよぉぉぉおおお!!!
色々と頭の中で爆発した。
「結構です、もう約束があるので」
もう一度、キッパリと、努めて思ってことを顔に出さないようにして短く答える。
「あ?!トッププレイヤーの俺達が折角誘ってやってるのに断る気か?!!」
なんかいきなり逆ギレされた。
沸点の低さぱねぇ。うざいわぁ……。
っていうか僕最初から断ってたじゃん。
人の話もちゃんと聞けないのか?こいつ等は。
「なんだと?!この野郎!!
人が下手に出てりゃあ調子に乗りやがって!!」
おぉっと、思わず口に出ていたらしい。
テヘペロ☆
っていうかお前ら一体いつ下手に出てたんだよ。気づかなかったよ。
男達が騒いだせいで周囲からも冷たい視線が突き刺さっている。
とか考えていたら、金髪の方の男が腕を振り上げていた。
(殴られるっ)
と思い、避けようとしたその瞬間体が動かなくなっていることに気が付く。
見ると黒髪の男がニヤニヤ笑っている。あいつの所為か。
どうやら街の中は非戦闘エリアなのに、魔法やスキルは使えるらしい。
非戦闘エリアで殴られたら、痛いのかな?
僕の頭に金髪の男の拳が当たる、と思ったその時。
「そういうのは、やめろよな」
男の声が聞こえた。なんとなく安心する声だ。
思わず伏せていた顔を上げると、赤髪の男が、僕を殴ろうとしていた男の腕を掴みあげているのが分かった。
金髪の男はすぐに手を振り払う。
「もしかしてお前らが噂の準・犯罪行為者か?
β版の方でも散々迷惑をかけてくれやがって、正規版の方でもこんなことしてたのか」
男達が顔を青くする。どうやらあの男達はβ版でも僕にしそうになったような事をしていたらしい。
そういえばマルがサイテー奴らがいるって怒ってたな……。こいつらの事だったのかな?
っていうか、この赤髪の顔…………もしかして……。
「因みに、正規版では異性のプレイヤーには二つの障害があって、気軽に触ることは出来ないぞ。
その二つの障害を取り除かない限り、異性のプレイヤーには触れない。
まぁこれは、セクハラ防止のためなんだがな」
β版でのお前たちが原因だよ、と言外に伝えているようだ。
成程。でもあのまま拳が振り下ろされていたら、僕には当たるんだよな?異性じゃないし。
「一つ目の障害は、フレンド登録でなくなる。
二つ目の障害は、フレンド登録をした状態で一度でもパーティを組めばなくなる。
どちらの承諾も自分の意思じゃないとできない様になっている。
因みに、障害がある状態で異性のプレイヤーに無理に触ろうとすると、GMに報告出来る様になってる。
これ等はさっきもう俺が自分のパーティで確認済みだ。
だから、初心者の女性プレイヤーを無理やりパーティに誘い、断られたら暴力に訴えるなんて馬鹿馬鹿しい真似は二度とするな。準・犯罪行為なんてもってのほかだ。
それと、同じ事をもう一回でもしてみろ。俺達が総力を挙げてお前らをここではプレイ出来なくしてやるよ」
障害かぁ。僕には関係ないかな、人とあんまり関わる気無いし。
「ハンッ雑魚が!布装備は黙ってろ!!」
そんなことが出来るわけがないと男達がせせら笑う。
雑魚て、一々うざいな、こいつら。
確かに赤髪の男の装備は、周りのプレイヤーと比べると少々頼りない。
何せ全身布装備なのだ。でも来ているシャツは触り心地がよさそうで、何とも羨ましい。
赤髪の男はそんな笑いを気にした風もなく首を捻った。
「雑魚?猫耳をしてないけど化身はβ版時のままなんだけどなぁ。俺ってそんなに印象薄いのかな?
まぁいいや。雑魚って言うなら【決闘】でもするか、俺に負けたらもうしないって誓えよ」
【決闘】それは非戦闘エリアで相手にダメージを与える唯一の方法である。
一対一から大勢で行う物まであり、設定は自由に変えることが出来る。
ところで猫耳と聞いて、僕以外のプレイヤー―――目の前の男達とついでに周りにいた初心者プレイヤーとβ版プレイヤー―――に衝撃が走る。
どうしたどうした。
「猫耳ってもしかして……!!」
「あの…………?!」
「布装備さんか?!!!」
「いや、猫好きさんだろ?」
ひそひそとした囁き声が段々大きくなっていく。
「ちぃっ!!覚えてろよ!!」
「おいおい、俺は雑魚なんだろ?って、こら!ちゃんとこの子に謝ってけよ!」
周りに人が集まって来てしまったせいて分が悪いと感じたのか、それとも赤髪の男が思いの外有名人だったからなのか、男達は走っていなくなってしまった。
ってお前らは一体どこの三下だよ?!
突然の逃走に一瞬何が起きたのかと呆然としていた野次馬も、男達がいなくなり飽きたのか次第にいなくなる。
中には赤髪の男に声をかけていく人もいたが、しばらくすると、その場には赤髪の男と僕だけが残っていた。
「あ……その、ありがとう」
お礼を言って、正面から顔をちゃんと見る。
「いやいや、どういたしまして」
へへへっと、照れたようにはにかんだ顔、頭をかいたその仕草。やっぱり……。
「なぁお前、騎士だろ」
赤髪の男が目を丸くする。どうやら当たってたみたいだな。
「なんで……」
「あっきれたー。お前、幼馴染の顔も忘れたのかよ?」
「お前……まさか夜人?」
本当にわかってなかったみたいだな。ちょっと傷ついたぞ。
「そ、さっきはありがとよ。ちなみに僕はこっちではタカだから」
「うわぁ。お前……マルちゃんが楽しみにしておけって言ってたからどんなのになったのかと思ったら。なんというか…………。
ちなみに俺はこっちでもナイトでやってるから」
「やっぱり先にいたナイトはお前か。
僕もそれにしようと思ったんだけど、前にもう使ってる人がいたからタカにしたんだ」
「わは、ごめんな。俺、β版の時からこれだからさ」
「まぁいいんだけど。で、なんというか…………なんだよ?」
ちょっと気になったことを聞いてみると、
「え?あぁ、お前はリアルでも美人だったけど、こっちに来てさらに輪をかけて美人になったなと思ってさ」
さっすがマルちゃんと血が繋がってるだけある!と笑顔で答えられた。
こいつ…………人が気にしてることを。
「うるさい禿げろ」
「ひでぇ。そういえばなんでタカは俺の事わかったんだ?リアルとは多少違うと思うんだが……」
「あぁ、リアルではお前目つき悪いもんな。それが少し改善されてたからちょっと自信なかったんだけど、まぁ幼馴染の顔くらい普通わかるだろ、普通」
普通、を強調して言ってやった。分からなかったお前が悪い。
「うぅっ。悪かったって!でも助けてやったんだからいいだろ?」
そうだよ、そういえば。
「なんで助けてくれたんだ?」
「いや、普通助けるだろ……っていうかホント言うとなんかお前に似てるような気がしたからです、はい」
普通……それが普通なんだろうか?僕にはよくわからないけど。
「はぁ……。お前ホント……変わらないな」
溜息をつきながらナイトの肩に手を置こうとしたその時―――――、
「えっ?」
二人の声が重なる。
二人の視線はある一点で止まっている。
ナイトの肩におこうとした僕の手が、宙に浮いていたのである。
「えっ?おい、これどういう事だ?
同性同士は障害がかかってないはずだよな?!」
「そのはずなんだけど……もしかして」
考え込むように目をつむるナイト。
「なんだよ、わかったのか?」
「あぁ、多分。
それよりタカ。俺とフレンド登録をしよう」
「え?うん、いいぞ」
答えるや否やメッセージが送られてくる。
フレンド登録は、登録した相手のログイン状態が分かったり、連絡が取れたりする優れものである。
―――ナイトさんからフレンド申請が届きました。どうしますか?Yes/No
迷わずYesを選択する。
「で?どうしたんだよ」
「まぁまぁ、次は俺とパーティ組んでくれ」
「…………。よし、組んだぞ」
「ん。ちょっと俺に触ってみろ」
ナイトが腕を差し出してくる。
「触ってみろってお前……さっき触れなかっただろ…………ってあれ?」
触れた。手にはナイトが身に着けているシャツの感触。つるつるしていて触り心地がいい。やっぱり僕の目に狂いはなかった!!
っていうかホントにここのスタッフ細かいな……。
じゃなくて、
「なんで……?」
「多分、だけどな、タカ」
ナイトは少しだけ言いにくそうな顔をした後、ヘラッと笑って言った。
「お前の化身、女性用のやつなんだよ」
……………………。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!????」
「タカうっさい」
絶叫である。
確かに僕はちょっと女顔だけど!小さい頃とかよく女の子に間違えられたけど!学校でも男子から告白されたことあるけど!女性用雑誌のモデルになりませんかって言われたことあるけど!
まさか僕のコンプレックスを的確についてくるとは……このゲームやりおる。
でも!でも!でも!!
「このゲームって性別詐称は出来ないんじゃないのか?!!」
そう。『セブオン』は、脳波から性別を判断し、設定されるので、自分で性別を選ぶことは出来ないようになっている。
なのに何故……?
「まぁ、気にすんなよ。たまにいるんだよ、そういうゲームに誤認されて性別が違っちゃう奴。俺の知り合いにもいるぞ。
それに化身が女性用でもゲームの内容的にはあんまり影響ないから!な?」
目に見えて落ち込む僕を心配したのかナイトが優しく声をかけてくれる。
目つき悪いのにこういう気配りが出来るからこいつはリアルで女の子にモテるんだよなぁ。
でも……そうか。僕の脳波はそんなに女の子よりなのか……。なんか泣ける。
「そうか……僕の他にもこんな誤認をされて苦しんでる人がいるのか……」
是非お友達になりたい。とか、対人が苦手なくせに考えてしまうほど堪えていたらしい。
「あ……いやどうだろう。あいつはむしろ喜んで楽しんでたような……」
ナイトが首を捻って何やら言っていたような気がしたが、下を向いてブツブツ呟いていた僕には聞こえなかった。
「とりあえずマルちゃんも待ってるだろうし、噴水の所まで行こうぜ」
ナイトの気を取り直すような声を聞いてやっとマルとの約束を思い出した僕は、化身の事は考えないようにして、噴水へ向かうことにした。
今回はちょっと長めでした。
たぶん次からはもっと短いと思います……。
因みに、ゲームの顔補正は、いじればいじるほど少なくなります。
さらに障害については非戦闘エリアでの話です。
戦闘エリアでのPKやセクハラは可能です。
内容に変化はないですが、多少文体を直しました。